我々はうさぎではないので、乙女座の我が子にはまだ巡り逢えない

HONEY BUNNY

HONEY BUNNY<CXLVIII>

「ありがと♡ 回復したら、今度はきみのほうが待ちきれなくなっちゃったみたいだね？♡♡」

　彼は顔を左右に動かしてじゃれついてくる。
　
　子猫のように愛らしい仕草に微笑ましくなるけれど、その奥に隠した獰猛な本能をわたしは知っている。

「……そうだよ♡ ねぇ、抱いてくれないの？♡♡ 強引に襲っちゃうみたいなこと言ってたくせに、ほんとはお話しながら待っててくれたのわかってるんだから♡♡」

　腰を浮かせ、唇を寄せて。ふたりがひとつになるまでの秒読みを。
　
「なんのことかな？♡ 俺の話が長いせいで結果的にそうなっちゃっただけだよ♡♡」

　耳たぶにはほんのり赤みが差している。照れ隠しの嘘ほどかわいいものはない。

「じゃあ、そういうことにしておいてあげるから……♡」

　とぼける彼を急かすように、逞しい身体を撫で回す。
　
「『いいから早くして』って？♡ 大胆だなぁ♡♡ でもさ、次もまた特になにも決めないで、疲れるまで続けるだけでいいの？」

「えっと、あなたはそれじゃ嫌？　わたしはあなたと抱き合ってるだけで幸せだけど……」

　発言の真意が測れずにまばたきを繰り返していると、目を眇めた彼から飛び出したのは思いもよらぬ言葉だった。
　
「そっか♡♡ きみがいいって言うならそれもいいけど、ちょっと趣向を変えてみない？　例えば、『明日死ぬつもりで愛し合う』なんていうのはどうかな？」
　
「……明日、死ぬつもりで？」
　
「そう。『どうせ明日には終わる命』だとしたら、悔いの残らないようにしようって思うんじゃない？　最後だから全力で愛し合えるっていうか……」

「すごくいいと思うけど、どうして？」

　彼は決して無意味な行動は取らない。ということは、その提案にも必ずなにか意図があるはずだ。　

「…………たぶんだけど、き・み・は・ま・だ・全・部・を・俺・に・見・せ・て・く・れ・て・な・い・から。隠そうとしてるとかそういうことじゃなくてね、ひと言で言えば真面目すぎるんだよ。まだ完全に理性のブレーキを手放せないでいる」

　彼はそこで言葉を切って、じっとこちらの反応を待っている。

　昨日からずっと、わたしの理性は働いていないと思うけれど。頭を捻って懸命に思い出そうとしたものの、浮かんでくるのは本能のままに彼を求めた記憶ばかりで。