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鶯音を入る
第二十八夜
しおりを挟む「穴開けたくなかったら、翠の方はイヤリングに変えても良いし、アタシが最初からイヤリング選んでも良い。どうする? 翠はどうしたい?」
というのは、言わずもがな私のためを思っての提案だろう。
「あー……。何でしたっけ。イヤリングコンバーターだかってやつで、結構簡単に出来るんでしたっけ?」
だから、悩むフリもしたし、心にもない返事を返した。
「ん。頼んで、お店でしてもらっても良いし」
彼女の笑顔も声音もとても優しい。
しかし、私の心は既に決まっていた。
「ピアスが良いです。……きっと、ピアスじゃなきゃ、意味がないんです……」
彼女の手はそのままに、首を横方向に振った。
さっきも縦にシェイクしてしまったおぼえがあるし、脳細胞へのダメージが恐ろしいが、元々頭脳自慢ではないし、構うものか。
「どうして?」
「…………紅さん。私が初めて紅さんにキスした時、何て言ったか覚えてますか?」
忘れていた喉の渇きがぶり返す。
「……翠が、アタシにキスした時? 確か……」
それでも、忘れてしまいたかった言い訳を持ち出しても、言うべき事だと思ったから。
「『ピアス穴が寂しそう』」
「そうです。恥ずかしくて咄嗟に出た言葉…………だった筈なんですけど、あの時の私には、本当にそういう風に見えてたんです」
「嘘なんて思わなかった。不思議な事言うコだ、って思っただけ。ピアスの穴が寂しがってたかは、わからない。けど、『アタシが寂しいと思ってた』事は、ホントだから。翠には、それが伝わってたのかも?」
そう言って、耳たぶを隠した彼女は、あの日の彼女と重なった。
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