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ホーリーナイト・セレナーデ

ホーリー・ナイト・セレナーデ<Ⅸ>

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「たとえばだけど、さっき『後ろから突かれたりすると乱暴にされたときのこと思い出す』とか『目を閉じた瞬間に俺じゃない顔が浮かんで怖くなる』とかって言ってたから、視覚が優勢なタイプなんじゃないかなぁって。だとしたら、フラッシュバックしたときになるべく早く確認できるほうがいいだろうし、目隠しで視界奪っちゃったり、顔が見えない体位で長時間したりしないように気を付けようと思ったんだよ。まぁ元からそういうのは滅多にしないけど」

「…………確かに、お顔が見えたら安心していられるよ。でも、視覚情報だけで判断してるわけじゃないの。声とか体温、肌の感触……におい、優しい触り方も、全部から大好きなあなたを感じてる」

 そこまで伝えて咳払いをした。最後まで言い切るのには少し勇気が必要だったから。あとは付け足さなくても十分かと考えもしたけれど、その気持ちに報いたかった。
 
「あと、これは思い込みかもしれないけど、その……唾液とか精液の味も……かなぁ」

 尻すぼみの告白を受けた彼は、舌先でわたしの口をノックして開かせる。送り込まれた唾液はやはり甘くて多幸感に浸っていると、対価を要求するかのごとく舌を吸われた。周囲の雑音も頭痛の種も最初から存在しなかったもののように無力化してしまう深いキスで、言語化の過程であぶれた感情をも伝え合う。

「っん、ふ……♡♡」

「……ん、そっか。全身で俺の愛、受け取ってくれてるんだね。嬉しいよ……♡♡」

「うん、あなたのおかげで五感が鍛えられた気がする。声の調子とか触れ方とかに表れてる慈愛みたいなものも、ちゃんと拾いたくて……。あなたの思いやりは真っ直ぐでわかりやすいから、わたしが頑張るまでもなかったけど。だから、お顔が見えてないときも安心しきってるはずなのに、どうしていまも思い出しちゃうんだろう……。昔のことだってわかってるのに、なんでこんなに弱いのかなぁ」

 自虐に走るわたしの両頬を挟む彼によって、急速にマイナスへと向かう思考は阻まれた。

「あんまり自分を責めないで。トラウマを乗り越えるのは並大抵のことじゃないけど、ひとりじゃ無理でも、ふたりならまた違うアプローチもできるよ」 

「そうだね。ただ二人でってわけじゃなくて、あなたと一緒なんだもん。克服できないはずないよね」

「もしかして、きみのなかの俺って、スーパーヒーローみたいな感じ?」

「うん! 完全無欠の、すごく頼もしい存在だよ」

 本当はもろもろ欠けたところのある素顔も知っているけれど、『わたしにとって』という部分をあえて口にしなかっただけで、なにも嘘は吐いていない。彼こそが完璧なのだ。いまも昔も、おそらくこの先も……わたしのなかでは唯一、彼だけが完璧な存在だ。

「一気にハードル上げてくれたね? ……まぁいいさ。絶対できるとは言い切れないけど、全力で協力するよ。……それで、なんだけど。考えてたことを提案してもいいかな? きみがされて怖かったこと……いまも傷として残ってるプレイを、同じように俺がしてみたらどうだろうと思ったんだけど、話してるうちになんか違う気がしてきたな……。やっぱり、嫌…………だよね」

 歯切れの悪さが残る言い方からは、果たしてこれでいいのかという迷いが垣間見える。
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