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第4章 裏切りの音が聞こえ始めるって言うのは、結局最後の破滅が近いって事で間違いない

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籠城を始めて40回近く昼夜が過ぎた頃にそれは起きた。
 最初は領主様の援軍がついに来たのかと、歓喜の声を上げそうになっていた砦の悪魔達だったが、実際は全く正反対な出来事で、敵の槍の先に、ある悪魔の首が突き刺さっていたのだ。
「なんだ?」
 その悪魔の首は当初、どこかで捕まった領主様の首と思われたが、それにしてはほっそりとしていて長い金髪をしている。武骨で日焼けをしていている所謂武人と呼ばれる領主様の首ではない。では誰の首か?敵が態々砦側に見せつける様に掲げていると言う事で、悪い想像はすぐについた。
「奥様か・・・」
 大手門を守る将であるズガンから声が漏れる。領主様の奥方を拝見する機会など多くの悪魔は持たないが、このズガンは領主に偉く気に入られ、とんとん拍子に出世する中、領主の家族とも付き合いがあった。その為に領主の奥方の顔が判るのだ。
 そして、その意味も瞬時に理解した。
「本拠が襲われたと言う事か・・・」
 本来であれば領主様とその家族もすべてこの砦に迎える段取り合った。古い砦ではあるが、敵の数も決して多くは無いし、魔王の威光を傘に周辺の領主を威圧する敵に反発する者も多い。砦で手痛い反撃を繰り返していれば漁夫の利を狙って周囲が動くのは明白だった。その為にズガンは早めに砦に入り、歴戦の古参兵である上級悪魔にも頭を下げて砦の強化を図ったのだ。だが、結果は敵の侵攻が速く領主様もその家族も砦に入れずに、かといって今までの館に住むこともままならず、周囲の領主の元に匿われていた筈だ。
 その匿われていた筈の家族の一人、奥様の首が掲げられている。
 領主様は死んではいないのだろう。領主様を討ち取っていたのであればその首を晒す方が効果が高いからだ。
 領主様の家族は、奥様と幼年の跡継ぎ、成人至近の姉妹が居るのみだ。
「やい、砦の者ども、すでにここの領主は家族を見捨てて、他国へ逃げ出したぞ!それを見たお前らに味方しようと考えていた小領主どもも雪崩を打って我らの味方に参じたわい、その証拠に匿うと約束した家族を差し出して詫びを乞う者もおったわ、その結果がこれよ!」
 つまり戦局が変わったと言う事か。この籠城戦、いやこの砦は周囲に見捨てられたと言う事になる。あの武人である領主様が、ただ恐れから逃げ出すなどありえない。おそらく別の手段を模索しているのだろう。だが、当初味方として信頼していた小領主共が裏切ったのは事実のようだ。出なければ奥様の首が掲げられるわけがない。
「さて、我らも全滅だの、八つ裂きだのには飽きが来ておるのよ、それにもう戦は勝利と決まったのに、こんなちっぽけな砦を攻めて死にたくはないしの、大人しく門を開けば、命だけは助けてやる、どうせ農奴が大半なのであろう?こちらも畑を耕す小悪魔共は大事にしたいからな」
勝手な事を言う。だが、ここで放置して言われっぱなしだと、味方の悪魔に動揺が走る。ズガンは周囲の悪魔に合図を出し、声を拡声させる術式を発動させる。
「非力な女性の首を取って喜ぶ蛮族の悪魔どもめ、そんな野蛮なお前らに門を開けばそれこそ蛮行に及ぶのは明白であろう、我らを屈服させたければ生きた領主様の命令を届けてみるが良い、領主様の言葉であれば明日にでも門を開こうぞ、しかし我らが父祖の地をあらそ盗賊に首を垂れる謂れはない!野卑でひん曲がった己の顔を洗って出直してくるのだな」
 味方からどよめきが起きる。戦意の高まりを感じるそのどよめきは、領主の奥様が死んだ事を受けて尚、戦いを止めない悪魔のどよめきだった。
 領主の奥様の顔を知る者はわずかで、下級の悪魔には首の意味も判らない。
