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Interlude
Interlude<XXIV>
しおりを挟む「君がわたしのはじめての彼氏だったらよかったのにね……」
いま思えば、この反実仮想は最も端的に、そして最も効果的に夢の内容を伝えていたのではないかと思う。
「…………きみの夢に出てきて、きみをまた苦しめてるのは、元カレなんだね? そのうちの何人がつらい思い出になってるかはわからないけど……」
彼はきわめて断定的な問いかけを投げて寄越す。まだ夏の残り香のする季節だというのに、底冷えするような声だった。
「……そう。最近、なんでか元カレたちの夢を見るの……。ごめんなさい。いま、わたしのそばにいて、いままで出会ってきた誰よりもわたしのことを想ってくれてるのは君だって、ちゃんとわかってるつもりなのに」
夢は潜在意識の反映だなんて言うけれど、わたしはその説には懐疑的な立場を取っている。
飛び降りる夢や追手から逃げる夢を見る人は多いと聞くけれど、現実で同じ体験をしたい物好きは少数だろう。
『余裕のない日々を送る当事者の疲弊した精神が、そういった象徴に置き換わっている』――――というのであれば頷ける部分もあるけれど、どちらかといえば、就寝中に行われるという記憶の整理に関係している気がする。
「元カレたち、か…………」
彼の声がくぐもって聞こえたけれど、いまは考えるのに忙しくて、頷くだけで手一杯だ。
――――まず、前提として、記憶というのは圧縮ファイルのようなものだとわたしは考えている。必要に応じて解凍するか、もしくはなにかのきっかけがない限りは、そのまま眠っているものだ。
当然、劣化や破損も避けては通れないけれど、それが救いになることも往々にしてある。
彼は『一日の記憶を定着させる』という観点から、睡眠が大事だと説いていたけれど、その日の分の記憶を書き加えることにプラスして、これまでの人生で起こった出来事の記録も、ランダムで――あるいはなんらかの規則性に基づいているのかもしれないけれど――整理されているのではないだろうか。
その過程で、必要な記憶と不要な記憶を選り分けるフェーズが発生するはずだ。
そして、そういった記憶の選別を行うために、睡眠中には本人の意識とはまったくの無関係に記憶の解凍がなされることがあるのではないか。
それこそが『望まずして見てしまう悪夢の正体』なのではないか――――というのがわたしの持論だった。
とはいえ、彼も同じ考えを持っているとは限らない。祈るような気持ちで次に続く言葉を待った。
「夢の内容なんてコントロールできないよ。忘れてたかったことを思い出すことなら、普通に起きてるときだってあるでしょ。記憶の蓋も夢の内容と同じ。ヒトは色んな出来事を結び付けて記憶する生き物だからね、なにがトリガーになるかはわからない」
しかし、すべては杞憂だったようで、彼は幼子を寝かしつけるときのように、とんとんと背中を優しく叩いてくれた。
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