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鶯音を入る
第八夜
しおりを挟む「かかりつけの…………?」
それでも、一度は躊躇った。
軽々しく踏み入って良い部分が存外狭いものだという事を、心理的なプライベートゾーンが広めな私は重々承知しているから。
「あの、こんな事訊いて良いかわからないんですけど……。紅さんって、もしかして……あんまり身体強くなかったりしますか?」
「どうして?」
紅さんは長い睫毛をパチパチさせた。
思ってもみなかった反応だが、タブーではなかったらしい。
「初めてここに来た時、『薬飲む』って言って、どこか行っちゃいませんでしたっけ? 相当切羽詰まった状況だったのかな、って思ったんですけど……そんな事もなかったんですかね? 心配しすぎなら、それが一番なんですけど……」
「切羽詰まってた訳じゃない。アタシの身体に干渉する薬じゃないし」
安堵感から言葉が勝手に出てきたはいいが、彼女が急に意味不明な事を言い出したせいで、今度はクエスチョンマークが無限に増殖していく。
「紅さんが飲むのに?」
「ん。……翠、ずっと心配してくれてたんだね。知らなかった。ごめん」
「いえ。何ともないってわかって安心しました。でも、どういう薬なのかは気になります」
『飲む』と言っていたし、訂正も入らなかったという事は、その薬は服用するタイプで間違いない筈だ。
それなのに、服用者に影響を与えないとは、一体どういう事なのか。
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