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HONEY BUNNY

HONEY BUNNY<XXX>

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「…………あのさ、いまので思い出したことがあって。さっき、寝言で『ふたりがいい』って言ってたの覚えてる?」

 ややあって、彼が静かに切り出した。それはわたしが寝入っているふりでこっそり告げた胸の内。心臓がどきりと跳ねる。

「わたし、そんなこと言ってた?」
 
 苦し紛れにとぼけたけれど、本当は一言一句しっかりと覚えている。『ずっとふたりがいい』と、確かにわたしは口にした。……『ずっと』の部分は聞き取れなかったのだろうか。
 
「言ってた言ってた。『子どもがふたり欲しい』か『いますぐ双子が欲しい』ってことなのかなって気になってたから聞いてみたけど……そっか。覚えてないんだったら、夢でも見てたのかもしれないね」

「う……えっと、ごめんなさい。ほんとはちゃんと覚えてて……っていうか、あのとき半分起きてたの」

 肯定してしまおうかという考えが過ったけれど、もうたくさんだ。積もりに積もったやましさに耐えかねて、隠してきた気持ちを正直に打ち明けることにした。

「…………そうなんだ?」

 緊張しているときは実際よりも時間の経過を遅く感じるものだ。いまもそう。ほんの数秒間が空いたあとに返ってきた平板な返事を聞くなり一目散に逃げ出したくなったけれど、深呼吸をして波立った心を強引に落ち着かせる。

「うん。だから、その『ふたり』はあなたとわたしのことで、子どもの数じゃなくて……」

「……ってことは、『ふたりがいい』っていうのは、そのままの意味だと思っていいのかな?」

 彼は背中をさすりながら確認を取ってくれた。
 
「そう。でもね、『赤ちゃんが欲しい』って言ったのも嘘じゃないの。あのときは本当にそれしか考えられないくらい心から強く思ってたし、いまだって……その、あなたにおねだりしたときほどじゃないけど、欲しいとは思ってて」

 背中の感じる温度のおかげで、いまのところはなんとか言葉を繋ぐことができている。

「ころころ言うこと変わって変だよね。ごめんなさい。自分でも情けなくて嫌になるけど、色々考えちゃって……」
 
「その『色々』っていうのは?」

 それまで黙って耳を傾けてくれていた彼が尋ねてくる。手つきと同じように、ゆったりとした柔らかな口調だった。

「えっとね、すごくくだらないことかもしれないんだけど…………」
 
 と、わたしが詳細を語ろうというときだった。浴室に軽やかな声が響く。

「……あ、ちょっと待って。話遮って申し訳ないんだけど、軽くシャワー浴びて一回お湯浸からない?」

 彼が普段と変わらない様子で湯船に誘ってきたのだった。
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