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HONEY BUNNY

HONEY BUNNY<LII>

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「それ、昔からずっと言ってるよね」 

 最初に言われたのは、まだわたしたちが結婚する前。それどころか同棲し始めるよりも前、わたしの家のお風呂に初めて一緒に入った晩のことだった。
 
 お風呂場にかけられていたボディタオルをいち早く発見した彼は、わたしに向かって『いつもこれ使ってるの?』と聞いてきた。

「覚えててくれたんだ♡ まぁ何度も言ってることだしね」

 呑気にも『ボディブラシ派なのかなぁ?』とあまり深く考えずに肯定したら、『玉のお肌が傷ついたりしたら大変だよ』と諭され、流れるように素手での洗い方を直々に伝授されてしまった……というのが事の顛末だ。

 あのとき、意外と美容にうるさい彼の一面を知ることができたのはよかったけれど、それまでは一緒に入浴することはおろか、明るくした部屋でのセックスさえやんわり断っていたというのに、一夜にして耐性がついたのだから、とんだ荒療治だ。

「それもあるけど、いちばん最初に言われたときのインパクトが強くて」 
 
 それ以降はボディタオルを没収され、『素手で洗うことに慣れるまで』、『自分でも上手に洗えるようになるまで』と言葉巧みに期限を延長され続けた結果、一緒に入浴するときにわたしのカラダを洗うのは彼の仕事ということで定着してしまった。

「そうなの? そんなに馴染みのない説だった?」 
 
 さすがにいたたまれず、『自分で洗えるから』とやんわり断ろうとしたことも一度や二度ではなかったけれど、のらりくらりと躱され続けることを繰り返し。
 
 一方的に洗われるだけでいるよりは互いに洗い合ったほうがまだ恥ずかしくないのでは……と思い立ち、洗いっこを持ち掛けたところ、あっさり快諾されたはいいけれど、恥ずかしさは弥増しただけだった。しかし、自ら言い出した手前、引っ込めるわけにもいかず、いまに至るというわけだ。
 
「ううん。内容じゃなくて、あなたの言い方が」

 ただ、照れくさいのは相変わらずとはいえ、してもらうことのほうが圧倒的に多いわたしが彼にしてあげられることはひとつでも多いほうがいい。ゆえに、ふたりで過ごすバスタイムを心待ちにしているのもまた事実だった。

「俺の言い方?」

 滞りなく洗い進めていた彼の手がふくらはぎで止まる。
 
「そう。確か『玉のお肌が傷ついたりしたら大変だよ』って言ってたの。『玉のお肌って日常会話で使う人いるんだ……』って思ったから、印象に残ってて」

 いま思うと、そう尋ねてきたときの声は少し怒気を含んでいたような気がしないでもない。

「そんな事言ったっけ? よく覚えててくれたね♡♡」 

 彼は大きな目を三回ほどぱちぱちさせたあと、はにかんで笑った。
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