37 / 533
ホーリーナイト・セレナーデ
ホーリー・ナイト・セレナーデ<Ⅸ>
しおりを挟む「たとえばだけど、さっき『後ろから突かれたりすると乱暴にされたときのこと思い出す』とか『目を閉じた瞬間に俺じゃない顔が浮かんで怖くなる』とかって言ってたから、視覚が優勢なタイプなんじゃないかなぁって。だとしたら、フラッシュバックしたときになるべく早く確認できるほうがいいだろうし、目隠しで視界奪っちゃったり、顔が見えない体位で長時間したりしないように気を付けようと思ったんだよ。まぁ元からそういうのは滅多にしないけど」
「…………確かに、お顔が見えたら安心していられるよ。でも、視覚情報だけで判断してるわけじゃないの。声とか体温、肌の感触……におい、優しい触り方も、全部から大好きなあなたを感じてる」
そこまで伝えて咳払いをした。最後まで言い切るのには少し勇気が必要だったから。あとは付け足さなくても十分かと考えもしたけれど、その気持ちに報いたかった。
「あと、これは思い込みかもしれないけど、その……唾液とか精液の味も……かなぁ」
尻すぼみの告白を受けた彼は、舌先でわたしの口をノックして開かせる。送り込まれた唾液はやはり甘くて多幸感に浸っていると、対価を要求するかのごとく舌を吸われた。周囲の雑音も頭痛の種も最初から存在しなかったもののように無力化してしまう深いキスで、言語化の過程であぶれた感情をも伝え合う。
「っん、ふ……♡♡」
「……ん、そっか。全身で俺の愛、受け取ってくれてるんだね。嬉しいよ……♡♡」
「うん、あなたのおかげで五感が鍛えられた気がする。声の調子とか触れ方とかに表れてる慈愛みたいなものも、ちゃんと拾いたくて……。あなたの思いやりは真っ直ぐでわかりやすいから、わたしが頑張るまでもなかったけど。だから、お顔が見えてないときも安心しきってるはずなのに、どうしていまも思い出しちゃうんだろう……。昔のことだってわかってるのに、なんでこんなに弱いのかなぁ」
自虐に走るわたしの両頬を挟む彼によって、急速にマイナスへと向かう思考は阻まれた。
「あんまり自分を責めないで。トラウマを乗り越えるのは並大抵のことじゃないけど、ひとりじゃ無理でも、ふたりならまた違うアプローチもできるよ」
「そうだね。ただ二人でってわけじゃなくて、あなたと一緒なんだもん。克服できないはずないよね」
「もしかして、きみのなかの俺って、スーパーヒーローみたいな感じ?」
「うん! 完全無欠の、すごく頼もしい存在だよ」
本当はもろもろ欠けたところのある素顔も知っているけれど、『わたしにとって』という部分をあえて口にしなかっただけで、なにも嘘は吐いていない。彼こそが完璧なのだ。いまも昔も、おそらくこの先も……わたしのなかでは唯一、彼だけが完璧な存在だ。
「一気にハードル上げてくれたね? ……まぁいいさ。絶対できるとは言い切れないけど、全力で協力するよ。……それで、なんだけど。考えてたことを提案してもいいかな? きみがされて怖かったこと……いまも傷として残ってるプレイを、同じように俺がしてみたらどうだろうと思ったんだけど、話してるうちになんか違う気がしてきたな……。やっぱり、嫌…………だよね」
歯切れの悪さが残る言い方からは、果たしてこれでいいのかという迷いが垣間見える。
0
お気に入りに追加
106
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
性欲の強すぎるヤクザに捕まった話
古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。
どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。
「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」
「たまには惣菜パンも悪くねぇ」
……嘘でしょ。
2019/11/4 33話+2話で本編完結
2021/1/15 書籍出版されました
2021/1/22 続き頑張ります
半分くらいR18な話なので予告はしません。
強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。
誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。
当然の事ながら、この話はフィクションです。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる