上 下
15 / 38
第5章 ここからは内政のターン!! だがプレイヤーは代理でってルールはOK?

5-1

しおりを挟む
王都でのクーデター騒ぎから3ケ月後。俺は王都を脱出し、青肌獣耳たちと共に彼らの拠点へと移送された。
 彼らの拠点は王国、魔族領域、教皇領、魔物活性地区の狭間にある小さな盆地だった。
 どうやら彼らはつい先ごろまで、魔族側で戦争に密偵として参加し、魔王と呼ばれていた王国の兄王子に一斉摘発を受けて捕虜となり、偶然居合わせただけの俺に開放された。
 どうもいまいち、あの頃俺が助けたのはこんな奴らだっただろうか?とか思うのだが。
もっと干からびて弱そうで、戦いも何も出来なさそうなやつらだった様な気がするんだが・・・。
「それはねぇ、勇者様が助けた時は監禁直後の姿だったんですもの、今と違って当然です」
 小さな体で小さな胸を張って、俺の顔にわざと胸部をぶつけてくる姉姫様。見た目が幼女と少女の間ぐらいに変わっても、あの頃の性欲魔人な部分は抜けていないらしい。
 ちなみに俺はまだ姉姫様に襲われてはいない。これで健康体だったら襲われていたかもしれないが、今のところ俺はまだ病人扱いだった。
 なんちゃらの輪っかとか鎖については、姉姫様が少しだけ役に立った。
 一応、これらの魔道具は王国所有であり、間違っても王族に使われない様に解呪法を学んだと言うのだ。だが、母である王妃から学んだはずの姉姫様の解呪は、なんとなく効果が薄れた様な気がする程度で、輪っかが外れたり、鎖がボロボロと崩れ落ちたりの激的な変化はなかった。姉姫様曰く、どうせ味噌っかす状態だった自分がそんな魔道具遣うわけがないからいい加減に聞いていたと言う。まぁそれでもないよりはましだし、なんと今までずっと無言だった勇者スキルさんとコンタクトが取れたのだ。
 夢の中で書置きとか言う、なんとも言えないコンタクトだったが、勇者スキルさんの書置きでは、長くて3年待て、そしたらこの程度打ち破るから、それまでは無茶すんじゃねぞって書いてあった。
 勇者スキルが3年もの時間をかけて解呪しなければならないとは、このなんちゃらの輪っかと鎖は、国宝級魔道具とかか。解呪出来たら、どっか遠くを旅している旅商人辺りに売り払って金に換えよう。
 さて、この現在地のこれからをどうするかだ。
 本来であれば彼等、青肌獣耳たちはもうすこし魔族側の奥に生息していて、一族の大半もそこで小さいながらも繁栄していた。だが、一族の戦闘部隊がごそっと他称魔王の兄王子に捕虜にされたせいで、一気に立場が弱くなり、さらに人間の勇者に救われたと知れわたるや、魔族強硬派は一気に彼等の郷を見せしめとして襲撃、戦えない者たちを狩っていった。理由は関係なく人間の勇者に救われた存在など、魔族の結束を乱すものとして犠牲の羊にされたのだ。
 生き残ったのは傷だらけで解放されたばかりの戦士たちと、老人たちが命がけで逃がした少数の子供たちのみ。
 そのままの場所にとどまる事も出来ず、今の様々な勢力が干渉しあう特別な土地に潜むことにしたのだ。ここならばお互いの勢力が緊張状態で対峙しているため、そう簡単に攻めるわけにはいかない。間違っても他国や他勢力の縄張りを犯したらすぐに戦争問題になる。
「位置は絶妙なんだけどなぁ、これってこのままだとじり貧で、いつかどっかに飲み込まれる事確定だよなぁ」
 リアルストラテジーでも、最悪の初手場所と言える。
 戦いを回避しない勢力が一つでもいたら、すぐに滅ぼされて糧にされてしまう配置だ。
