我々はうさぎではないので、乙女座の我が子にはまだ巡り逢えない

HONEY BUNNY

HONEY BUNNY<CCLXXII>

「…………あ、そっか♡♡ い・い・も・の・があるんだった♡♡」

　ぴたっと手を止めた彼が、ひょいっと起き上がる。
　
「いいもの？♡♡」

　それがなにかもわからないうちから、弾んだ声につられて、ちょっぴり浮かれた気分になる。

　パウンドケーキのようにふかふかなマットレスも、トランポリンよろしくご機嫌にバウンドして。

「そう♡ 取ってくるから、ちょっといい子で待っててね？♡ ド・ー・ピ・ン・グ・させて♡♡」

　軽く畳んだバスローブには目もくれず、素っ裸でベッドを下りた彼が真っ直ぐ向かった先は、冷蔵庫だった。
　
　そして、キッチンに置いてある超大型冷蔵庫と比較すれば断然小さいけれど、寝室に置くにしては大容量といっていいだろうその扉を開き、ひょいひょいと迷いなくなにかを取り出していく。
　
　遠目に見えるそれらは、どれも小さな瓶のようだった。

　彼は、時折ぶつかり合って音を立てる数本の小瓶をトレーに置き、少し考えてからその中の一本を戻した。

「ドーピング？♡」
　
「こういうのだよ♡ まぁ即効性のあるものじゃないし、そもそも効果があるかどうかもわからないけどね♡」

　あっという間に戻ってきた彼は、ひときわ目立つ一本を手渡してきた。　

「…………これって、もしかして……♡ 男の人が長持ちする飲み物……？♡♡」

　禍々しいパッケージに印刷された直接的な商品名といかにもな成分に目を走らせ、ホログラム加工されたサソリをなぞる。

「大当たり♡♡ でも、精力剤のこと、そんなにかわいく言えるのきみだけじゃない？♡」

「そんなことないと思うけど……、ん……っ♡♡」
　
「まぁまぁ♡ みんな好きな子とは何回もシたいってことだね♡♡ 俺も使うのは昨・日・が・初・め・て・でさ、気になったやつはひと通り買ってみたんだけど……♡ 一気に飲むわけにもいかないから、こんなにいっぱいあるってわけ♡♡ 冷蔵庫の何割か……いや、半分以上かな？　占領しちゃった♡ ごめんね？♡♡」

　彼は否定しようとしたわたしの口を塞いだあと、無邪気に白状した。