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ホーリーナイト・ラヴァーズ

ホーリー・ナイト・ラヴァーズ<Ⅲ>

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 一糸纏わぬ姿になったわたしたちは、荒い息を隠しもせずに互いの動向を探っていた。この状態になってしまったからには、どちらから行動を起こすにしても、『繋がる』以外の選択肢などないのに。至近距離にありながら、すれすれのところで触れ合わないカラダとカラダだけれど、伝わる熱は下手に直接触れているときよりも熱い気がした。…………もう、限界だ。
 
「はやく……きて……?」

 音を上げたのは、わたしのほうだった。意図せず舌足らずになるわたしを焦らすように入り口を擦られ、腰が跳ねる。

「言われなくても?」

 少し歯を見せて余裕そうに笑う彼が憎らしい。照準を合わせ、徐々に押し入ってくる熱に愛しさが募っていく。常日頃から上限まで愛しているつもりなのに、まだまだ上があるのだと夜を重ねる度に思い知らされる。どうやら、この愛に果てはないようだ。

「……大丈夫? 苦しくない?」

 最奥に到達した彼が動きを止め、こちらの様子を窺っているうちに、少しずつそのカタチを思い出して隙間が埋まる。

「へいき……っ」

「いいね……。どこもかしこも誂えたようにぴったりで…………」

 耳を擽る掠れた声に体温がじわりと上がるのを感じた。何度も経験したはずの瞬間なのに、胸がいっぱいになってしまって、いつまでたっても出てこない引っ込み思案な声の代わりに、愛しいひとの片腕を掴む。身体の両脇に置かれたその腕は柱のように頑丈で、正直な秘部はいっそう潤んでいく。

「そろそろ動いてもよさそうかな」

 結合部が十分に馴染んだのを見計らい、彼は探るように律動を開始した。

「あっ! そこ……」

「ここがどうしたって?」

「あんまりしちゃだめ……っあ!」

「本当に? 嘘は感心しないねぇ。正直に言ったほうが身のためだよ」

 捕食者は早々にこれまでの情交で握った弱点を的確に突き、甘美に脅しをかけた。その声は揶揄うような響きを帯びている。

「やっ、あんっ……! ちが、違うの! 気持ち良すぎて、その……だめになっちゃうから……」

「だめになっちゃうから?」

「ひゃんっ! らめなのぉ……。うぅ……。だめって言ってるのに……なんでするの…………」

 強すぎる快感を逃がそうと反っていく腰が、かえって繋がりを深めてしまう。この男の腕の中は、逃げ場など用意されていない快楽地獄だ。懲りないわたしは何度もそこまで自らの意思で堕ちていく。

「説明になってないけど、まぁ言いたいことはわかるかな。でも、説得力ないなぁ……。ぐいぐい押し付けてきちゃって♡ もっと奥当てたほうがいい?♡」

「やぁ♡ もうそこ行き止まり……」

「知ってるよ♡♡」

 一切の抵抗も逃亡も許さず、心底楽しそうにわたしを揺さぶる彼は意地悪だ。……けれど、そうやってベッドの上でだけ意地悪になるところも好き……。ううん、大好き。

「んあっ! やぁっ……だめなのにぃ!」

「だめになっちゃえ♡」

「あぁっ……あっ、やっ……ふ、にゃああん!!」

「かわいい声出ちゃったね?」

 快感に濁ってしまいそうになる声を抑え、なんとか鼻にかけた甘い叫びで応戦すると、すかさず彼はわたしを褒めた。でも、限界は近いかもしれない。今夜はいつまでぶりっ子できる?

「恥ずかしい……。もうやだぁ…………」

「そうだね、恥ずかしいね? でも、あんまり立て続けに拒否されると悲しいなぁ……? さっきは『早く来て』なんて、おねだりしてくれたのに」

 口の端から滴り落ちる涎を拭う余裕もないまま、ずっぽりと大きなモノを咥え込み、情けない声を上げることしか出来ない。こんな哀れで淫らな動物を、それでも愛しげに眺める彼の腹の底は見えない。

「それっ、は……だって、欲しかったんだもん……」

 珍しく正直に言えば、彼は嬉しそうに腰を動かす。

「だよね。なら、応えないと♡」

「にゃあああっ! ふあっ……これ、すきっ……」

「俺のことも好き?」

 よく口の回る彼は、軽口の合間に時折、重い感情の片鱗を覗かせる。いまもそうだ。彼はどれだけ懇願してもやめてくれなかった抜き挿しを止め、その甘いマスクを近付けてわたしに問うた。

「んっ、すきぃ……だいすき…………」

「……ひっどいよなぁ、こういう時だけ言うんだから」

 眼前の色男は譫言のような告白がお気に召さなかったらしく、最奥まで埋まっていたモノを少しずつ抜いていく。計算尽くなのだろう、ぴたりと男性器に寄り添っていた襞まで持っていかれ、穿たれ押し潰されるのとは違った悦楽が駆け巡る。

「んっ、そんなこと……あっ……!」

「そんなことないって?」

 そのまま浅い部分を重点的に攻める腰使いはひどく淫猥だ。しつこく、的確に嬲られて、尿意によく似た感覚をおぼえる。

「ひゃっ……ぅんっ」

「嘘、ついたら……駄目、だよね?」

 彼の恐ろしいところは、機嫌を損ねても表面上は穏やかなままであり続けるところだ。ペットを手懐けている最中の飼い主のような猫撫で声がその証拠。再び奥まで来た陰茎に吸い付いて、必死にご主人様に愛していると伝えるわたしは、さしずめあなたの愛猫。あなたはわたしにいつも優しいけれど、ただの一度も主導権を渡してくれたことがないのも知っている。

「こんな、ヤってる時だけ言われてもさ……? 好きなのは俺のカラダだけじゃないか、って……不安になるんだけど」

 テーブルランプの薄明かりの中、彼がかすかに瞳を揺らしたように見えたのは気のせいか。

「どう? きみは俺のどこが好き?」

「ぜんぶ、すき…………」

「本当? じゃあそれ、証明してみせてよ」

 先の悲しげな表情は跡形もなく、心底楽しそうに笑う眼前の捕食者。どうやら愚かなわたしは、またも彼の術中にはまってしまったらしい。

「どうしたら、信じてもらえるの…………?」

 と素直に問えば、彼は乾いた笑いを漏らす。

「さぁ? きみが『正しい』と思う方法で示してみたら?」

 刹那、猛りが抜かれ、陰部が抗議をするように淫液を垂らす。彼の温度を失った空洞は、あるべき状態に戻っただけなのに物足りなさを感じているのだから、随分と欲深くなったものだ。
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