上 下
4 / 25
第1章 最低最悪って、つまりは今の事だよな

1-3

しおりを挟む
 お嬢様の襲来から数日後、俺のチームはインプ2匹と下級悪魔1人の弱小チームになっていた。それまでは周りから比較すると割と仕事が出来る方のチームだったけれど、今やお荷物扱いもはっきりしている。他の農奴たちの足手まといでしかなかった。
 それでも俺としては、やれることをやるしかなかったわけで、それ以上の何もできないほど毎日毎日、気絶するぐらいい頑張っていた。なにせそれ以外出来ることも無かったから。無謀な逃亡を企てても、殺される未来しか見えなかったから。
 そんなある日、下級悪魔が上司に呼び出されたとかで作業が中止になった。あの日以来下級悪魔はそれまでの傍若無人な態度はなりを潜め、積極的に作業に参加する好感度上昇上司に変貌していた。噂では周囲の監督役な下級悪魔達から嫌がらせを受けて立場が急落し、今は解雇に怯えながらも成果を出すしか方法がないらしい。今までは好成績を収めていたチームを率いてたのだから、それなりに威張っても居たのだろう。
 それが偶然とは言え、視察に来たお嬢様にたてついて、罰を受けチームの大半を殺されたなんて噂が広まる状態になれば、復讐とまでは行かないまでも意趣返しくらいは当然としてあるんだろう。人の世界も悪魔の世界も変わらない。人間関係は大事にとか言うやつ程、こうやって足を引っ張る事しか考えていない。そう考えれば今の下級悪魔には同情できなくもない。
 下級悪魔の癖してインプと一緒になって農奴やるって、実は器がデカいのかもな。
「おい、指示が出た、俺たちは異動だ」
「へい、所でどこへ?」
「お優しい領主様が、農奴の数が揃うまで俺たちは警備小屋に詰めろとのお達しだ、俺たちが担当する警備小屋は西の尾根沿いにある砦の近くだ、すぐに行くぞ!」
 なんかテンションが高い。想像するに今の仕事を続けるプレッシャーよりは心機一転頑張ろうって気持ちなのかもしれないな。後、敬愛する領主様から命令があったと言う事で見捨てられてないと思うことが出来たのかも?
「いいか、お前らは知らないだろうが、今この辺りは大騒ぎ一歩手前の状態なんだ、特に西にいる領主とうちの領主様は元から仲が悪かったんだが、近く西の領主が中央の魔王様から引き立てられる噂がある、もし魔王様の直属となれば向こうの方が立場が上になる、そうなるとな、今まで小競り合いをしていたのが、大規模になるって寸法だ」
「へぇ、そうですか?」
 なんでそんなインプには関係ない話を、この下級悪魔はしているんだろう?大体勢力がどうの、領主がどうのなんて話は、使いっ走りに毛の生えた様な下級悪魔でも関り無い話だ。底辺も底辺、使い捨てなインプにはさらに関係のない話で、それを自慢げに話すこいつはどういうつもりなんだろうか?
 なんか嫌な予感がする。いじめが始まる前に、軽く一当てして相手の反応次第で態度を決める時の様な空気感がある。
「だからな、今警備小屋を任されるって事はどういうことか?少し考えればわかるんだが、つまり一気に出世できる機会を貰ったって話になる」
「それは、つまり、どういう事なんです?」
「本当にお前らの頭には脳が入っているのか?小競り合いが激しくなる時に警備小屋に回されるって事は、戦で活躍できるって事じゃないか!」
「ほえ~、戦で活躍と?」
「ああ、そうだ、戦で活躍すれば小悪魔だって下級を飛び越して中級悪魔になるのだって夢じゃない」
「ですが、悪魔の階級は絶対じゃないんですかい?」
「ああ、本来はそうだ、普通にしていたら小悪魔は一生小悪魔のまま、下級にも上がるこたぁ出来ない、だがなぁ領主様が教えてくれたんだが方法はあるんだ、階級を決めるのは魔力の量だ、その魔力量が高いと上級、低いと下級、そこまでは判るな?」
「へぇ、なんとなくは・・・」
 強い者が偉いと言う世界で、毎回戦って強さを競っていると毎日戦う羽目になり生活もままならない。強さの基準を魔力量に置き、そこから階級を作ったらしい。しかしこの下級悪魔、同格の悪魔からハブられてるせいか、喋る相手が居ないらしく、インプ相手に多弁だ。
「なら階級を上げるにはどうすればいい?答えはな、悪魔を倒すんだ、倒した悪魔の魂が結晶化する、それは魔力の塊と一緒でな、それを身に着ける事で魔力の底上げが出来るって事だ」
