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第11章 クライマックスへの序曲なんてきいたことがねぇ。えぇまったく記憶にねぇな

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姫巫女がその人望のみによって教皇庁から奪った都市。フラニタス城塞都市。
 その都市に向けて、教皇庁の協力の元で王国軍が動き出している。
 教皇庁の理由は当たり前だけれど都市の奪還、それと教皇庁に仇なす巫女姫であるアムメルの捕縛か抹殺。王国軍の理由はわたくしと、共に逃げて来た淑女たちの一斉捕縛だと思う。彼女たちの父親はいずれも有能で有力者だったから、すべてを殺すよりは娘を人質として言う事を聞かせる方が得策だ。
 元からこの都市は、アムメルが信徒を扇動して陥落させた時点からこの時を予測していた。その為、彼女は各地に広がる彼女に従う信徒たちに声をかけて、この都市に富と武器を集めさせた。
そうしてフラニタス城塞防衛軍が立ち上がろうとしていた矢先に、アムメルが呪いによって倒れてしまった。まだ末端の信徒たちにその事実は公表されてはいないけれど、信徒を指導する役目の者たちには伝えてある。そうで無ければ疑心暗鬼が謀略を呼びこみ、戦う前にこの都市は無防備になってしまうからだった。
 この都市の人口はおおよそ4万人。元からこの都市は魔族領に対しての防衛戦を想定していて、都市の役目は魔族領から人類が攻撃を受けた際、防波堤として時間を稼いで、その間に教皇庁や王国が軍を率いて魔族を討つと言う作戦のかなめの都市だった。。
 その為、ここの住民は普通の都市や村の住民と違い、戦えることが前提としてこの都市に住むことが許されていた。
 都市の民衆の中に自警団があるのではなく、自警団がイコールで都市の住民であると言う事。女性や子供がいないわけでは、もちろんない。人が集まれば色々な恋愛話だって発生するし恋愛があれば結婚が合って、結婚があれば出産があるのが当然で、自然と子どもは増えていく。
 アムメルの補佐官さんから見せてもらった資料によると、この都市の結婚率も出生率も王国平均の2倍以上高い。常に命の危険にさらされている生活が、種を保存しようという本能に働きかけて、それで子孫たる子供も多くなると言う話みたい。
 その子供たちは3歳になるまでは親元で教育がなされるけれど、3歳以降は都市が運営する幼等科教導院に入り、15歳の成人を迎えるまでみっちりと戦闘だけでなく、王国中央でも学べないような政治、経済、信仰、農業、工業についてまで習得させられ、その後はこの都市内で好きな仕事に就くことなる。ただし、条件として一朝事ある時はすべての住民がこの都市を守るべく団結して戦う事を神の名の元に誓約させられる。
 さっきまでパン屋のおじさんだった人が投石兵に、雑貨屋でイヤリングを売っていたお姉さんが看護兵となる、公園で遊んでいた子供達でさえ支給員として武器や糧食の手配に駆け回る。この都市の人口4万人の中に、守られるべき人間は存在しない。全員が戦い、全員が守れる、それをこの都市は誇りにしていた。
 そんな強烈な個性を持つ市民がいる都市が、なんでアムメル一派に奪うことが出来たのか?
 理由は単純で、彼女は元々この都市の出身で、教皇庁に神官として招聘されるまで、この都市の教会に住みながら教導院に通う少女だったのだ。
 都市の人間の感覚としては、アムメルは少しだけ外でやんちゃしてきたけど、結局は故郷に帰ってきたしようがない娘だと思われている。
そんな彼女が、良く判らないが外の人間にいじめられたと言うのなら都市を上げて守るのがこのフラニタス城塞都市の気概なのかもしれない。閉鎖的とは思うけれど、身内を大事にしてなにが悪い?と問われれば言い返す言葉もありません。
「攻めて来るのは教皇庁の騎士団2つで1万人、王国軍は王国元帥が直卒で2万人、合わせて3万人、これだけならなんにも問題は無いのだけれど、新たに魔族領から数万の規模の動きが見えると・・・」
 この情報は、勇者が使役している青肌猫耳一族からもたらされた。この一族、男も女も美形ぞろいで、スタイルも抜群な、人の身としては無しえない物を種族で勝ち得ていると言うとんでもない魔族だった。これなら兄王子が魔王との異名を負わされてでも、手に入れたかった気持ちは判る。無駄のない筋肉の上、人では持ちえない青い肌に、つ~と透明な汗が流れ、銀色の髪に魔族特有の赤い瞳で見つめられたら、私はつい、甘い誘いを口にしてしまうかもしれない。彼等、彼女らはそれだけの魅力にあふれた一族だった。勇者なんかにはもったいない。
「魔族の動きはまだ確定ではなく、陽動の可能性もございます・・・」
