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HONEY BUNNY

HONEY BUNNY<Ⅴ>

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「……っ、はぁ♡ きみの爪、食い込んでるね……♡」

 吐息まじりに彼が呟く。食うか食われるかの一騎打ちのような雰囲気にそぐわない、陶然とした声だった。
 
「あ……! ごめんね、痛いでしょ?」

 整えるのを億劫がっていたわたしの爪は普段より些か長くなっており、角も尖ってきていた。さながら彼の背中は恰好の的。指先に込めていた過剰な力を緩める。

「多少はね。でも、なんでかな。それも嬉しくてさ。俺の背中、いまどんな感じになってるんだろう♡♡ 雪に残る動物の足跡みたいに、きみの小さい爪が刺さった痕が並んでるのかなぁ♡ 自分からは見えないのがちょっと残念だけど……♡♡ この体勢じゃ、きみにも確認してもらえないか♡」

 いまの自分の状態を思い出して頬が火照った。通常の正常位より腰の位置が高い分、奥まで届く、すべてを彼に差し出す姿勢。話題を変えたくて、小さな疑問を投げかけた。
 
「あなたって……キスマークだけじゃなくて、痕付けたり付けられたりするのが好きなの?」

 時間の感覚をなくした頭で考える。そんなやりとりがあったのは数十分だったか、数時間だったか。そんなわたしをよそに、彼は喋りながら納得の行く答えを探しているようだった。

「痕? あぁ……そうだね。きっとそうだ。でも、傷とか痕そのものってより、きみに痛くされるのが好きなのかも♡ こんな言い方だと誤解を招きそうだけど、別にドMじゃないからね」

「わかってるよ。あなたはわたしに意地悪されるよりもするほうが好きでしょ? そっちのほうが生き生きしてるもん♡♡」

 わたしを辱めてきた流暢な台詞の数々も喜々とした表情も、アタマとカラダに焼き付いて離れない。
 
「……あくまでね。きみのこと痛めつけたり苦しめたりするのは嫌だよ? 結果的にそうなっちゃうことは避けられないとしても、なるべくならね。自分の感情に振り回されるのが楽しい……って言えばいいのかな」

 なんて頬を染めて言うけれど、あなたはなにもわかっていない。その瞳には、生殺しにされたままのかわいい妻が映っていないのだろうか。わたしだって、今現在も彼に振り回されている。無害な王子様の顔をして、鬼畜な悪魔の所業。あなたがわたしのためにしていることは、半分くらいが空回り。とっくに要望は伝えてあるのに、天性の焦らし上手なんだから。
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