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第8話「使用人とは」後

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「こちらでは、お嬢様にお出しできるものがございません」

使用人と同じものを食べさせたのかと怒られるのは、こちらだというのは明白だ。
そんな面倒ごと引き受けたくないに決まっている。
きっぱりはっきりとジェーンさんがお嬢様の要望を断る。
けれど、こちらの都合なんて考えないのが、お嬢様だ。

「命令よ、早く支度して!」

うるさいと言わんばかりに、ピシッと言いつけたお嬢様。
食堂の空気は最悪だ。

「……かしこまりました」
「……」

アンナがすっと頭をさげ、ジェーンさんが渋々といった感じで頭を下げた。
内心みな、ため息をついているだろう。
それでも、何も言わずに立ち上がり、お嬢様の食事の用意を始める。
その様子に満足したらしいお嬢様は、さっさと近くのテーブルへと席につく。

「あ、ロンくんはここに座ってて」

同じように立ち上がって、用意を手伝おうとしたロンくんにお嬢様が声をかける。

「……しかし、皆働いていますし、」
「いいから~」

立ち上がったロンくんの腕を掴んで、無理やり隣に座らせる。
その様に、頭を抱えたくなる。
本来、使用人といえど、勝手に部屋に入るなどしてはならない。
お嬢様の行動は、別館といえど、これに近いものである。
部屋が与えられているのは休むためで、そこに行けばいつでも用事を言いつけられるとかそういった理由ではない。
なので、お嬢様の突然の訪問も、命令もマナー違反だ。
お勉強を一切してないお嬢様がそのことを知っていたり、考えたりはしないだろうが。
知らないのなら、教えてあげればいいのだけれど、教えても聞いてくれない場合はどうしたものか。
とりあえず、注意はしておかないと、とお嬢様に近づく。

「お嬢様、」
「何?」

ロンくんを横に侍らかしているため、お嬢様の機嫌はいいようだ。

「こちらは使用人専用の別館で、私的な空間です」
「だから?」
「突然押し掛けたりするのは、たとえ主人であってもマナー違反です」

出来るだけ機嫌を損ねないように、そして、理解してもらえるように、一言一句ゆっくりと口にした。
お嬢様は私の言葉に、キョトンとしたあと、さっと辺りを見回した。
一人一人を確認するような動作だった。
珍しくすぐさま反論が来なかったので、理解したのかと思えばそんなことはない。

「ロンくん以外はモブなんだから、別にいいじゃない」

これだった。

「モブなんだから、何も困らないでしょ?」

教えても理解しようとしてくれない場合はどうしたものか。
開き直るお嬢様に言葉を重ねようとしたところで、ドンっとトレーが置かれた。

「使用人用の食事しか提供できませんが、よろしければどうぞ」

笑顔なのに後ろに般若を連れたジェーンさんだった。

「別にいいわ。本邸の食事も美味しくないもの」

お嬢様の言葉に、今度は炊事場の方から物凄い音が響いた。
落ち着きなさいアンドレ、とマーガレットさんの声が聞こえる。
そんな漏れ聞こえる音声も気にせずお嬢様はロンくんとお喋りしながら食事をして帰っていった。
水が欲しいだの、量が少ないだのとケチをつけられて、のんびり羽を伸ばせるはずの空間でこき使われて、皆辟易した。
また来るね、なんて言っていたお嬢様に、やっぱりお勉強をしてもらわねばと思う。
けれど、それをみんなに言うと、無理だ諦めろの言葉しかもらえなかった。
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