53 / 85
Interlude
Interlude<XIII>
しおりを挟む「ティータイマーって言えば、わかるんじゃないかな?」
彼は、水筒――――では語弊がありそうだから言い直すと、茶こしの付いたタイプのティーボトルの蓋を開けた。
今日は少し茶葉を多めに入れたのだろう。紅茶の色がいつもより濃くて鮮やかだ。
「……あ、紅茶の蒸らし時間を計る用の時計が欲しいってこと?」
向かいからは、すっかり鼻に馴染んだ、彼のお気に入りだという茶葉の香りが漂ってくる。
「そう♡♡ ひとつあれば、なにかと便利じゃないかと思うんだよね。使わないときはインテリアにもなるし、コーヒーの焙煎時間も計れるし♡」
お洒落なキッチンの一員に加えても違和感のない砂時計を選ぶというのは、なかなかに難度の高いミッションのような気もしたけれど、彼の家に飾ってもらえるとなると、ますます気合いも入るというものだ。
「ああ! 確かに、普通の時計だとちょっとわかりにくいかも。デジタルでもアナログでも」
この前、花嫁修業の一環としてパスタを茹でたときのことがよみがえってきた。
いまは電子レンジで調理するのも主流になってきたけれど、一度も経験がないというのもどうかと思い、チャレンジした。
――――まではよかったのだが、うちにはひとつもデジタル時計がなく、また、なんの計画もなく思い付きで始めてしまったせいで、キッチンのシンプルなアナログ時計を頼りに調理せざるを得ず、結果的には茹ですぎてぶよっとした麺を食すことになった――――という事件があった。
「ストップウォッチ使うのもなんとなく合わないでしょ? 紅茶とかコーヒーとか淹れてひと息つきたいのに、ずっと文字盤と睨めっこしてたら余計疲れちゃうし。せっかくきみが眼精疲労に効くサプリまでくれたのにさ」
目を閉じた彼は、いい香りで束の間の安らぎを得ているのだろう。その姿さえ絵になった。
「そうだね。……じゃあ、君に渡すクリスマスプレゼントは砂時計……ってことでいい?」
オーソドックスな砂時計も似合うけれど、天球儀のようなデザインのものはもっと似合うかもしれない。
「うん♡ そのくらい自分で選べって思うかもしれないけど、ずっときみに選んでほしいと思ってたから、それでよろしく!」
「君にぴったりな砂時計探すの楽しそう! わたしも思いついたらすぐ希望出すから、待っててね?」
彼の家のキッチンのインテリアを思い出しながら、あれこれ考えていると、予鈴が鳴った。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
死にかけ令嬢は二度と戻らない
水空 葵
恋愛
使用人未満の扱いに、日々の暴力。
食事すら満足に口に出来ない毎日を送っていた伯爵令嬢のエリシアは、ついに腕も動かせないほどに衰弱していた。
味方になっていた侍女は全員クビになり、すぐに助けてくれる人はいない状況。
それでもエリシアは諦めなくて、ついに助けを知らせる声が響いた。
けれど、虐めの発覚を恐れた義母によって川に捨てられ、意識を失ってしまうエリシア。
次に目を覚ました時、そこはふかふかのベッドの上で……。
一度は死にかけた令嬢が、家族との縁を切って幸せになるお話。
※他サイト様でも連載しています
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
(完)お姉様の婚約者をもらいましたーだって、彼の家族が私を選ぶのですものぉ
青空一夏
恋愛
前編・後編のショートショート。こちら、ゆるふわ設定の気分転換作品です。姉妹対決のざまぁで、ありがちな設定です。
妹が姉の彼氏を奪い取る。結果は・・・・・・。
えっと、先日まで留学していたのに、どうやってその方を虐めるんですか?
水垣するめ
恋愛
公爵令嬢のローズ・ブライトはレイ・ブラウン王子と婚約していた。
婚約していた当初は仲が良かった。
しかし年月を重ねるに連れ、会う時間が少なくなり、パーティー会場でしか顔を合わさないようになった。
そして学園に上がると、レイはとある男爵令嬢に恋心を抱くようになった。
これまでレイのために厳しい王妃教育に耐えていたのに裏切られたローズはレイへの恋心も冷めた。
そして留学を決意する。
しかし帰ってきた瞬間、レイはローズに婚約破棄を叩きつけた。
「ローズ・ブライト! ナタリーを虐めた罪でお前との婚約を破棄する!」
えっと、先日まで留学していたのに、どうやってその方を虐めるんですか?
私のことを嫌っている婚約者に別れを告げたら、何だか様子がおかしいのですが
雪丸
恋愛
エミリアの婚約者、クロードはいつも彼女に冷たい。
それでもクロードを慕って尽くしていたエミリアだが、クロードが男爵令嬢のミアと親しくなり始めたことで、気持ちが離れていく。
エミリアはクロードとの婚約を解消して、新しい人生を歩みたいと考える。しかし、クロードに別れを告げた途端、彼は今までと打って変わってエミリアに構うようになり……
◆エール、ブクマ等ありがとうございます!
◆小説家になろうにも投稿しております
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる