222 / 533
HONEY BUNNY
HONEY BUNNY<CXXXVI>
しおりを挟む「『俺がきみと離れてるあいだも一緒にいられていいなぁ』程度で済めばいいんだけど、嫉妬しちゃったら……って考えると、ものすごく怖くてさ」
「あなたがやきもち……?」
信じられなくて聞き返せば、彼は深々と頷いた。
「妬くはずないって思ってる?」
「意外っていうか、想像つかなくて。わたしの恋愛対象になりそうな人相手に嫉妬するならまだわかるけど」
「……きみの恋愛対象になりそうな人って? そんなの俺以外いなくない?♡」
独り言じみた感想にも、彼はおかしそうに切り返してくる。腕の力は緩んでいた。
「すごい自信♡♡ だけど、本当にそうだね。わたし、いまさらあなた以外の人に恋なんてできないもん♡♡」
自信たっぷりな物言いに安心して、心臓の上に何重ものハートの形を描く。
「だよね♡ もし万が一、きみがぐらついちゃうくらいのいい男が現れたとしても、何度でも惚れ直させてみせるから大丈夫♡♡」
彼は擽ったそうにしながらも、ばっちり決め顔で言い放った。
「……だけど、そういう一時的な気の迷いとは違って、子どものことを第一に考えなくちゃならない期間って相当長いよね。お腹の中にいるあいだもそうだし、無事に生まれてもそこで役目が終わるわけじゃない。自然界の動物だったら産みっぱなしってこともあるだろうけど、俺たちは人間だからね。むしろそこからが本番だ。その子をきちんと育てていく責任がある」
それは『子どもを持つ』という選択肢を前にして、いつまでも踏ん切りがつかなかった理由でもあった。
大好きなひととの愛の結晶を少しも望んでいないわけではないし、彼となら『Happily ever after』に辿り着けると信じている。
「それでも、子どものお世話をしてるところ見て『きみのこと取られた』なんて思わないとも限らないし。もちろん任せきりにはしないけど。そういう気持ちって、どんなに気を付けてても態度に出ちゃうものだと思うし。そのせいで子どもに親の顔色窺わせて機嫌取らせるのもダメでしょ」
それでも、わたしはそのかつて普通とされてきたその生き方というものが、ふたりだけのどこまでも閉じた世界に勝る幸福になどなりえない気がしていた。
「そうだなぁ、五年……じゃ短いか。十年弱くらいかな、手のかかる時期って。でも、十年って結構長いよ。死ぬまでのあいだ、ずっときみを独占していたい俺にとっては『気の遠くなるような時間』って言ってもいいかもしれないね。堪え性がないって言われればそれまでなんだけど」
わかっていた。彼はわたしに永遠の愛を誓ってくれているのだと。
「…………そんなの、やだ」
しかし、気付いてしまった。わたしにとっての『永遠』と彼にとっての『永遠』は別物なのだと。
0
お気に入りに追加
103
あなたにおすすめの小説
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
初対面の婚約者に『ブス』と言われた令嬢です。
甘寧
恋愛
「お前は抱けるブスだな」
「はぁぁぁぁ!!??」
親の決めた婚約者と初めての顔合わせで第一声で言われた言葉。
そうですかそうですか、私は抱けるブスなんですね……
って!!こんな奴が婚約者なんて冗談じゃない!!
お父様!!こいつと結婚しろと言うならば私は家を出ます!!
え?結納金貰っちゃった?
それじゃあ、仕方ありません。あちらから婚約を破棄したいと言わせましょう。
※4時間ほどで書き上げたものなので、頭空っぽにして読んでください。
【完結・R18】結婚の約束なんてどうかなかったことにして
堀川ぼり
恋愛
「なに、今更。もう何回も俺に抱かれてるのに」
「今は俺と婚約してるんだから、そんな約束は無効でしょ」
幼い頃からクラウディア商会の長である父に連れられ大陸中の国を渡りあるくリーシャ。いつものように父の手伝いで訪れた大国ルビリアで、第一王子であるダニスに突然結婚を申し込まれる。
幼い頃に交わしたという結婚の約束にも、互いの手元にあるはずの契約書にも覚えがないことを言い出せず、流されるまま暫く城に滞在することに。
王族との約束を一方的に破棄することもできず悩むリーシャだったが、ダニスのことを知るたびに少しずつ惹かれていく。
しかし同時に、「約束」について違和感を覚えることも増え、ある日ついに、「昔からずっと好きだった」というダニスの言葉が嘘だと気づいてしまい──…?
