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第6章 砦陥落・・・。このまま小悪魔で終わってたまるか、絶対に生き抜いてやるから。

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ファル先生の術式に包まれて、混乱する砦の中を疾駆する。普段の能力のままだと混乱して右往左往している悪魔にぶつかりまくって碌に進めないんだろうけど、今はファル先生の加護がある。この世界の神様なんか一人も知らないが、もし居たとしてもファル先生の加護に敵う神様は居ないだろうと信じている。
 ファル先生は小さいながらに妖精王としても術式スキルは遥かに高いが、その体がもつ魔力は俺と同じかそれ以下のレベルの為、通常状態だと大きな術式は使うことが出来ない
だが、その魔力不足を補う方法を俺は知っていた。
 後生大事にとっておいたまだ粉末にしていない魔石たち。魔石一つで体のサイズが変わるくらいの効果があったんだ。2~3個吸収させればファル先生の本来の術式の一つや二つは軽い物だろう。実際に吸収してもらうと、体がどんどん大きくなり、いつものインプが隠し持っていた魔石の粉末も加えた所、ファル先生のサイズは大人の片腕くらいのサイズになった。
可愛らしく背中に生えていた半透明の6枚羽は体の二倍近い虹色に輝く二枚羽に変わっていた。童顔の様に見えていた顔はやっぱり大きくなっても童顔だったため、サイズがいきなり変わってもファル先生はファル先生とすぐに受け入れられる、
 うん、その他凹凸部分に関しましては・・・、少しの成長は見えた物の激的には変化なく、洗濯板からじゃっかんツルリンと言えるくらいの違いはあるようなないような・・・。
 ファル先生曰く、この体のサイズは術式を使わなければ3日くらいは維持可能との事だが、これから使う術式全てを使うと、1日持つかどうかだった。
 一体ファル先生の適正サイズと言うのはどれくらいなのだろう?漫画に出てくる妖精王も大きさは作品によって違い、手の平サイズのままで妖精王だったり、人間と同じサイズで妖精王だったりする。
 俺が知ってるファル先生のスタンダードは羽虫クラスだけど、魔石を吸収すれば魔力と共に体も大きくなる。
 いっそ今度10個くらいの魔石を吸収してどうなるか見てみたい。人間サイズになるのか、それともオーガとかサイクロプス位大きくなるのかな・・・。それはなんか嫌だ
「もはや砦を守る事に大義は無い、すでにあ奴は死んだのだ、それに義理立てして一緒に死のうなどとは言えまい、どうせならば彼女を守りお家再興を考えた方があ奴に報いることになる、その方らは自由にしろ、我も自由にする」
 老練な将軍の声が聞こえてくる。搦め手門のすぐ手前で子飼いの悪魔達に囲まれている。おそらくは、いきなり寝返りした事への疑念だろう。義と友によって砦を今まで守ってきたのにいきなり裏切るのは将軍の名に傷がつくとでも訴えられたのだろうな。人望がある奴は大変だ。裏切るにしても、その正当性を説明しなければならないなんてな。インプなんか裏切る知能もないと思われているから、裏切りに誘われたことも無い。
 だが、そのお陰で意気揚々と搦め手門を開いて敵を中に入れようとしていた老齢な将軍と妹お嬢様悪魔は子飼いの悪魔に囲まれて、身動きが取れなくなっている。
 子飼いの悪魔が作る円の外側では、成り行きを見守る悪魔達。当初の裏切りに対するショックは薄れているものの、老練な将軍が子飼いたちを説得しきってしまえば自分たちの命はないと思って真剣に話を聞いている。元々彼らは戦うために領主の元に居た訳ではなく、俺と同じように農奴だったり、狩人だったり、牧羊夫だったり、非戦闘員が多い。最後まで戦うという雰囲気であれば逃げようもなく仕方なく従うが、裏切りが出てその仲間にもなれずに、そいつらに殺されるのは勘弁して貰いたいと考えているはずだ。
 チャンスではある。ここで老練な将軍が裏切りを完遂せずに死ねば、逃げ道の確保は出来るかも知れない。逆に将軍が子飼いの部下たちの説得を終えてしまえば、どうにもならなくなる。
 俺の横には不可視の術式を付与されたいつものインプと下級悪魔サテルス、それに姉お嬢様悪魔とその護衛として本陣に居た中級悪魔の4人。この4人で何をするかだが・・・。
 搦め手門の外側から大きな声が聞こえてくる。将軍の裏切りに呼応した敵が門の側に迫ってきている。動くには今しか時間がない。
「やるか!」
 左右のインプとサテルスに合図を送り、俺と姉お嬢様悪魔、中級悪魔が輪の中に入り込む。俺は小柄な上、ファル先生の術式の効果もあってするすると中に入り込めるが、お嬢様悪魔と中級悪魔は僅かに遅れる。
 なるようになるしかない!
