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HONEY BUNNY
HONEY BUNNY<Ⅲ>
しおりを挟むだからこそ、怖かった。自分よりも大切なひとなら、すでに彼がいる。定員オーバーだ、それ以上は。交わりながら飾らない気持ちを連呼するたび、想いは強く、大きく、そして深まっていく。到底、自分独りで処理しきれるものではない。
彼もまた、その熱情を求めてやまないのは幸いだけれど……。振り落とされないようにしがみつき、濡れた吐息と甲高い嬌声を耳に吹き込んで。半開きの唇で口付け、明け渡した性器で締め付ける。この程度が関の山。
……あとは、なにを。どうしたら伝えきれるのか。凡庸なわたしには、ありふれた手法と紋切り型のフレーズしか使えない。あなたがわたしに夢中になる魔法を、呪文を教えてよ。かわいらしい少女趣味のおまじないではなく、巻き付いて解けない呪いを、どうか。
「ん……っ♡」
中途半端に触れ合わせていた唇から舌を忍び込ませて、逃げ回る舌を追いかける。やっと捕まえた獲物をゆっくり味わっていたら、いつのまにか絡んでいたそれに乱された。
「んんんっ♡ ふ……ぁ、んむっ♡♡」
「はぁ……っ♡ 随分おいしそうに舐めてくれたね♡ 気持ち良かったよ……♡♡」
彼は息を整えながら嘆声を漏らした。このひとが好きで好きで苦しい。でも、この苦しみからは一生救われないままでいたい。わたしの特別なひとは、ただひとり。後にも先にもあなたしかいらないの。
わたしはそのただひとりを愛することにだけ情熱を傾けていたい。ふたりのあいだにできた子を『愛せない』ことが怖いのではなかった。その子のことを『彼以上に愛するようになってしまうかもしれない』可能性に怯えている。
「でも、もっとあなたのこと気持ち良くしたい……♡」
「いまだって気を抜いたら出ちゃいそうなんだけど♡♡ ……ああ、そっか。また欲しくなっちゃった?♡」
心底愛したひととふたりきりで愛を捧げ合う現在の暮らしは、わたしが思い描き、彼とともに作り上げてきた理想の結婚生活だ。自らの手で壊すことなど死んでも望むものか。……それなのに、またしても彼を煽って妊娠の確率を上げてしまう。現実を直視したくなくて、思わず目を瞑った。わたしはひとりよがりな夢を見ている。ずっとずっと。
変われない、幼い生命。わざわざ演じるまでもない。甘い夢に浸って溺れる、大人になれない永遠の少女。それこそがわたしの正体だ。最初から完璧な親はいないけれど、物事には順序があり、飛ばしてはならない段階がある。わたしは親になるよりもまず大人にならなくてはいけない。そんなことはわかっている。ここまで尻込みしてきたのがなによりの証拠だった。
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