三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

Interlude

Interlude＜XIV＞

　お昼休みも下校時も、放課後の勉強タイムも。大好きな彼とふたりで平和に幸せに過ごしたはずなのに――――。その晩もまた、夢を見た。

（今日も楽しかった♡）

　『今回は悪夢でなければいいなぁ』と思ったけれど、透明な箱に入ったプレゼントを開けるようなもので、夢が始まる前から『わたしは今夜も悪夢を見ることになるだろう』という薄ぼんやりとした予感はあった。

（どうせ夢を見るなら、夢のなかでも彼と会えたらいいのにって思うけど、したいことが夢で叶っても虚しいだけかもしれないし。どんな内容だったか覚えてないくらい熟睡できたら、たぶんそれがいちばんいい……けど、そんなに都合よくいかないよねぇ…………）

　夢から脱出するさめる方法なんて皆目見当もつかなかったし、わかっていたところで試そうともしなかったかもしれない。

（……いまならまだ強引に起きられるけど、起きたくないなぁ）

　わたしはそれだけ疲弊していた。起きているときはわからなかったけれど、どうやら精神的にもかなり疲れているらしく、考える気力も湧いてこない。指を動かすのすら億劫だ。

（勉強じゃないデートがしたいなぁ……。お出掛けして、おいしいもの食べて、帰り際にキスをして……）
　
　――――というのに。何気なく手元に視線を落としたら、わたしはシャーペンを握っていた。今宵の夢はすでに始まっていたらしい。
　
　『夢のなかでも勉強なんて、わたしにも案外真面目なところがあったんだなぁ』とペンを置いたとき、短く切られた、磨きもしていない爪が目に入った。

　常に一定の長さを保ち、ぴかぴかに磨き上げている現在の爪とは似ても似つかない――――。

（！　また昔の夢……）

　問題集を解いていたようなので、確認してみたところ、ノートにはやはり中学生で習う範囲の数式が並んでいた。
　
　

　――――人生ではじめて彼氏ができたのは、中学生のとき。

「ずっと気になってて……。よかったら付き合ってくれねぇかな」
　
　学区の違う人に通学路で告白されて、そのとき偶然居合わせた女友達に言われるがままに告白を受けた。

　ある人はドラマティックと評するかもしれないし、違う人は作り話だと鼻で笑うかもしれない。人生最初の恋愛は、そんなふうにして幕を開けた。
　
　わたしはとても優柔不断で流されやすかったから、しっかり自分の意見を持った人と行動するのがいちばん安心だった。
　
　わたしが延々と悩んで決められないことも、そういう人なら瞬時に答えを出してくれるから。あらゆる考え事を避けてなにもかんがえなくても生きられるから。
　
　すべて他人に委託していたあまえていた。――――その行動こそが自分を追い込んでいるとも気付かずに。