 詰め寄られている老練な将軍の背後に回り込みインプとサテルスの動きを待つ。
 シュン。
 インプが資材の入っていた箱の上から放った矢が老練な将軍に迫る、だがその矢は簡単に将軍の手で払いのけられてしまう。だがそれを見た子飼いの部下たちは将軍へと詰め寄るのをやめて、彼と妹お嬢様悪魔を中心に残して、周囲への警戒行動に移る。
 よし、計画通りだ。
 俺はその動きに合わせて、老練な将軍の鎧を繋ぎとめている紐を切り裂く。すぐに脱げてしまう事は無いが、動けば鎧がずれて体の動きを阻害するだろう。
「皆、静まりなさい!悪魔として裏切りは当たり前の事ですが、今裏切った所で生きて居られるとは思わないことです、さきほど将軍は皆に自由にせよと言いました、これは自分以外の皆に対して、生死の責任は自分で何とかしろと言う事です、よく考えなさい敵に与して、それで主家の再興などと、悪魔にはりえない、将来的になる者を生かしておくはずがないでしょう?」
「そんな、姉さま・・・」
 姉お嬢様悪魔が妹お嬢様悪魔の背後からナイフを片手に首筋を抑える。
 不可視の術式は解除され、その姿は周りから丸見えだ。
「この砦はもうだめです、時期に大手門側から侵入した敵に囲まれるでしょう、しかし希望がない訳ではありません、近く魔王の鎮圧軍が来て戦いは終わるでしょう、その時に粛清される立場に成りたくないのであれば、皆で生き残るのです!」
 鎮圧軍?なんだそれ聞いていないぞ・・・。もしそんなのが来るのなら確かに戦いは終わるのだろうが、ブラフか?それとも何か姉お嬢様悪魔は手を打っていたのか
「なにをぬけぬけと嘘ばかり、すでに敵に与して体を許したのはそちらであろう!我をうらぎりとは片腹痛い、体だけでなく心も売り渡したと見える、この売女悪魔がっ、淫魔に付け込まれたかっ」
 それまでの表情をかなぐり捨てて、老練な将軍が大声をだす。この場を何とかしなければせっかくの裏切りと言う決断が無に帰すと言うような必死さだ。
「なにを裏切り者!お父様と長く一緒にいたくせに、ちょっとの嫉妬といい訳と命惜しさに敵に走った耄碌将軍、いかに悪魔と言えども、全てを裏切ってその後になんとするっ」
 この言葉に老練の将軍は激怒したのか、お嬢様悪魔に対して剣を抜く。
 ちなみに人間と違って悪魔には男女による力の差は通常存在しない。女性悪魔であっても男性悪魔を一刀両断できるし、塵にも出来る。なので将軍が女性であるお嬢様悪魔に剣を持って挑むことそれ自体は不思議でもなんでもない。
 ただ領主の娘に、その同盟者であった将軍が斬りかかるとなるとそれは流石に異常だ。
「将軍!」
 すぐにわらわらと飛び出した子飼いの部下たちが将軍を止めようとするが、激怒している将軍を群がる子飼いの部下たちを跳ね飛ばす。
「図星を突かれてお怒りの様ね将軍、裏切りなんてやめて死にたければ一人で勝手に死になさい、それで冥界でお父様に謝罪するといいわね」
「くっこの売女がっ、その手を離して我に挑んで来い!」
 姉お嬢様悪魔は煽る煽る。片手で妹お嬢様悪魔の首筋にナイフを突きつけて、余裕そうに、その上不敵そうに笑顔で煽る。
