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彼と彼女の放課後
彼と彼女の放課後<Ⅲ>
しおりを挟む「大好き♡♡」
すらっとした身体にハグする代わりに、質問への回答を兼ねた告白で返した。
『お砂糖たっぷりで甘いミルクティーが大好き』なのはもちろん、わたしはそれよりもっと『君が大好き』。きっと気付いてくれたよね?
火や刃物を使っている最中の人に抱き着くのは危険だからというのもあるけれど、わたしから抱き着くのは恥ずかしいというのが主だった理由だ。
そう。キッチンに立っていようがいまいが、わたしのほうからスキンシップを図るなんてレア中のレアだった。
「今日は他になに入れる?♡♡ 蜂蜜がいいかな?♡ メープルシロップ?♡ バニラエッセンス……は切らしてたかもだけど、好きなの選んで♡ 上に生クリーム乗せてもおいしいよね♡♡」
彼はわたしの前に甘味料を並べていく。甘いものに目がないわたしには甲乙つけがたいラインナップだ。
「迷うなあ……。決まらないから、君のおすすめでお願いしてもいい?♡」
「OK♡ 俺のおすすめだったら、やっぱりこれかなあ♡♡ 教え合いしてると、いつも以上にたくさん喋るから、喉のケアもしておきたいもんね♡」
彼は、蜂の巣を象った六角形のどっしりした瓶の蓋を軽々と捻って開け、V字型のスプーンで粘度を持った綺麗な金色の液体をたっぷりと垂らしてくれた。
「この蜂蜜おいしくて好き♡ パンケーキにたっぷりかけるのもいいよね」
「わかる! パンケーキっていえば、試験終わったら駅前にオープンしたパンケーキ屋さん行かない?」
「行きたい!」
甘い匂いに包まれて、束の間でも勉強のことを忘れられるラブラブなティーブレイクになるかと思ったけれど――――。
「きみ、本当に進学しないの?」
まだ熱い紅茶をふうふう冷ましている彼が切り出したのは、一気に憂鬱な気分に引き戻されるような話題だった。
彼は甘い飲み物が苦手というわけではないらしいけれど、『紅茶は無糖でストレートがいい』と常日頃から言っているし、コーヒーだって大体なにも加えずにそのまま飲むことが多い。
他人の好みに口出しする気なんて毛頭ないけれど、カップの中身の色の違いは、そのままわたしたちの性格や価値観の違いを反映しているようで、ほんの少し寂しい気持ちになることがあったりなかったりした。
……嘘。そういうことは結構な頻度であった。
「しないよ。その質問、今月だけで何回め? わたしの親より親みたい……」
多忙な両親がわたしのことに無関心なのは、いまに始まったことではない。進路のことなんて、一年の頃に一回訊かれたきり。
進路に限った話ではないけれど、いま目の前にいる彼氏のほうが、よほどわたしのことを気に掛けてくれている。
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