我々はうさぎではないので、乙女座の我が子にはまだ巡り逢えない

HONEY BUNNY

HONEY BUNNY<LXXXII>

「…………そうだね、嫌……なんだと思う。あなたが善意で言ってくれてるのはわかるの。運動と同じ感覚でする人がいるのも。でもね、わたしがそれをしたりされたりするのは、ものすごく嫌」

「……そっか」

「うん。どうしてもスポーツだとは思えないの。あなたとなら、なおさら……。わがままだけど、そんなふうにカロリー消費のためになんてしたくないよ。いつだってあなたには『抱きたいから』『愛してるから』って理由で抱かれたい……。わたしのことが欲しくて欲しくておかしくなっちゃいそうな、全然余裕のないあなたに求められたいの」
　
　彼の胸に縋り付いて覗き込んでも、意外そうに見つめ返されるだけ。

「……ふぅん。きみにはあれがスポーツ感覚に思えちゃった？　ちゃんと伝わってるって自惚れてたけど、俺もまだまだみたいだね。いまきみが言ったこと、全部ちゃんと覚えておいて。あとで検証してもらうから♡♡」

　だんだん深くなっていく笑みは、彼の宣言同様に少々不穏なもので。

「え、あの、別にわたし……」

　『そんなこと思ってない』と言う前に、唇に人差し指で戸を立てられる。

「とりあえずこれだけ言っておくけどさ。きみをスポーツ感覚で抱いたことなんて、いままでに一度だってないよ」

「うん、わかってるよ？」

「でも、きみは体動かすの好きじゃないでしょ？」

「好きか嫌いかでいえば……まぁ」

「俺、結構きみにも動いてもらうけど……俺とセックスするのは嫌いじゃないんだよね？」

　そうは言うものの、女性優位の体位を長時間続けることはなく、彼の動きに合わせて勝手に腰が動いてしまうというのが実態だ。
　
「……好き、だよ」

「よかった♡ だったら、嫌々ジョギングとかするよりそっちのほうがハードル低いんじゃないかなって思って挙げてみただけだから、不安になることないからね？」

「ありがとう」

「さて、誤解が解けたところで……♡ そのためにも、食べておかないといけないね？♡♡ 最後まで俺についてくるつもりなんだったら、補給しないと絶対もたないよ♡ カロリーだってさ、どうせなら好きなもの食べて摂りたくない？♡♡」
　
　彼は再度ケーキの乗ったフォークをわたしの口元に運ぶ。

「それもそう……なのかなぁ？」

　結局、言いくるめられてしまった気がするけれど、ハートのエフェクトが飛んでいる幻覚まで見えそうなくらいラブラブモードの彼を前に、文句など引っ込んでしまって。