上 下
72 / 128
Interlude

Interlude<XXXII>

しおりを挟む

「だよね?」

 やはり彼はいちばんの理解者だ。嬉しくなって身を乗り出したけれど――――。

「でも、きみに奢りたくなる気持ちはめちゃくちゃわかるなぁ♡♡ なんでもおいしそうに食べてくれるし、お礼言うときの顔もかわいくてさ……♡♡」

 次の瞬間には手のひらを返して、窓華ちゃんに同調し出した。蕩けるような瞳に捉えられて身動きが取れなくなるのを恐れ、椅子に深く座り直す。

「…………それ、わたしの前で言うことだった……?♡」

「んー……。他の奴にも自慢と牽制兼ねて惚気ることはあるけど、やっぱりこういうのは本人に言わないと意味ないんじゃない?♡♡ 植物の実験の有名なやつ。知ってるでしょ?♡」

「褒めてかわいがると、健康に育つんだっけ?」
 
「そう♡ それ♡♡ きみはいまもうすでに文句のつけどころなんてないくらいにかわいいけど、『かわいい♡』って言い続けたらもっともっとかわいくなるんじゃないかな?♡ ……まぁ、本当はそういう効果を期待してとかじゃなくて、つい口を衝いて出ちゃうだけなんだけどね♡♡」 

 なにもかもがスマートな彼の褒め言葉が惜しみなく降り注ぐ。如雨露から水を、あるいは天から恵みの雨を受ける花壇の花になってしまったような気分だ。

(だけど、彼の言葉がお世辞じゃないって信じられるのは、きっと――――)

「でも、きみがめちゃくちゃかわいくなった姿で俺の前に現れてとであってくれたのは、窓華ちゃんのおかげなんじゃないかと思ってて。さっき話したお花の実験と同じでね」

 思考を読まれてしまったかのような発言に胸がきゅっと疼いた。

「確かにそうかも……? 窓華ちゃんも君と同じくらいたくさん『かわいい』って言ってくれるし、褒め言葉のバリエーションも豊富だし」

 言葉ではない部分で通じ合っている感覚に口元が緩んで。それと比例するように、言葉数もいつもより少しだけ多くなる。

「なるほど。俺も負けてられないな……!」

「え? いまの対抗心燃やすとこだった? 窓華ちゃんのことは大好きだけど、君を大好きなのとは種類が違うというか……。大好きなふたりに争ってほしくないというか…………!」

「冗談は置いといて♡ わかってるわかってる。窓華ちゃんは貴重な味方だし、結託すべき相手だと思ってるよ。敵対するんじゃなくてね」

 おろおろしているわたしを見つめる彼は、穏やかな微笑を浮かべていた。
 
 季節がもう少し早ければ、夕焼けに照らされてよりいっそう美しかっただろうに、日に日に日は短くなって、窓の外の世界はすでに夜に足を踏み入れている。

「よかったぁ」

 ――――ここにいられるのは、長くてもあと1時間程度。きっと30分もすれば、彼はわたしを家まで送り届けるために上着を羽織り出すだろう。

(もっと一緒にいたいなぁ……♡♡ 夜がいちばん深くなって、次に空が明るくなるまで、君といられたら……)

 自分でも、彼とどこまで進展することを望んでいるのかがはっきりわかっているわけではない。

 ただただもっと長い時間をともに過ごしたくて、離れがたくて。彼のカップの中身と似たような色をした髪を人差し指に巻き付けて、恋する瞳で見つめ続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

高級娼婦×騎士

歌龍吟伶
恋愛
娼婦と騎士の、体から始まるお話。 全3話の短編です。 全話に性的な表現、性描写あり。 他所で知人限定公開していましたが、サービス終了との事でこちらに移しました。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

処理中です...