 しかし、膝当ての裏から見える足が細かく震えているのは俺には見えた。そして不可視の術式を解除せずにいた中級悪魔がこっそりと彼女の背後から震えて倒れないように腰を支えているのも同時に見る。
 上級悪魔でも怖いんだな・・・。
 お嬢様悪魔に注目が集まっている今、俺の出番はこれからだ
「これでもくらえっ!」
 子飼いの部下たちのお陰で容易にお嬢様悪魔達に近づけないと判断したの将軍は、術式を構築し始める。術式は氷の槍。術式としては簡素な方だが、乗せている魔力がさすが上級悪魔だ。銃弾にも匹敵する貫通力を氷に集約させている。
 俺の見せ場だっ
「おりゃー」
 いささか情けない声を上げて、俺はお嬢様悪魔と将軍との間に姿を現して、術式反射を行う。将軍の術式は簡素な物だったので、反射も楽だった・・・筈なんだけど・
 将軍が構築した術式は確かに暴発した。その威力の7~8割は将軍自身の体をを貫いた。だが、使っていた魔力が膨大で、構築され俺によって改変された術式の大本は簡素な物。
 注ぎ込まれた魔力が膨大だったため、その威力の2~3割は周囲にまき散らされ、子飼いの部下だけでなく、姉お嬢様悪魔の背後で彼女を支えていた中級悪魔や、俺にも被害をもたらした。
「くっ」
 左足と脇腹に貫通した黒焦げの穴。血が出てこないのは貫通時に傷跡を焼いたからだろう。すごい激痛で、意識が一瞬で持っていかれそうになるけど、ここで倒れてジエンドには出来ない。
暴発した術式のお陰で、周囲を取り巻いていた悪魔達は離れ、俺と将軍との間には邪魔する者は何もない状態となっている。
「なんだ下郎!上級悪魔の諍いに割って入るかっ」
 体中を穴だらけにされているはずの将軍だったが、俺よりはまだ元気に見える。剣を手にゆっくりと近づいてくる。先ほどの術式の暴発から何かを悟ったのか、もう術式は使ってこない。
「下郎下郎と蔑んでばかりいた相手に殺される気分はどうだい?その傷じゃどうせ長くない、黙っていたって死ぬんだ、今度は俺たちインプみたいに蔑まれるのはお前だよ将軍!」
 口は軽快に動くが、体は動かない。呼吸する動きの度に痛みが脳髄を走る。
 あ~これじゃあ術式反射とか、術式に介入とか出来ない。痛みで集中処の騒ぎじゃないからな。
「我が死のうとも、リアス様が居る、お家はまだ、続くのだ・・・」
 その領主の家を裏切り、妹悪魔と共に敵に身を売ろうとしていた奴のセリフとは思えない。向こうは動けるだけで、頭の中は意識もうろうとしているんだろう。
 チャンスではあるけど、俺は動けない。
「死ねっ」
 構えられた剣が頭上に振り上げられ、それが勢いを増して落ちて来る。
 なんとか体をひねって避けようとするが、その途中で脇腹の傷口が疼きそこで体が意思とは無関係に動きを止めてしまう。
 終わった・・。
 そう思ったが、さらなる痛みはやってこない。
 いつの間にか瞑っていた目を開くと、そこには誰かの背中があり、その向こうではずれた鎧の隙間を通して胸にナイフを突き立てた将軍が地面に倒れるところが見えた。
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