「ほ~う、そんな事を言っていいのかな将軍殿、悪魔であれば口は災いの元と言うのは判っておろうよ、素直にこちらの話を聞かぬと言うなれば、僅かばかりではあるがその勇気を讃えて座興をお見せしようかな?」
「?」
 領主の奥様を掲げた槍が下がり、今度は5m程の高さに舞台が設置された車輪付きの台座が現れた。その台座の上には5人の悪魔が見える。
 見ればすぐにわかる、一人は幼年のお世継ぎ様、まだ12くらいだったかと思われる。さらにもう一人はあと数年で成人する上のお嬢様。下のお嬢様とちがい聡明と言われ、内地の経営にも参画し、それなりの成果もあげているときく。将来はお世継ぎ様が大きくなるまではその補佐につき、領地を大いに発展させる事を期待されていた。
 そして、その後ろには淫魔の姿。戦場だと言うのに薄い布地に盛り上がった胸の肉を収め、その手には細い鞭を持っている。
 残りの二人は所謂牛魔だ。二足歩行で歩くし、純粋な腕力であれば中級悪魔クラスであるが、その知能は下級悪魔以下の性欲魔人である。棒を突き刺せる対象が居れば魔物だろうが、魔族だろうが、男だろうが老婆だろうが関係なく突き立てる節操なしの最悪の魔物。 
但し、欲望を満たせばその後は破格の能力で敵を倒すので、扱いは難しいが、淫魔とセットであれば制御は可能とされている兵器扱いされている魔族だった。
幼年のお世継ぎ様の背後にその牛魔が迫る。体格の差はお世継ぎ様がインプに見えてしまうくらいだ。お世継ぎ様の目は目隠しされ淫魔に頭を押さえつけられている。両手は淫魔が作り出した術式で左右に広げられている状態だ。
 つまり、左右に腕を広げられ、頭をやや前に突き出している状態がどんな状態かと言うと。
「そんな、まさか・・・」
 ズガンが漏らした声ではなかったが、それでもその声の主の意見には賛同する。そんな、まさかだ。そんな事をして、本当にこいつらは蛮族なのか!
「はははっ、いいだろう?砦暮らしは長すぎて、余興に飢えていたんだろう?ほぉら見せてやるぜ、そっち系が好きじゃないなら後のお楽しみもあるからよ、金髪少年悪魔と、金髪少女悪魔が牛魔に犯されて身悶えする様をよく見ろや、大丈夫、淫魔の術式で坊ちゃんも嬢ちゃんも死ぬことはない、きっちり気持ちよくなるように仕込んでいるからよ~」
 そこからのズガンの記憶は曖昧だった。最初は痛みに耐えていたお世継ぎ様の声が、淫魔の術式を受けて次第に痛みから快楽に変わり、悲鳴から嬌声に変わっていった事。そのことについて上のお嬢様が非難するが、それも長続きはせず、お世継ぎ様と同じように悲鳴から嬌声に変わると言う最悪の展開。
 目で見えて、耳でも聞こえているのにズガンの脳は、その情報を理解することを拒んでいる。
 物語に語られる乙女の様に、悲鳴を上げて気絶でも出来れば楽だっただろうが、あいにくズガンは屈強な上級悪魔。気絶する事も許されず、かといって目の前で起きている事を理解する事も出来ずに、何も出来ない。
「ズガン様!ズガン様!如何いたします?方法は2つです、今すぐ全戦力で一気にあいつらを八つ裂きにするか、それとも夜を待って皆様を救い出すのか?選択は2つ、選ぶのはズガン様です!」
 いつもは型にはまって細かい事ばかりにうるさい部下の一人が、目から血が出るのかと思うくらいに血走らせて、反応の鈍いズガンの腕を痛いほどに握り締める。
「あっおっおう、今すぐにでもあいつら全ての眼球を抉り出し、闇に葬ってやりたいが、準備が足りぬ、今の勢いで突撃すれば相手の思う壺だ、あいつらがそれを誘っているのは明白だ、だが2つ目の作戦、出来るのかグレモル・オセ?」
「お任せください、もし違う悪魔に命じられていましたら、今すぐに勝手に動くところでした、必ずや」
「よし、もう二度と私はあれを見たくない」
「承知」
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