上 下
12 / 31

第6話「貴族令嬢とは」中

しおりを挟む
そんなことがあってから、多分、ちょっとは使えるとでも思われている感がある。
お嬢様の代わりに勉強させてもらっているおかげで貴族の作法もわかってしまったのが、良かったのか悪かったのか。
身分が下の者から貴族に対しての礼儀と貴族から貴族に対しての礼儀は違ってくるので、覚える必要なんてないと思っていたのだが、思いの外、役に立つらしい。
ちょこちょこと夫人のお茶会で給仕していれば、ついにお嬢様のお茶会でも給仕するようにとアランさんに言われた。
使用人用の別館で軽めの夕食を取っていた時のことで、思わず伝えてきたアランさんをぽかんと見つめてしまった。
急に決まったお茶会の給仕に、何かあったのだろうかと首を傾げる。
普段、お嬢様が開くお茶会には、アンナとサーシャさんが付いていたはずだけれど。
そこでふと、使用人が集まる夕食時にもかかわらず、サーシャさんがいないことに気づく。

「あの、アランさん、まさか……、」
「昼間、お嬢様より解雇を言い渡されたそうです」

サーシャさんが解雇された。
さらに人手が減ってしまったことに、一緒に働いてきた仲間がこうもあっさり切り捨てられたことに、食堂に集まる皆の顔が暗くなる。
一年前くらいまでは解雇された後、人員の補充が行われていたのに最近は補充をしない。
アンナ一人でお嬢様のお世話って、大丈夫だろうか。
そもそも、何故お嬢様はサーシャさんを解雇したのか。
疑問に思って、アランさんに声をかける。

「ちなみに、理由は何だったのでしょうか?」
「最近お嬢様はよくお出かけしては高価なものをお買いになっておられました」
「……なるほど、」

アランさんの言葉で、サーシャさんが買い物を控えた方がいいのではと助言し、それに怒ったお嬢様が解雇を言い渡したのだろうと察する。
人員の補充がされないのは、多分、財政的によくないからだろうと財務に関わっていない私でも推測できる。
その財政が良くない中での高価な買い物なんて首を絞めるだけだ。
だからサーシャさんは忠告してくれたのに、お嬢様は相変わらず人の話を聞かなかったらしい。

「アンナ一人での給仕では難しい規模のお茶会のようですので、」
「わかりました、お手伝いします。その間、ジェーンさん一人での仕事になりますけど、」

お茶会は大体午後からではあるが、お茶会の準備は午前中から始める。
そうしないと、間に合わない。
飾り付けに、食べ物の用意など、特に食べ物の用意が時間がかかる。
普段は私とジェーンさんで午前中に屋敷の掃除や洗濯をしている。

「私は大丈夫だから、お茶会の方を頑張りなさい」

ジェーンさんはにっこり笑ってそういってくれたけれど、屋敷の掃除を一人で行うというのは難しくないだろうか。
かと言って、お茶会の準備はもっと忙しいだろうから、手伝えるかわからないし。

「あの、無理そうだったら、声をかけてくださいね」
「あら、私のことを年寄り扱いしないでくれる?」
「そ、そういうわけでは、」
「大丈夫よ、一人でも。貴方よりもうんと経験があるんですから」

気丈に笑うジェーンさんを心配しつつも、よろしくお願いしますと言って食堂を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

その断罪、三ヶ月後じゃダメですか?

荒瀬ヤヒロ
恋愛
ダメですか。 突然覚えのない罪をなすりつけられたアレクサンドルは兄と弟ともに深い溜め息を吐く。 「あと、三ヶ月だったのに…」 *「小説家になろう」にも掲載しています。

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

もう、終わった話ですし

志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。 その知らせを聞いても、私には関係の無い事。 だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥ ‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの 少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

処理中です...