5 / 25
5 レオンの独白
しおりを挟む※レオン視点です。
六歳の夏、俺は運命に出会った。
妖精のように可憐で、焼き立てのシフォンケーキのようにふわふわな女の子。
彼女の名前はグレイス・ガーフィール。
絶対に手に入れたいと思った。
胸の中には独占欲が渦巻いていた。独占欲なんて言葉も知らないガキだったくせに。
※※※
公爵家に生まれた俺は、生まれつきの魔力が異常に高かった。魔術の基礎を教わる前から、無意識に肉体強化や体力増強魔術を使いこなしていたのだ。
元々体力が無尽蔵にあると言われる幼児の頃、無意識の魔術で増強された俺はさながら回遊魚のよう。止まったら死ぬのかというほど、ノンストップで暴れ回り続けていた。
そんな俺の体力に乳母や侍女たちどころか父の護衛ですらお手上げになり、困り果てた両親は好きなだけ動き回らせる場所を用意して放り込めばいいと結論を出した。
そこで用意されたのが、公爵領にある別荘だった。
元々ある城のような巨大な建物に夏の間思う存分暴れ回っていいと、押し込められたのだ。
そして、効率的に体力を削れるよう、遊び相手として年頃が近い貴族の子女を選んで招待した。
もちろん遊ぶだけでなく、未来の側近候補や、婚約者候補選びも兼ねていたのだが。
その招待された中にグレイスがいたのだ。
一目見て気に入った俺は彼女を引っ張り回した。俺は自分の体力や肉体能力が人並み外れていることをまだ認識していなかった。
そんな俺と遊ぶのは、ごく普通の女の子でしかないグレイスには負担だったことに気付きもせず。
ごく普通の六歳の子供には、全速力で2時間走ることが出来ないことを、俺はまだ知らなかったのだ。
「あっちに行こう、グレイス! 少し走ったところに大きな湖があるんだ」
「どこまで走るの……私……もう無理……」
グレイスは別荘に来て早々に倒れ、熱を出して寝込んだ。
元気になったグレイスを、次は三階くらいの高さがある木に登らせた。
「こないだはごめん。これからは屋敷の近くで遊ぼうな。ほら、この木に登ろう!」
「無理だよ、怖いよ!」
「大丈夫。後ろから押してあげる」
グレイスは木登りの途中で降りられなくなった。
俺は無理なら飛び降ればいいと思い、一人で木から飛び降りて無事に着地をした。しかし、それをして怪我一つしないのが自分だけとは知らなかった。
木から降りられなくなったグレイスは丸一日かけて大人に救助され、再び熱を出して寝込んだ。
さすがにそんなことが続いた俺は反省した。
グレイスは女の子で、俺より体力がない。すぐに熱も出してしまう。
大切にしようと心に誓い、グレイスが喜びそうな綺麗な木の実を拾い集めてハンカチに包んだ。
数日後、ようやく熱が下がったグレイスに木の実をハンカチごと渡した。ピカピカの木の実ならきっと喜んでもらえるだろうと期待して。
──まさかハンカチに包んで部屋に置いているうちに、木の実に虫がわいて大変なことになってしまったとは考えもしなかった。
※※※
次第にグレイスは俺を遠ざけるようになった。
グレイスの関心を得ようとしつこく付きまとい、余計に嫌がられてしまったのだ。
グレイスを諦めきれない俺はどうにか仲直りしようと、庭で見つけた珍しいものをグレイスの鞄に忍ばせたのだった。
それは青色の蛙だった。よくいる蛙は緑色をしているのだが、稀に青色の蛙がいて、幸運を呼ぶと伝えられている。それを庭師から聞いて、見つけた青い蛙をどうしてもグレイスに見せたかったのだ。
──結果は言うまでもない。
やることなすこと裏目に出てグレイスに嫌われてしまったが、それでも俺はグレイスを諦めきれず、次の年もその次の年もグレイスを別荘に招待してほしいと両親に頼み込んだ。
