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第29話 モヤモヤしますね

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 完璧令嬢様のクリスティーナ様は、美しい笑顔と爽やかな香りを残し去っていった。
 香りまで良いなんて高貴な人は違うとレイナは感心する。
 貴族の女性にとって香りも身だしなみの一つなのだろう。

「あの方はどなたなのですか?」

 レイナはニコラに確認する。
 ニコラの事も呼び捨てにしていた。
 それを許される立場の人物が誰なのか、レイナが気になるのも当然の事だ。

「あの人はアルティアーク公爵家の御令嬢でイーサン兄様の婚約者だ」

 公爵家というと王族の次に高貴な家柄。
 やはりそれなりの家柄の人物だった様だ。
 教育されないければ、あそこまでにはならないだろ。
 彼女の洗練された所作を見るとレイナは納得してしまう。
 
 そこでレイナは思い出したかの様にニコラに言う。

「クリスティーナ様はイーサンの婚約者なのですか!」

 確かに王族だったら婚約も早そうだし、政治的な事に結婚を利用する事もあるのだろう。
 この世界だと10代後半の男性なら婚約者がいても不思議ではない。
 レイナはニコラの発言を確認する。

「ああ、数年前に婚約したな」
「あのお二人が……」

 誰もが羨みそうな美男美女のカップル。
 ニコラの話によると彼女は幼少から妃教育を受けてきたらしい。
 家柄の良い御令嬢なので教育のレベルも高かったのだろう。
 所作が美しいのはその為だ。

 子供の頃から妃になる為に教育を施されてきたのがレイナには信じられなかった。
 幼少から厳しく教育を受けたので優雅な仕草が身に付いているのかとレイナは納得する。

「綺麗な人ですから、イーサンも幸せ者ですね」

 クリスティーナは妃になる為に生きてきた様な人物だ。
 イーサンと結婚するのは当然であり周囲もそれを望んでいる。
 レイナも以前アンブロウ王国の王子と婚約していた。
 結局は婚約破棄をされてしまったが、クリスティーナの様の人物であればその様な事はなかったのだろうなと、自分の至らなさにレイナは少し反省する。
 しかし実際のところは自由に生きられる今に満足しているので、婚約破棄されて感謝したいぐらいだとレイナは思っている様だ。

「……」

 レイナの指摘にニコラは沈黙を返す。
 不思議に思いレイナは言葉を続ける。

「ち、違うのですか?」

 レイナはニコラの妙な間が気になった。

「いや、兄上が結婚してしまって、お前はいいのか?」
「えっ? 婚約されているのですから、いずれ結婚されるのですよね?」

 婚約を破棄される人間もいるが、それはまあいいだろう。

「まあな。でも驚いていたと言うことは、初めて知ったのだろう?」
「はい。少し驚きましたけれど、王族として結婚は必要な事ですよね」
「そうだが。まあ、お前が問題ないならいいのだが……」

 何故だかニコラの歯切れが悪い。
 レイナとしてはイーサンには良くして貰っている。
 衣食住から今後の事まで考えてもらっていたりと様々だ。
 今もニコラの所で訓練をさせて貰えているのは、イーサンに紹介して貰ったからだ。
 だからこそイーサンには幸せになって欲しいとレイナは考える。

 イーサンとは兄と妹みたいな関係なんだろうとレイナは思っている。
 イーサンからみたら、ほっとけない手のかかる妹。
 だからつい色々と手を焼いてしまう。
 そう言う事なのだろうとレイナは推察している。

 良き理解者であり雇用主。
 イーサンとはそれ以上でも以下でもないはずだ。

 でも何故だか胸の奥がモヤっとするレイナ。

(うーん何だろうこの気持ち)

 今まで感じたことのない感情にレイナは戸惑う。
 自分でもよく分かっていない。
 レイナは気持ちを切り替えてクリスティーナの事を聞いてみる事にする。

「クリスティーナ様は本日は何しにいらっしゃったのですか?」
「さあな。多分、兄上に会いに来られたのだろう」
「婚約者ですのもね。会いに来るのは当然ですよね……」

 ニコラ同様レイナも歯切れが悪くなる。
 それからレイナは雑念を振り払うかのように剣を振った。
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