うりふたつ

片喰 一歌

文字の大きさ
上 下
24 / 29
サイワイ

サイワイ【2】

しおりを挟む

「なるほど。本来なら、彼女はもっと長生きだったと」

「はい。それに、死そのものは避けられないとしても、あんな惨い死に方はあんまりです」

 死神として働く者に一台ずつ配られる端末には、担当地域内で近日中に迎えに行くべき者の名簿が送信されてくる。

 そこに記された情報は対象の名前や顔、死因に死亡時刻など多岐にわたる。俺はそれを余裕を持ってかなり先の分まで読み込み、スケジュールを組んでいた。

 膨大な量のデータを逐一確認するのは骨が折れたが、大切な仕事の一環だ。欠かすわけにもいかない。

 その中に彼女を見つけたときは背筋が一気に寒くなった。

「そうか。オレとしては異論はないよ。稟議書だってこうしてちゃんとここまで通ってきてる。冥界ココは結構アバウトだから、そんなきちんとした手順を踏まなくても、直接話してくれるだけでよかったんだけど、ハルトの気持ちは伝わったよ。……ごめんね、意地の悪い真似をして」

 彼の手によって書類がひらりと掲げられる。そこには目立つ印がくっきりと押されていた。

「いえ」

「だけど、知っての通り、死因を捻じ曲げるのは重罪だ。死期を先延ばししたり、訪れる死そのものを退けたりすることが出来ない以上、最も高等な死に対する反抗だからね。承認するのは構わないけど、覚悟は出来てるかな?」

 基本的に絶やすことのない穏やかな微笑を不意に消し、こちらへ問う姿は威厳に満ちていた。

「はい。どんな罰も受ける所存です」

「その言葉に嘘偽りはなさそうだね。……さて、どうしたものか。誰も不利益を被ることはないとはいえ、罪は罪だ。形式上、なにかしらの罰を与える必要があるんだけど……困ったな。いい案が浮かばない。すまないが、少し時間をいただいても?」

「問題ありません。むしろ、俺の我儘で仕事を増やしてしまって、申し訳ございません」

「いや、いいんだ。ありがとう。キミの処遇は追って連絡するよ」

「かしこまりました。では、失礼いたします」

 そうして執務室をあとにした俺は裁きが下るのを待った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

処理中です...