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ホーリーナイト・セレナーデ

ホーリー・ナイト・セレナーデ<XIV>

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「…………そっか。きみの場合はポジティブな意味での変化だったんだね。本当によかった……。うん、それなら別に問題は……いや、やっぱり確認しておくべきだよな…………」

 徐々にフェードアウトしていく声をなんとか拾おうと身体の向きを微調整しているわたしに気付いたらしい彼は、耳を覆っていた髪をどけて、ぽつりぽつりと話し出した。

「話の流れでわかってるだろうけど、俺はたまに自分がヒーロー気取りでいらないことしたんじゃないかって怖くなるときがあってね。助けたつもりで、勝手な理想を押し付けて……起こさなくてもいい変化を強制しちゃったんじゃないかって。『これまでの人生はなんだったんだ?』って方向に考える人もいるしさ……。大丈夫? きみはそういうことはなかった?」

 その懸念事項は推測に難くなかった。まだネガティブな思考を追い払えずに下がり眉で顔を覗き込んでくる彼には申し訳ないが、やはり呆れてしまうほどの過保護っぷりがわたしに対して発揮されているのがおかしくて、口角が上がってしまいそうになるのを必死に抑える。

「あなたは自分のしたことについて深く考えていくうちに、だんだんそれが本当に正しいことだったかわからなくなって不安に襲われることがあるんだね」

 思い切って肉体の結合を解く。振り返って真っ先に彼の表情をした。そこに悲壮感はなく、大きな目をいっそう丸くしてわたしの行動を待つ男がいるのみだ。ここからはこちらのターン。してもらってばかりは性に合わない。

「でも、何度でも言うよ。わたしはあなたに救われたの。存在にも十分救われたけど、他の誰でもないあなたの考え方に影響を受けてよかったと思ってる。だって、他人に影響されないで生きるなんて無理だよ。知り合いレベルでもたぶん、ちょっとくらいは」

「きみは素直だから、なおさらそう思うのかもしれないね。……自惚れだったら恥ずかしいけど、きみがどんどん俺に似てきたなって思う瞬間が結構あるんだよ」

 手招きに応じて、筋肉の鎧を纏った前腿に乗り上げる。

「うん。自分でもそう思う。ぱっと出た言葉とか浮かんでくるアイディアとか……最初は『あなただったらこう思うのかな、こんなふうに言うのかな』って想像するだけだったんだけどね。いつのまにか自然にあなた寄りの考えになったみたい。でもね、ちゃんと相手は選んでるつもりだよ。あなたの考え方に憧れて、そうなりたいと思ったから、積極的に取り入れたの。誰彼構わず影響受けちゃうわけじゃないから、誰にもやきもち焼かなくていいよ」

「あはは、先回りされちゃったか。染まってくれてありがとう」

 なんて言って、わたしを見上げるけれど、彼のほうこそ頬を紅潮させている……というのは指摘するだけ野暮だろう。伸ばされた手を取って、指の一本一本を絡めていく。

「…………よかった、やっと笑ってくれた。どんなあなたも大好きだけど、やっぱり落ち込んだり弱ったりすることを、あなた自身は望まないだろうし」
 
「こんなのらしくないなぁって自己嫌悪して、どこまでも気分が落ちていっちゃうね。負のスパイラルってやつ? だから、本当にありがとう」

「どういたしまして。…………でも、まだ言いたいことがあって。よかったら、続きも聞いてくれる?」
 
「聞かない選択肢なんてないよ。ぜひ聞かせてほしいな、きみの声……」

 自由なほうの手に臀部の肉を鷲掴みされ、わざわざ付け足されたひとことに込められた意味とだだ漏れの色欲にあてられる。

「ひゃっ……! もう! そういうのは、あとちょっとだけ待って……?」 

「ごめんごめん。一生懸命なきみがかわいくて、つい」

 と言いつつ、彼の手は鼠径部の往復をやめる気配がない。

「っ……ずるいなぁ、もう」

 気を取り直して話を続けることにした。淫靡な戯れに戻るときを心待ちにしているのは、わたしも同じだ。めいっぱい注がれたはずの精液はもうほとんど残っていない。役目は終えたとばかりに流れ出て、わたしの通ったあとを汚している。奥のほうにとどまっているものがあるとしても、まだまだ足りない。もっともっと欲しい。
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