三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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Interlude

Interlude<XXXV>

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「驚くよ♡♡ すごく嬉しいけど、確かにわたしが難しく考えすぎてるだけで、思い立ったらすぐできちゃうかもしれない……♡ けど、やっぱりそれはんじゃないかなぁ?♡」

 少しでも気を紛らわせるために、テーブルの上のお皿をひとつひとつチェックしていく。

 フロランタンにマカロン、レーズンサンド。それから、チョコレートの乗ったお皿が数枚。たぶん、わかりやすいようにお店ごとに分けて出してくれてあるのだと思う。

けど……♡♡」 
 
「…………ん?」 

 短く発された声に顔を上げると、彼が大きな瞳をぱちくりさせていた。つややかで煌びやかなチョコレートにも負けない輝きに怯みそうになる。

(変なこと言ったとかじゃなくて、彼が冗談のつもりで言ったことを真に受けちゃっただけ? 『忘れて』って言っても、彼にはもう聞かれちゃってるから意味ないし!)

 少し首を傾げると、彼も鏡映しのように同じだけ首を傾けた。

「……ああ♡ そういうことね?♡♡ うんうん♡ そっかそっかぁ……♡♡」

 そのままの状態で見つめ合うこと数秒。先に口を開いたのは彼のほうだった。
 
「そういうことって、どういうこと?」

 彼はしきりに頷いているけれど、こちらのほうはというと、現在の状況がまったく掴めていなかった。

「いや、考えてみれば、っていっぱいあるよな~と思って♡」

 口元を隠して笑う姿は、わたしよりも断然お淑やかだ。

「うん。紛らわしいよね?」 

「そう。んだ。『雨』と『飴』とか、『雲』と『蜘蛛』くらいかけ離れたものだったらいいけど、口頭だと一瞬で判断できない言葉も多いよね♡」

 しなやかな指が正方形のチョコレートをひと粒持ち上げ、そのまま口元に運んでいった。綺麗な形の唇を眺めていると、彼がそのお皿の上を指して親指を立てた。

「おいしい?♡ じゃあ、わたしもひとつもらおっと」

 彼の口に放り込まれたチョコレートの隣にあったものをひょいと摘んで、見守られながら頬張る。こそばゆくて考え事どころではなかった。
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