上 下
48 / 50

47.対話

しおりを挟む
 フィンと別れた後、釈然としないままカイの部屋に向かう。今日のカイの雰囲気からしてドアをノックをして良いものか躊躇い、扉の前の前をぐるぐるしている。
 結局魔力強化もあるし覚悟を決めてカイの部屋の前に向き直ると既にそこにはカイが立っていた。
「ずっと何してんだ?」

「!・・・、気づいてるなら呼び止めてくれよ!・・・えっと、あの・・・。」
 先に謝った方が良かったかな。カイが怒ってるのは俺が黙って無理しようとしたからだよな?なんて謝れば良いんだろ。
 まともにカイの顔なんか見れる訳もなく不自然に視線が泳いでしまう。しばらくすると上からため息が聞こえて、そんな少しの事で胸が苦しくなる。
「用がないなら閉めるぞ。」

 扉を閉めようとするカイ。俺は咄嗟に手で扉が閉まるのを防ぐ。
「魔力強化させて!すぐ終わらせるから、お願い。」
 扉を閉める力が弱まった。カイはドアノブから手を離し、ベッドに腰をかけた。カイは無言のまま目をつぶっている。

 入って良いってことだよな・・・?カイを追いかけるように部屋の中に入る。入り慣れた部屋なのにいつもと違うように感じる。
「疲れてるのにごめん。」
 慎重に距離を詰めて、ベッドの端に腰をかけるカイの後ろから抱きつくように腕を回す。まずは体力の回復から行っていき、続けて俺の魔力をカイに注ぎ込む。薄暗い部屋には天色の光が切なく灯る。魔力強化にも集中しつつ、カイの顔を伺い見る。

「カイに黙って、無理しようとしてごめん。」
「・・・。」
 何も反応がない。無理しようとしたことを怒ってると思ったけど、違うのかな。俺はどうすれば良いんだろ。
「俺はバカだから、これくらいしか思い付かなかったんだ。何に怒ってるか教えて欲しい。俺はどうしたらいい?」

「ナオトは悪くねぇよ。俺が居ない間に知らねぇ奴と仲良くなりやがって。俺よりそいつを頼ったことも気に食わねぇが、別に悪そうな奴じゃねぇし。挙句、その神官に八つ当たりして自分の器が小せぇのにうんざりしてるだけだ。・・・今だって、他の騎士にもナオトがこうやって触ってると思うとイライラすんだよ。」

 カイが少し振り返り横目で俺を見る。突然、視線があったことで心拍数が上がっていく。かろうじて魔力を注ぐのは続けている。

「他の人にはこんな風にしてないよ。背中に手を当てたり、手を繋いだりするだけ。フィンは・・・、俺が勝手に頼ってるだけだ。でも!カイを頼りなく思ってるからとかじゃなくて、心配かけたくなかったんだ。それにリスト外の騎士が見たら、辛いかなと思って・・・。」

「・・・分かってんだよんなこと。でも、あの神官とはそれだけだとは思えねぇ。ナオトが幸せならそれで良いと思わなきゃいけねぇのは分かってる。悪かったよ。」

「フィンとはほんと何もないよ。明日は別の仕事で医務室には来ないって言ってるし・・・。」

 フィンが別れ際、曖昧に返事をしたのが脳裏から離れない。明後日も仕事が入るからなのか、俺のことがめんどくさいと思ったのか・・・、もっとちゃんと話せばよかった。
「・・・。」
 カイはまた、黙ってしまった。もう顔も背けてしまって視線は合わない。相手の幸せを願うことは義務じゃないと思う。そういう思考にしてしまっている俺が悪い。

「俺の幸せなんて考えなくて良いよ。複数で関係を結ぶってほんとに難しいんだな・・・。」
 独り言のように呟く。食堂でのアルベルトの悲しそうな顔が頭に浮かぶ。きっとクリスにも複雑な想いをさせてるだろうなと思う。俺が不安なさせないように頑張んないといけないのに・・・。

 魔力の強化が終わり、天色の光が消失する。カイ自身もたぶん気持ちが乱れているし、俺も気持ちを整理したいから自室に帰った方がいいだろう。手放しで幸いとは言えないが、しばらくカイは宮殿にいてくれるみたいだし。
「終わったよ、おやすみ。」
 俺はベッドから降りて、部屋を出ようとするがカイに腕を掴まれる。
「ん?居ていいの?」
「近くにいるとナオトが気になって仕方ねぇ。どんどん感情がコントロール出来なくなっていく。許してくれるか?」

 傍に居させてくれる乃木当たり前じゃないことを改めて考えさせられる。
「皆を不安にさせる俺が悪いだろ。ちゃんと好きだって伝たわるように頑張るよ。カイ、大好きだよ。」

「もちろん俺もだ。こんな事クリス殿下に知られたらまた、ナオトを困らせるなって怒られそうだな。余裕無さすぎて情けねぇ。」

 触れていた手を引き寄せられる。すっぽりと俺を包み込んでくれて、求めていた体温が伝わってくる。その体温を受け取るだけじゃなく、俺の体温をカイに伝えるように抱きしめ返す。溶け合っていくような感覚に酔って、まどろみに沈んでいく。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

お幸せに、婚約者様。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

ヴェクセルバルクの子 ―― 取り替えられた令嬢は怯まず ――

龍槍 椀 
ファンタジー
エルデ=ニルール=リッチェルは、リッチェル侯爵家の中で強い疎外感を常に抱いていた。 その理由は自分の容姿が一族の者達とかけ離れている『色』をしている事から。 確かに侯爵夫人が産んだと、そう皆は云うが、見た目が『それは違う』と、云っている様な物だった。 家族の者達は腫れ物に触るようにしか関わっては来ず、女児を望んだはずの侯爵は、娘との関りを絶つ始末。 侯爵家に於いて居場所の無かったエルデ。 そんなエルデの前に「妖精」が顕現する。 妖精の悪戯により、他家の令嬢と入れ替えられたとの言葉。 自身が感じていた強い違和感の元が白日の下に晒される。  混乱する侯爵家の面々。 沈黙を守るエルデ。 しかし、エルデが黙っていたのは、彼女の脳裏に浮かぶ 「記憶の泡沫」が、蘇って来たからだった。 この世界の真実を物語る、「記憶の泡沫」。  そして、彼女は決断する。 『柵』と『義務』と『黙示』に、縛り付けられた、一人の女の子が何を厭い、想い、感じ、そして、何を為したか。 この決断が、世界の『意思』が望んだ世界に何をもたらすのか。 エルデの望んだ、『たった一つの事』が、叶うのか? 世界の『意思』と妖精達は、エルデの決断に至る理由を知らない。 だからこそ、予定調和が変質してゆく。 世界の『意思』が、予測すら付かぬ未来へと、世界は押し流されて行く。

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

処理中です...