幸い、母も可愛いグレイスが気に入って、彼女の喜びそうな稀覯本をたくさん用意していた。
七歳以後は、可愛いグレイスに下心を抱き、声をかけようとした男に水面下で邪魔し続けた。
別荘に呼ばれた少年たちにもその手合いはたくさんいたから、結果的に呼ばれる子供は毎年変わるようになった。
中には不埒な考えを持って送り込まれる子供もいた。そういう子供は夏が終わる前に送り返された。
そしてグレイスは時に同性からの嫉妬も買っていた。八歳の時には、グレイスをいじめてやろうとコソコソ相談していた数名を早々に親元に送り返した。
汚れなきグレイスに変な人間を近づけさせるわけにはいかないと、目を光らせ続けた。
一人で寂しそうにするグレイスが不憫で、俺はよく本を読むグレイスのそばにいた。
本を読んでいるグレイスは集中力がずば抜けていて、俺がそばにいても気が付かず、泣いたりもしなかったからだ。
本を読むグレイスの横顔を見つめ、お茶やお菓子を手の届くところに置く。するとグレイスは本から顔を上げず、俺の用意したお茶を飲み、お菓子をパクパク食べるのだ。その姿はとんでもなく可愛らしかった。
ただ、気をつけてもグレイスを泣かせてしまったことも何度かある。
十歳の時、グレイスが庭に咲く薔薇が気に入っていたから、その薔薇で花吹雪をしたら喜ぶと思ったのだ。しかし結果は真逆に終わった。
お気に入りの薔薇を台無しにする嫌がらせだと思われてしまったのだ。
もちろんひどく泣かれてしまった。
十二歳の時には、手洗い後のグレイスがスカートの後ろが捲れ上がったまま気付いてないことがあった。
指摘しようにも俺が近付くとグレイスは逃げてしまうし、グレイスの捲れ上がったスカートから覗く太ももや下着を他の男に見せたくはなかった。女子はグレイスのことをヒソヒソクスクスしているだけで、指摘せずに笑いものにしてやろうという魂胆が見え見えだった。
やむなく、俺はグレイスの背後に走り、捲れ上がったスカートを一瞬で戻す作戦に出た。しかし勢いがつき過ぎて、強く引っ張ってしまった。
グレイスは急にスカートを引っ張られて転び、額を打ち付けてしまった。
ワンワンと声を上げて泣くグレイスは額を擦りむき、血が滲んでいた。
俺はたまたま近くを通りかかった少女にグレイスのことを頼んで逃げた。彼女はその年に招待された中で比較的まともそうだったから、グレイスのことを任せられるはずだ。
俺はといえば、見えてしまったグレイスの太ももや下着を思い出しては真っ赤になり、数日間部屋に閉じこもった。
その間に、グレイスは彼女と仲良くなったらしい。
楽しそうに笑うグレイスの額の絆創膏を見て、すごく申し訳ない気分になった。
※※※
それでも俺の気持ちは変わらない。
いつか絶対にグレイスと結婚する。
そのために、グレイスに相応しい男になろうと、俺は体を鍛え、勉強をし、魔術も特訓した。肉体ののコントロールも出来るようになったのだ。
魔術騎士団に入ったのは無尽蔵な体力と魔力がある俺にはぴったりだったが、そこで活躍することが出来れば、家格がずっと下のガーフィール家に婚約打診しても構わないと父親から条件を出されていたからだ。
俺は父親からの期待に応え、ようやくガーフィール家に婚約の話を持っていく許可を得たのだ。
他の男になんて絶対に渡さない。
──グレイスは俺のものだ。
19
お気に入りに追加
506
あなたにおすすめの小説
転生幼女。神獣と王子と、最強のおじさん傭兵団の中で生きる。
餡子・ロ・モティ
ファンタジー
ご連絡!
