上 下
27 / 38
第9章 再会の時だったが、これじゃあ口喧嘩一本勝負ってか?

9-1

しおりを挟む
古大陸の西に広がる魔族領、その中央と言える場所に古びた城がある。
 元はこの古大陸を一時期統一していた帝国が建造した城だったが、古大陸よりさらに西にある魔大陸から魔族が侵攻し、数十万の帝国軍を破り占領した城だ。
 ,その当時の魔族には城を築く技術は無かったので、占領したこの城を古大陸における拠点と定めて古大陸方面軍の中枢として活用した。その時の勢いのまま一気に古大陸を蹂躙していれば、今のような帝国の末裔たる王国と対峙するよな状況にはならなかっただろう。 しかし魔族は古大陸の西部地方を占領したところで、古大陸への侵攻を止めてしまった。
 そこから、数百年の時間、戦線は東へとは伸びていない。
 魔族側に何があったのかと言うと、魔大陸にいる魔族を統一していた初代魔王が帝国が召喚した勇者に滅ぼされたのだ。
 それは驚天動地の出来事だった。帝国がいつの間にか勇者を召喚して、西部地方を蹂躙していた魔族の裏をかき、魔大陸へとどうやって勇者を派遣し魔王を滅ぼしたのか、今になっても誰もその謎を解いた者はいない。
 勇者は長距離転移術式が使えたのではないかとか、その当時はまだ絶滅していなかった竜族が味方して、空を縫って魔大陸まで到達したからだとか、仮説はたくさん生まれたが、そのどれもが正解だと決まってはいない。初代魔王も、その魔王を倒した勇者も共倒れの状態だったので、その謎は永遠に闇の中となった。
 初代魔王を滅ぼされた魔族側は、そこから群雄割拠の時代が始まる。その当時から現在までの間で自称魔王は100以上生まれ、最終的に3人が魔王として今の魔大陸と古大陸西部を統治している。
 やっとと言えばいいのか、ついにと言えばいいのか。
 初代魔王を滅ぼされてから、魔族は魔族と戦う事が主となり人間族は放置していた。
 その間に帝国は内部分裂して滅び、それがほぼ今の王国に吸収され安定していった。寿命の問題だと言われているが、魔族たちが魔王を絞るまでの時間と、人間が帝国分裂から王国を樹立するまでの期間は大きな差が生まれた。人間は魔王が3人に絞られるよりも100年以上早く王国を樹立し、人間族を発展させていった。
 元から人間と魔族との間では、力や術式を扱う魔力総量は魔族が上だが、防衛施設の建設技術や、術式を構築する技術は人の方が上だった。その差は統一が早まった分人間はさらに技術を向上させ、魔族側は人間族へと古大陸信仰当時の様に攻め込むことは出来なくなっていた。
 そのことについて、魔王間でも意見が統一されていない。人間族は放置して魔族は魔族で生活すれば良いと言う魔王と、あくまでも人間族は滅ぼすべき相手であると主張する魔王。人間族と表面上は融和をし、その技術を盗み将来へ備えようと主張する魔王。
 古大陸の元帝国が建造した城に座すのは、人間族を忌み嫌い滅ぼそうとする魔王だったが、背後の魔大陸にいる二人の魔王と意見が合わないため、人間族と全面戦争になれば背後から討たれる可能性もあり、古大陸西部全力で人間族に攻め込むことが出来ずにいた。
 そこで古大陸西部に座する魔王は、魔族同士の争いでは決して使わない搦め手を使い人間族の力を削る策に出た。
 そのこと自体が魔族が人間族の知恵を使うようなものだと、他の魔王は思っていたが、彼らにしても人間族は脅威であった為、自分の勢力以外が人間族の力を削れるならばそれはそれでよいと静観の構えをとった。
「クシオン様、王国の動乱も宴たけなわとなって来ましたな、これで人間族同士潰し合えば王国は張子の虎となるでしょう、その時の準備は完了しております」
「あくまでも準備だけだファルスター、魔王軍本隊は出さぬぞ、出す時は王国が滅びると判った時だけだ」
 一気呵成に王国を滅ぼし、我が領土とすれば背後にいる魔王共も手を出す暇はない。そうする事で王国の技術を奪ってしまえば、古大陸も制覇でき、次いで背後の魔王共を倒す力を得る事も出来よう。魔族が希求している統一された魔王の降臨だ。
「承知しておりますクシオン様、軍はわたくしと共に魔王様の手の中あります、命令一下動くことでしょう、しかしながら・・・」
「なんだ、不安材料でもあるのか?」
 ファルスターは長く配下にいる有能な魔族だ。一族を上げて魔大陸からこの古大陸に移住してきて100年近くになる。その間、彼の発言に間違いはない。
 不安を口にするのならば、この計画に確実な穴があると言う事になる。
「はい、恐れながらご舎弟様がどう動くのかが読めない為・・・」
「あいつか・・・」
 クシオンの弟は30年ほど前に人間に対する扱いの違いで飛び出していった愚か者だ。
 何の実権も与えず放逐したような形になっているため、生きている事は判っているが何をしているのかは掴めていない。もし今回の策に気づいて何か勝手に動いていたとしたら、悪戯に人間族に警戒される結果となる。それはつまりここまでお膳立てをした計画がご破算になり、王国の内乱は未然に防がれ魔族に対して防備を固めさせる結果になる。
 そんな事になれば大変な損失だ。
 だが、だからと言ってあの弟を実力的に抑え込むことなど簡単には出来はしない。やるとなればクシオン自らが討伐隊を率いて討たねばならないだろう。だが、そうなっては王国の内乱を、手を叩いて喜んでいる場合などではない。
逆に古大陸の魔族領の力が減ってしまうだろう。
「願っても仕方がない事、あ奴の監視役を増やし情報をいち早く得る事が大事であろう、いよいよとなれば、我みずから討伐するにしくはない、その準備も怠りなくなファルスター、決してこの事を人間族には知られてはならぬ、魔族領の中の事であれば、気づかれることも無いであろうよ」
「はっ、承知仕りました」
しおりを挟む

処理中です...