恋を知らない商人の娘が初恋を拗らせた執着王子に捕まるまでのお話。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
真原くんはどうやらBLウォッチを失敗したようです
ネコフク
BL
真原志貴は小6で家の魔窟にあったBL本を見て腐男子として目覚める。それまで気づかなかったが家族全員腐っていることが判明!そして3年間かけて指導され姉オススメのBL聖地である行成学園に高校から通う事に。
いざBLウォッチするぞと意気込んで学園に行くも寮の部屋の扉を開けた瞬間に同部屋の生徒に「結婚してくれ!」と抱きつかれ、入学式直後に親衛隊が出来、廊下を歩くとジロジロ見られ目立ちすぎてウォッチ出来ない!
山の中にある学校で獣がいるからと空手を習ったのに披露している相手は獣じゃなくて人なんですけど⁉
美人すぎてうまくBLウォッチが出来ずウォッチされる側になってしまう真原くんのお話。
小説家になろうに同時投稿していますが、こちらにだけAIイラストを載せる予定。
大富豪とシンデレラ ~おひとりさま生活を満喫していたら、大企業の御曹司に拾われました。でも、溺愛されすぎて、毎日ドキドキしています~
一ノ瀬 彩音
恋愛
ある日、残業続きで疲れ切っていた美羽は電車の中で倒れてしまう。
しかし、そこへ現れたイケメンが、なんと彼女が勤めている会社の親会社の御曹司だった!
お金持ちで優しくて、仕事もできて、そのうえ、超美形!
そんな彼にいきなりお持ち帰りされ、強引にキスされた美羽は
そのまま彼のマンションへと連れていかれてしまい、
もう、彼なしでは生きていけない身体にされてしまい――!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
家族と移住した先で隠しキャラ拾いました
狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「はい、ちゅーもーっく! 本日わたしは、とうとう王太子殿下から婚約破棄をされました! これがその証拠です!」
ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、そう言って家族に王太子から届いた手紙を見せた。
「「「やっぱりかー」」」
すぐさま合いの手を入れる家族は、前世から家族である。
日本で死んで、この世界――前世でヴィルヘルミーネがはまっていた乙女ゲームの世界に転生したのだ。
しかも、ヴィルヘルミーネは悪役令嬢、そして家族は当然悪役令嬢の家族として。
ゆえに、王太子から婚約破棄を突きつけられることもわかっていた。
前世の記憶を取り戻した一年前から準備に準備を重ね、婚約破棄後の身の振り方を決めていたヴィルヘルミーネたちは慌てず、こう宣言した。
「船に乗ってシュティリエ国へ逃亡するぞー!」「「「おー!」」」
前世も今も、実に能天気な家族たちは、こうして断罪される前にそそくさと海を挟んだ隣国シュティリエ国へ逃亡したのである。
そして、シュティリエ国へ逃亡し、新しい生活をはじめた矢先、ヴィルヘルミーネは庭先で真っ黒い兎を見つけて保護をする。
まさかこの兎が、乙女ゲームのラスボスであるとは気づかづに――
さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずの妻のはずでしたが…~
遠雷
恋愛
「フローラ、すまない……。エミリーは戦地でずっと俺を支えてくれたんだ。俺はそんな彼女を愛してしまった......」
戦地から戻り、聖騎士として英雄になった夫エリオットから、帰還早々に妻であるフローラに突き付けられた離縁状。エリオットの傍らには、可憐な容姿の女性が立っている。
周囲の者達も一様に、エリオットと共に数多の死地を抜け聖女と呼ばれるようになった女性エミリーを称え、安全な王都に暮らし日々祈るばかりだったフローラを庇う者はごく僅かだった。
「……わかりました、旦那様」
反論も無く粛々と離縁を受け入れ、フローラは王都から姿を消した。
その日を境に、エリオットの周囲では異変が起こり始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる