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夕顔別当
第二十六夜
しおりを挟む「でも、どうして紅さんが謝るんですか?」
疑問点を素直に口にしたが、彼女はそこでは口を割らず。
「…………リビング、来て」
言われるがままにリビングに来たら、何も乗っていなかった筈のテーブルの上には、久しぶりに見た物が置かれていた。
「一緒に食べたくて。買って来た」
素っ気ない解説が可愛らしい。
「駅弁ですか! 良いですね!」
ベッドでゴロゴロ中の私であれば、ややアクロバティックな体位の方を想像していただろう。
今もすんなり駅で販売されている方が出て来たかと言えば……お察しの通りだ。
「デパート行ったら売ってて。見てたら、食べたくなっちゃった」
煩悩とは無縁そうな彼女はと言うと、脆いバイオマス素材の薄っぺらい袋から取り出した弁当を、私に向けて掲げていた。
「見て、このお弁当。乗ってるの、全部、翠の好物じゃなかった?」
彼女の指差す先には、海の仲間達の描かれたパッケージ。大層な名前にも負けない豪華なラインナップだ。
「本当だ。名前は聞いた事あったけど、食べるの初めてです! 描かれてる海鮮、全部入ってるって事ですもんね。すごく美味しそう……! 列車での長旅ってなかなかしませんし、フェアやってくれるの有難いですよね」
「ね。でも、もうトッピングやってくれたんでしょ。アタシ、余計な買い物……」
「ああ。良いんですよ。どうせ大したもんじゃないんで、適当におつまみに変身させちゃいますから!」
「ありがと。次は気を付ける」
「お礼を言うのはこっちですよ! こういうの、結構良い値段しますし……私が好きな物、覚えててくれて嬉しいです」
側にいない間も彼女が私の事を考えてくれたという事実を何より嬉しく思っていたら、作り置きの麦茶を盛大に零してしまった。
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