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金糸梅
第十二夜
しおりを挟む「アタシは、翠がオンナで良かったと思ってる」
「……!」
彼女が何気なく落とした一言で、記憶が急速に巻き戻る。
――――過去、同じような台詞を吐いた男がいた。
出会い方も事に及ぶまでの会話も覚えていない、『不特定多数の男のうちの一人』の中に。
男はそうのたまい、流れで私の身体をまさぐって、アダルトビデオでのあれやそれやを真に受け過ぎなのではないかと心配になるような行為を繰り広げた。
『お前が女で良かった』という利己的で自己陶酔の極みのような台詞にもその場では適当に頷いたが、私にしてみればそんな事はどうでも良かった。
性別がどうであれ、その男に恋愛感情を抱く事は生まれて来ない事を赤子の側が選択するレベルで難しいと思ったから。
「……女性の方が好きなんですもんね、紅さんは」
私に『初めて恋愛感情を抱かせた女性』に意識を戻す。
「うん。でも」
紅さんは口ではそう言ったものの、プライベートゾーンは勿論、他の場所にさえ触れて来ようとはしない。
それは、彼女が恋愛感情を抱きやすい、もしくは劣情を催しやすい側の性別であれど、それのみでは私を見ていない事の証左と言えるのではなかろうか。
「翠の事は、オトコでも好きになってた。きっと」
さらりと言ってのけた彼女に脳内を覗かれたようでドキッとしたが、自分勝手な当て推量のままよりずっと良い。
それでも私は女性で、彼女は女性を好いているからと、目に付いた腕を捕まえ、上半身で最も女性らしい部位をさりげなく当てた。
低俗で申し訳ないが、私なりの感謝の表し方だ。
「ありがとうございます」
彼女の腕を抱えたまま、考える。
……という事は、紅さんは私を人間として好いてくれたという意味でも初めての人でもあるのかもしれない。
きっとそうだ。
両親だって、私を『子』としてではなく『娘』として見ていたではないか。
初潮を迎えるどころか生まれたその瞬間に、『この家に生まれた女』としての役割を押し付けられていたのだ。
それ以外の期待をされてはいなかったのだ、私は。
「私も一番大事なのは性別じゃないってわかった所ですし、気持ち的にはもう何でも良いんですけど、制度とかの壁はまだ分厚いですよね。結婚と恋愛と生殖とか、そのへん全部一緒くたに管理しようとしてるの気持ち悪過ぎ。人の事、何だと思ってるんですかね」
『生殖』という単語を聞くなり、彼女は目を伏せた。
「……ホント。全部、別の問題なのに」
ただそれだけの動作が悲しみに支配されたように見えてしまうなんて。
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