 実際の戦争はゲームとは違って、損害を度外視するなんてことはないだろうけど、現実の中にだって、中国でうん万人を穴に埋めるだの、川で殺したら下流が真っ赤になっただの、費用対効果がおかしい戦争は多々ある。信長と本願寺の戦いだって、似たような物だ。本願寺の損害を度外視した突撃やテロのお陰で、当時最精鋭だった信長軍団が数年は身動きが取れずに、日本統一が遅れ、信長の天下統一を阻んだとされる。これは長い目で見れば費用対効果はあった戦かもしれない。最終的に数十万の信徒が各地で殺されたが、彼らが最後の最後まで望んでやまなかった本願寺派を潰されることなく、俺が生きている時代まで残ったのだから。
 世の中には予定調和が好きな人間もいるが、それと同じくらいに川に流されることを望む目立ちたがり屋で、他人を信じないおバカさんもいるって話だ
 そしてたいてい戦争は馬鹿が初めて、お利巧さんが終わらせると相場が決まっている。
「食もほそぼそ、土地はまあまあ、鉱石系は皆無、燃料系は不明っと」
 今のところ無主の土地を勝手に間借りしているだけの青肌獣耳一族の生き残り、騒然74名。そのうち子供が18名。
 大人も子供も含めて農業畜産系の仕事をしたことがある奴はゼロ。
 大人はだいたいが戦闘系で、一部鍛冶修理系持ちが1~2名。子供たちは薪の枝集めや、川への水くみなどのサポート業務しか経験がない
 ちなみに俺の看病と称して何もしていない姉姫様は、食材を消費するだけのくっちゃねな邪魔っ娘状態だ。普通のメンタルなら、相手に対して悪いなぁとかおもって手伝いを申し出たり、持ち物から金になる物でも出してバランスを取るのだろうが、姉稗様は王族。
 自分で味噌っかすで何も出来ない無力な姫だったと思ってはいても、毎日人の数倍にも及ぶ食材を消費していたとしても、それが許される立場で、それが当たり前の事だった。気にする方が王族としておかしいと思われるような環境の中で育てば、どっかねじれておかしくなっても仕方がないのかもしれない。
「まずっ食だよな、強い武器があっても食べ物が無ければ鳥取城の飢え殺しになっちゃうし」
 すっごく簡単に端折って説明すると、戦国時代に鳥取城と言う城が攻められる話になる。城側は防備を固めるために城を改修したり、鉄砲を購入したりする。つまり戦う力を上げた訳だ。戦うんだから強さを上げるのは当たり前だろう?だが、一つ落とし穴がある。この頃の城なんて防備の為に金を得る手段は一つしかない。食べ物である米だ。
 城側は戦を前にして米を売り、防御の強さを高めた。
 結果、相手側は城を囲むだけで、城の防御の強い場所に攻めかかることなく包囲し、最終的に食べるものが無くなった城側は降伏した。
 これだけならば城側の落ち度名だけの話だが、実は攻める側は事前に米を高値で購入するよう裏工作をしていて、防備に金が要る城側から余計に米を売らせたという。
 つまりは、いかに謀略が怖いかって事と、強くても食べるものが無ければ戦うことは出来ないって二つの意味がある話だ。
 日本の戦国時代にも、なかなか為になる話があるもんだろう?
以前マッシュポテトにしたジャガイモっぽい物の生産は始めってるみたいだ。とはいえ、種芋をちょっと耕しました的な畑にボンボンと入れただけで、水やりはしているが雑草を取る事もしていない。農業未経験なら仕方ない事か。かくいう俺も農業は本でしか知らず、実体験なんかもちろん皆無だ。盗賊団になる前の家は農家だった記憶もあるが、本格的に手伝う前に家でしたから、その技術は継承していない。
「食は大事です、食が無ければ百戦百敗間違いなしです、村の力を上げるためにも安定した職は魅力となります、同じ一族だけでなく、このようなモザイク地帯であれば他の勢力からの取り込みには食は最高の武器です」
 うん、誰だこいつ?