4巻発売にともない、7/27~28に177話までがレンタル版に切り替え予定です。
無料のWEB版はそれまでにお読みいただければと思います。
日程に余裕なく申し訳ありませんm(__)m
※おかげさまで小説版4巻もまもなく発売(7月末ごろ)! ありがとうございますm(__)m
※コミカライズも絶賛連載中! よろしくどうぞ<(_ _)>
~~~ ~~ ~~~
織宮優乃は、目が覚めると異世界にいた。
なぜか身体は幼女になっているけれど、何気なく出会った神獣には溺愛され、保護してくれた筋肉紳士なおじさん達も親切で気の良い人々だった。
優乃は流れでおじさんたちの部隊で生活することになる。
しかしそのおじさん達、実は複数の国家から騎士爵を賜るような凄腕で。
それどころか、表向きはただの傭兵団の一部隊のはずなのに、実は裏で各国の王室とも直接繋がっているような最強の特殊傭兵部隊だった。
彼らの隊には大国の一級王子たちまでもが御忍びで参加している始末。
おじさん、王子、神獣たち、周囲の人々に溺愛されながらも、波乱万丈な冒険とちょっとおかしな日常を平常心で生きぬいてゆく女性の物語。
もしも乙女ゲームの世界で善良な人物しか登場しなかったら?
naturalsoft
恋愛
ジェミニ王国には妖精が住んでいた。
滅多に人前には現れない妖精だが、確実に存在し、時々イタズラをしては人々を困らせた。
そして今回、王国で産まれたばかりの王女と平民の赤ちゃんを取り替えた事で、国を揺るがす事態となったのだった。
その赤ちゃんが【二人とも転生者】とも知らずに─
乙女ゲーム攻略対象者の母になりました。
緋田鞠
恋愛
【完結】「お前を抱く気はない」。夫となった王子ルーカスに、そう初夜に宣言されたリリエンヌ。だが、子供は必要だと言われ、医療の力で妊娠する。出産の痛みの中、自分に前世がある事を思い出したリリエンヌは、生まれた息子クローディアスの顔を見て、彼が乙女ゲームの攻略対象者である事に気づく。クローディアスは、ヤンデレの気配が漂う攻略対象者。可愛い息子がヤンデレ化するなんて、耐えられない!リリエンヌは、クローディアスのヤンデレ化フラグを折る為に、奮闘を開始する。
今日で都合の良い嫁は辞めます!後は家族で仲良くしてください!
ユウ
恋愛
三年前、夫の願いにより義両親との同居を求められた私はは悩みながらも同意した。
苦労すると周りから止められながらも受け入れたけれど、待っていたのは我慢を強いられる日々だった。
それでもなんとななれ始めたのだが、
目下の悩みは子供がなかなか授からない事だった。
そんなある日、義姉が里帰りをするようになり、生活は一変した。
義姉は子供を私に預け、育児を丸投げをするようになった。
仕事と家事と育児すべてをこなすのが困難になった夫に助けを求めるも。
「子供一人ぐらい楽勝だろ」
夫はリサに残酷な事を言葉を投げ。
「家族なんだから助けてあげないと」
「家族なんだから助けあうべきだ」
夫のみならず、義両親までもリサの味方をすることなく行動はエスカレートする。
「仕事を少し休んでくれる?娘が旅行にいきたいそうだから」
「あの子は大変なんだ」
「母親ならできて当然よ」
シンパシー家は私が黙っていることをいいことに育児をすべて丸投げさせ、義姉を大事にするあまり家族の団欒から外され、我慢できなくなり夫と口論となる。
その末に。
「母性がなさすぎるよ!家族なんだから協力すべきだろ」
この言葉でもう無理だと思った私は決断をした。
縦ロールをやめたら愛されました。
えんどう
恋愛
縦ロールは令嬢の命!!と頑なにその髪型を守ってきた公爵令嬢のシャルロット。
「お前を愛することはない。これは政略結婚だ、余計なものを求めてくれるな」
──そう言っていた婚約者が結婚して縦ロールをやめた途端に急に甘ったるい視線を向けて愛を囁くようになったのは何故?
これは私の友人がゴスロリやめて清楚系に走った途端にモテ始めた話に基づくような基づかないような。
追記:3.21
忙しさに落ち着きが見えそうなのでゆっくり更新再開します。需要があるかわかりませんが1人でも続きを待ってくれる人がいらっしゃるかもしれないので…。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにて先行更新中
優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~
日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。
もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。
そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。
誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか?
そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる