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37.青の宝石

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 フィンが仕事に戻ったあと、クリスが持ってきてくれたお昼ご飯を食べ、薬を飲んだ。今は体調も回復しているし、眠くもない。
 でもクリスに釘を刺されたからどこにも行けないな。クリスも結構過保護だなぁと思う。嫌ではないけど・・・。時間をもて余して、本を読むことにした。二冊目に何を読もうか本棚を眺めていると、部屋の扉が静かに開かれた。

「・・・クリス?」
 俺が声を掛けると、扉の隙間からクリスが顔をのぞかせる。ちょっと疲れている感じからして急いで仕事を終わらせてきてくれたんだろう。
「あぁ、起きてたんだ。体調はどう?」

 そう言うとクリスが俺の傍に来て、おでこに手を当て体温を確認している。

「クリスのおかげでだいぶ良くなったよ。もう全然大丈夫!」
 俺は、心配かけまいと笑顔で答える。実際にもう体調は回復しているし、ちょっとでも「しんどい」なんか言った日には外に出れなくなってしまいそうだ。

「歩くのがしんどくないなら場所を変えたいんだけどいいかな?」

 クリスが神妙な面持ちで尋ねてくる。さっき言ってた大事な話だと思うけどここではできない話ってなんだろう。まさかエドガー殿下に呼ばれてるとか?嫌だなぁ。でも断るための言い訳がないから頷く。


 執務室の方に行くと思っていたが、宮殿の階段をいくらか登った一角の部屋に案内された。部屋の中に入ると、窓から見える景色がとても綺麗だった。
 正門側の水路が煌々と地上を照らす太陽の光を宝石のように反射し、真っ直ぐと続く。水路に添えられるように植えられた木々は、数日前より落ち着いた葉色になり、この国の平和を物語っているようだった。
 城下町に行った時に通ったはずが、上からの眺めだとこうも感じ方が違うのかとしみじみ思う。

 主張は控えめだが、重厚感のある調度品で揃えられているここは恐らくクリスの部屋。初めて入ることができて嬉しい気持ちはあるが、これからなんの話があるのか分からないから素直に喜べない。

「えっと、晩餐会の話かと思ったんだけど・・・。ここクリスの部屋?」

「うん、ちょっとこっち来て?」
 フカフカのソファに座るように促される。ソファで膝を突合せ、クリスは俺の手を握っている。さっきより冷たい手に違和感がありクリスの顔を見る。
 亜麻色の瞳と目が合う。この瞳から逃れたことは今まで一度もないが、今は何かを聞き出そうと言うのではなく言葉を選んでいるみたいだ。

「その、ナオトにはもう隠し事とかしたくなくて・・・聞いて貰ってもいい?」


 鼓動が早くなる。話の内容に全く予想がつかず嫌に緊張していまう。心無しかクリスも緊張しているように見える。俺は「うん。」と頷いた。

「・・・ふぅ、・・・実はお父様にその、ナオトと僕の関係が・・・」
 えっ?俺、処刑者?サッと青ざめる。それを見たクリスが誤解を解くように続ける。
「いやっ、その・・・微笑ましく思っていると、今は各々の役割があるから、祝杯を挙げることが出来ないのが申し訳ないと言っていたよ。」

「良かったぁ。」
 取り敢えず胸を撫で下ろす。大事な話って俺との関係が気づかれたってことか。リチャード国王陛下なら、寛容な気もするから落ち着いて考えればそんなに焦ることなかったな。

 そんな風に安心した俺を見てクリスも安心しているようだった。
「ふふっ、もうお父様の公認だから、晩餐会も一緒に居れるし、堂々と僕の部屋に来れるよ。毎日でも来て欲しいくらい。」
 クリスはイタズラな笑みを浮かべたかと思ったら、一度ギュッと抱きしめられた。俺の両肩に手を置きそっと離される。クリスは意志を固めたような顔つきになっていた。


「今日、本当に伝えたかったのは、この国では婚姻の証には左の足にアンクレットを着けるんだ。・・・今、それは出来ないから、ナオトにはこれを・・・。受け取ってくれる?」

 クリスがソファから立ち上がったかと思ったら、俺に向かいひざまずく。俺の左手を、まるで大切なものをすくうように包み込んだ。薬指に少し冷たいものが通される。
 クリスは手を離すと、俺の顔を見上げている。自分の左手を見ると淡い青色のダイヤのような宝石が嵌め込まれたシルバーのリング。
 これって・・・・・。


 目の前の光景を絶対に忘れたくないと、そう思ったことが今までの人生の中でもあったはずなのに、もう思い出せなくなった。
 今もこの光景を絶対忘れたくないと思うのに、目の前が霞んで見えなくなってしまう。
 俺はソファから崩れ落ち両膝をつく。伝えたいことがいっぱいあるのに、なんて言葉にしていいか分からなかった。触れている唇から勝手に気持ちが伝わればいいのに・・・。
 柔らかく包み込んでくれる腕が、かけがえのない時間を過ごしていることを自覚させてくれる。


「・・・僕にも付けてくれる?」
 クリスはポケットから同じデザインのリングと取り出す。俺はそれを受け取り、クリスの左手の薬指に通していく。
「クリス、大好きだよ。」
 何度も触れるだけの口付けをして、目が合うと微笑んでくれる。この瞬間が思い出になっていくのがもったいない。






 ソファに座り直し、左手を掲げる。なんかニマニマしてしまう。もちろん指輪がなくてもお互いに気持ちは通じてると思うけど、形に残る物があると、見るたびに幸せな気持ちが込み上がってくる。



「そればっかり見てないで僕のこと見てよ。」
 見兼ねたクリスがいじけたように呟く。俺の左手を取り指輪にキスをする。整った唇が今度は俺に近づいてくる。甘い空気が漂う。


「今日は僕と、このまま一緒にいて?」
 もちろんと返事をしようと思ったが、いつも一緒に寝るのはアルベルトだから、部屋に俺が居なかったら探し回るかもしれない。
「あっ、でも、アルベルトに心配かけるかも。」


「大丈夫アルベルトには言ってあるから。明日、カイ団長が帰ってくるよ。多分また城下町に行っちゃうんだよね・・・?だから、今日は僕にナオトの時間頂戴?ナオトとゆっくり過ごす時間が欲しいんだ。」


 カイが帰ってくる?怪我してないかな、大丈夫かな?思わず窓の外を見てしまう。それを目を細めたクリスが視界に入り込み遮った。

「嬉しそうだね。」
「あっ、ごめん。」
 クリスが目の前にいるのに、ついカイのことで頭をいっぱいにしてしまった。

「仕方ないよ、ずっと会えてなかったからね。でも僕との時間も大切にしてね。」

「うん、もちろん!」

 今日はとことんクリスとの時間を満喫しようと決めた。
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