 王族だから教育は必要以上にしっかりと受けていたのだろうさ。
 その実力を自由に出してしまったら、他の王族からどう思われるのか?姉姫様は当初そこまで考えて、食以外には興味ない素振りで擬態してきた。途中で本当に食と将来の夫の事、具体的には思春期的な異性への変質的な興味?に取りつかれたが、地頭は良いのだ。
「姉姫様、もしかして貴女は文官肌というか、内政系のスキル保持者ですか?」
 戦闘系スキルは目立つし、判り易い。対して内政型のスキルとか軍政型と呼ばれるスキルは、その立場に立たせてみて結果を出させてみないと判らない。
 効果は様々あるが、大きいところで慈愛の大地と呼ばれるスキルでは、開墾した場所の土の栄養価が高く、農作物が収穫しやすかったり、そもそも開墾が早く出来るなどの効果がある。豊穣の大地は収穫高への影響で、潤沢の大地は井戸を得るスキルだったりで、この慈愛、豊穣、潤沢の3つで大地の女神と呼ばれるらしい。
 ちなみに姉姫様はこの大地ね女神と呼ばれる統一スキル持ちでmさらに勇者のバックアップ用にと初期軍師系スキルの一つ「箕氏仙」というスキルも持っている。これは軍事行動と言うよりは、街を栄えさせて群を強くすると言った、内政よりのスキルだ。
「姉姫様改め、宰相姫様だな、すごいすごい、偉いぞ~」
「って、今は小さな体だけれど、今も前も、勇者様よりは年上ですのよ、そんな頭をやわやわさらさらと撫でられるのは心外です、大人には大人のほめ方があると思うのですわ」
 とは言われても、俺の手はまともに動かないので撫でる動作でもギリギリだ。爆乳だった頃は撫でると言うか埋まると言う感じだったけど、今の宰相姫の胸部とか撫でたら犯罪臭がヤバいのだよ。大人のほめ方はしばらく封印するのが正しい。
「もおっこんな格好になったんですけど、私はまだ勇者様の婚約者のつもりですから、今はここまでで許してあげます、でも治ったら覚悟しておいてくださいまし」
 俺は治ったら治ったで精神的に苦しむことになる事は確定事項みたいだ。
 こっちの世界に来てから、色恋沙汰は極力避けてきて、なんて言うか好きだとか愛しているとか言った感情とは別に、やることはやってしまっていたわけで、それは今になって考えるといい訳は効かない話なんだが、言い訳する気もないとかって感じだ。
 だが、今の献身的な姉姫様を前にして、何の感情も浮かばないほど俺は朴念仁でも、ラブコメディ主人公程にも鈍感ではない。
「でわ、わたくしは皆にスキルで指導すればよろしいのですわね、食の最低限の確保はできます、ですが大地の恵みだけで出来る事は限られていることもお判りですわよね?」
 野菜ばかりでは栄養が偏る。文明が進化して、肉から得られる栄養素を別で補完出来れば、野菜だけでも良いのだろうが、自然な成長には肉は必須だ。子供も居る事だしな。
「そっちは俺が考えるから、姉姫様はまず農業から始めてくれ」
「承知いたしました私の勇者様、いつまで時間があるかはわかりませんがスキルを精一杯活用して、豊作を約束いたしますわね」
 ここから青肌獣耳一族の躍進が始まるんだが、俺はそれに付き合うことが出来なった。
 青肌獣耳のリーダーらしき男に、対魔物戦闘の話とかしていたら、急に頭の中で勇者スキルさんが警告を発したと同時に、なんか黄色で透明で、水飴みたいなのに囚われてし、そのまま意識がなくなった。
 やっとこさ牢屋っぽいところでの張り付け地獄みたいな所から脱出したのに、すぐまた捕まるとか、どんだけ~な不運持ちだ。スキルは見れてもステータスが見えないから、もしかしたら俺の運ステータスはゼロ以下なのかもしれない。
しおりを挟む

処理中です...