教皇庁の騎士団と王国軍がこの都市を攻めている時に魔族軍が来た場合は、普通に考えれば人対魔族の戦いが起こり、騎士団と王国軍対魔族軍でフラニタスそっちのけで潰し合いが始まるでしょうね。戦略的な見方をすれば、これは敵の敵は敵って図式で敵同士が潰し合ってくれればこちらの利益になる事は間違いがないのだけれど。
「そんな数字の話じゃないのですよね・・・」
 フラニタスの住民が、城壁の下で魔族に殺される人間を見たらどう反応するだろうか?彼らはきっと、人間を魔族から守るのが我々の役目だと言って門を開き、さっきまでの敵を守るために魔族を攻撃するでしょうね。
 この都市の異常に強い住民たちが感情を爆発させて戦えば、魔族軍は一蹴してしまうでしょうけど、その勝利の美酒が覚めた時、完全武装の王国軍に都市は占拠され、巫女姫は捕らわれているでしょう。
「あなた方はこれをなんとかできまして?姉姫はなんと言っているのかしら?」
「魔族軍の数や目的については追って判明するとは思いますが、その対処となりますと、数が足りずどうにも・・・、姉姫様からは青の村での防衛は可能なれど、青の村を避けられた場合、追い討ちは戦力的にも厳しいとの言葉を預かっております」
 姉は今、勇者と一緒に魔女の郷だ。それなのに配下の青肌猫耳一族にこう言わせたという事は、姉姫の中でこうなる事が既定路線だったと言う事なのでしょうね。
 あの人、子供の頃から一方的に仲良し宣言してくるけれど、私は一度も彼女を親しい人と思ったことはないのです。
 私と姉の母は同じではありません。体面的には同じ母親から生まれたことになってますが、実際私が姉として彼女を紹介されたのは10歳をとうに超えた時だったかと。
 年齢は上の癖して初めて見る姉と言う人間は、侍女の後ろに隠れてろくに話もしない少女でした。その頃はまだ異常な太さは存在せずに、ただの何処にでもいる普通の子だったのを覚えています。
 それ以後、私たちは特に交流することなく時を過ごしますが、再会は王の正妃であり、姉の母親が亡くなった時に久しぶりに見た時でした。その異様な変貌ぶりに意識が飛びそうになり、お付きの者に支えられたのを覚えています。
 ヒキガエルです。
そう、どう見ても人の皮をかぶったヒキガエルが姉の声で喋っているのです。全然よく覚えていませんが、お付きの者の努力空しく、僅かな時で私は気絶したようです。
「緊急報告です、王国軍と魔族軍の間で密使のやり取りが判りました王国は魔族と組んだ模様です」
「それは・・・大胆なことするわねダンカン、王国は教皇庁を見限ったのね、内部に巫女姫と言う爆弾を抱え、辺境の一つの村も落とせずに、逆に都市を奪われる教皇庁を見限って魔族と取引をするなんてね、人類の敵になったとしても構わないってこと・・・」
 ダンカンの立場になって考えると、裏切って見捨てるのであれば教皇庁が一番良い。
 第1に教皇庁は国ではない。なので些かいい訳じみた話だけれど、、教皇庁との国家的な約束事は守る絶対性は無いと言う事。第2に、教皇庁を裏切って見捨てても、こちらと仲直りする事が出来ない勢力だってこと。捨てた相手を敵が拾って戦力を増やすのは本末転倒で、忌むべきことなのだけれど、教皇庁と巫女姫の間に和解という文字は無い。
 勇者辺りの説得で巫女姫アムメル個人なら、和解もあり得るかもしれないけれど、巫女姫派と教皇庁の和解はありえない。巫女姫を敬愛し、信じてここまでついて来た信徒たち、この人類社会の防壁たる都市のただの住民の事だけど、生まれ故郷に帰ってきた彼女を守りたい人と願っているたちが、教皇庁が彼女に何をしたかを知れば和解は出来ない。
 今知っている人数は限られているけれど、戦いが始まっても巫女姫の姿がどこにもなければすぐに悪い噂は広まっていき、誰かが不安を怒りに変える為に真実を漏らす筈。
「けれど不思議ね、あのダンカンがそんなに知恵が回るだなんて、だれか優秀な手駒でも参謀役に雇い入れたのかしら?」
「参謀かどうかは不明ですが、勇者脱走計画の折に邪魔をした魔女が一人、今でも側にいるとの話です、周りに戦闘馬鹿や格闘馬鹿、戦馬鹿は多いのですが、知恵者となれば魔法術式に長けていて、かの魔女会議にも参加した可能性のある魔女が参謀役かと」
「あらあら、情報収集だけではなくって自分の憶測も述べちゃうんだアナタたち、いったい勇者や姉姫はどんな教育をあなた方に施したのかしらね?諜報員が自らの見解を述べるのは下の下がやる仕事だわ、自らの考えなんかイラナイの、起こった事象を簡潔に端的に間違いなく伝える事、それもなるべく早く、それがアナタたちのお仕事、もし私が直卒していたら頬の一つも張るところよ」
 でも、ダンカンの近くに魔女が居るのなら、話は分かってくる。
 お人好しで、誰にも本心を明かさないダンカン、あの男はきっと誑かされているわね。
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