 つまりは、悪魔を殺すとその中から電池が出てくる。電池を一杯持てば自分の持つ電力が増えるってことだろうか?でもそれって電池を奪われたら、元に戻る危険はないのかな
「それはすごいことですなぁ」
 インプの分際で、それ格上の悪魔を戦で殺すという可能性がまず考えられない。言っているこの下級悪魔だって悪魔の中では下級なのだから、そう簡単に上位の悪魔を殺すことは難しい。相手だって殺されに来るわけじゃないんだから、インプと下級悪魔が束になっても敵うはずがない。
 これは、昔聞いたことがある。左遷って奴だ。
 忠誠心だけ多量な無能者を体よく最前線に放り込んで、夢だけ持たせて捨てるんだろう。
 可哀そうな話だけれど、それに付き合わされる俺も大概可哀そうだ。インプなんかが戦場に居たら、とりあえず邪魔だから殺すだろう。可能性としては弱すぎて稼ぎにならないから、放置しておくってのもあるかもしれないけど、甘い期待な気もする。
 この世界が、俺に対して甘いと思い込む事は出来ない。
 そんな話を聞きながら歩くこと半日。
 徒歩で移動した事を考えると30キロくらいは歩いたのかな?戦場がそんな距離にあるなんて知らなかった。下手に逃げて、監視をかいくぐったとしても、すぐ近くが戦場と知らなければ危なかった。
 やっぱり最弱なインプは知恵を磨くしかない。磨かなければ気まぐれで殺されるだけの存在なのだから。
「これが、見張り小屋なのか?」
 一行が到着した場所は、鬱蒼と木々が空を隠すような森の中。
 目の前にあるのは辛うじて3人が中に入れるくらいの崩れかけ、廃屋と言われても疑問を持ちようがない小屋だった。
「まぁな、こうあからさまな石造りの見張り小屋なんかよりは、敵に見つかりにくいからこれは戦略って奴だ、どっちにせよここが俺たちの仕事場だって事に代わりがない、これから役割を説明するから、よぉく聞け!俺たちはここで敵の動きを監視する、敵が現れた背後の、あのあたりにある砦に走って報告する、敵が来た方向とその数を忘れずに伝える、いいか?」
「へぇ」
 ある国が戦争中はほぼ国是としていたと、授業で習った見敵必殺ではなく、情報を発すると言う斥候みたいな役割と言う事かな?
 あの中立て中年だった歴史のおじさん教師は、今何をしているだろう?生徒の一人が自殺して、何かしらの面倒にまきこまれていなければいいなとは思う。それ以外大多数の奴らは家族も含めて、俺以上の地獄に落ちていればいいと思うけど。
「じゃあ、まずは外観を変えずに、準備を整えるぞ、かかれ!」
 俺と、もう1匹のインプがノロノロと動き出す。農場だろうが見張り小屋だろうが、インプの動きが変わる事は無い。
 けど、相手を攻める時ってのは敵の斥候は最初に殺されるよなぁ。ゲームでもそれは必須だった。敵の場所が判らなければ戦い自体がうまく行かない。
 俺って自業自得の部分もあるけれど、長生き出来ない星の元に生まれて来たのかもしれない…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました

雪華慧太
ファンタジー
会社が倒産し無職になった俺は再就職が決まりかけたその日、あっけなく昇天した。 女神の手違いで死亡した俺は、無理やり異世界に飛ばされる。 強引な女神の加護に包まれて凄まじい勢いで異世界に飛ばされた結果、俺はとある王国を滅ぼしかけていた凶悪な邪竜に激突しそれを倒した。 くっころ系姫騎士、少し天然な聖女、ツンデレ魔法使い! アニメ顔負けの世界の中で、無職のままカンストした俺は思わぬ最強スキルを手にすることになったのだが……。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

~前世の知識を持つ少女、サーラの料理譚~

あおいろ
ファンタジー
 その少女の名前はサーラ。前世の記憶を持っている。    今から百年近くも昔の事だ。家族の様に親しい使用人達や子供達との、楽しい日々と美味しい料理の思い出だった。  月日は遥か遠く流れて過ぎさり、ー  現代も果てない困難が待ち受けるものの、ー  彼らの思い出の続きは、人知れずに紡がれていく。

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

処理中です...