37 / 50
36.唯一無二
しおりを挟む一日寝たら体調はだいぶ楽になった。自分では分からないが、何となくおでこに手を当ててみる。まだ微熱はありそうな体温だ。
太陽の昇り具合から言って昼前くらいだと思う。この時間はアルベルトは鍛錬場。ずっと寝ているのも暇だし、ちらっと見に行ってみようかな。
コンコンとノックの音がする。クリスもアルベルトもテンションは様々だがノックをしないで入ってくるか、ノックと同時にドアを開けることが多い。返事を待つような、これは誰だ?
予測が出来ない突然の来訪に身構え、起き上がる。
「・・・はい?」
返事をすると「入ります。」と声がして、すぐさま扉が開かれた。そこにはレオンが立っており、中の様子を伺うとズカズカ入っていた。そうかと思えばベッドの傍らにある椅子に腰を掛ける。
「なんだ、だいぶ体調は良さそうじゃないか。来て損した。」
覗き込むように言うレオンに疑問が浮かぶ。またレオンに気づかれるほどアルベルトが落ち込んでたのか?
聞きたいことはあるが、ひとまずレオンは見舞い?に来てくれたようだ。
「なんでレオンが体調崩したの知ってるんだ?」
「昨日クリス殿下が転移魔法使って騎士棟に来て、団長に話していたのを聞いた。で、喝を入れに来た。」
レオンはそう言うと俺のおでこを指で弾く。
「いたっ!」
思ったより強い力で、多分赤くなってると思う。俺は手で抑えながら涙目でレオン睨む。
「体調管理くらいしろ。無駄に心配かけるな、団長に。あと、レオンさんな!呼び捨てされる覚えは無い。」
今までなんて呼んでいたか思い返してみる。心の中ではレオンと勝手に言っていたが、いま初めて口に出したかもしれない。レオンは俺の事をいつもお前って呼ぶし・・・。アルベルトの前だけは神子様だったか・・・。年上どうこうは言いたくないが、レオンに関しては俺からも喝を入れてやらなければ!
「呼び方は変えない。レオンも俺の事お前って言うのやめろよ。次言ったら今までのことアルベルトにチクってやる。」
「なっ、卑怯だぞ!・・・・・うー・・・、まぁ気が向いたら呼んでやらんこともない。鍛錬に戻る。」
溜息をつきながら出ていってしまった。レオンが開いた扉の隙間から、フード付きの神官の姿が見えた。
「フィン神官さん?入っていいよ!」
入れ違いでフィン神官さんが入って来てくれた。さっきまでレオンが座っていた椅子に腰掛けている。相変わらずフードを目深に被り顔が見えないが、俺のことを気にかけて来てくれた感じが分かる。
「フィン神官さんも、もしかしてお見舞いに来てくれたの?」
「そうですね、騎士の方々がざわついておりましたので。」
昨日はフィン神官さんが医務室担当だったから、耳に入ったんだろう。王子様がわざわざ転移魔法使って騎士棟に行って第一騎士団の団長と話してたら、そりゃ何事かと思うよな。騒がせて申し訳ない。・・・ただの風邪です。
「体調はどうですか?何か必要な物などありますか?」
さっきのレオンとは打って変わって・・・、これがお見舞いだよ。ほんとレオンには見習って欲しい。まだ二回しか会っていない俺をこんなに心配してくれて、相談とか魔力訓練とか迷惑しか掛けてないのに・・・。
「大丈夫だよ。気を遣わせてごめんね。」
俺がそう言うと、フィン神官さんは首を大きく横に振る。
「この国のためにご尽力されているのですから、神子様を支えるのはこの国の人間としての務めです。どうせなら謝罪よりも、ありがとうと言って頂きたい。」
「俺は国のためとか、そんな立派な人間じゃないよ。こっちの世界に来た時に、俺の事を大切にしてくれた人を守りたいだけなんだ。フィン神官さんもこの前浜辺で話を聞いてくれて、今日お見舞いに来てくれてありがとう。」
確かに、最近は魔力訓練が上手くいかなかったり、体調を崩したりで謝ってばっかりだったかもしれない。これからは気を付けようと、省みて感謝を込めてフィン神官さんに笑顔で返す。
コンコンとノックの音と共にクリスが入ってきた。
「お昼ご飯と薬持ってきたよー。・・・!?フィン神官?あ!そのままでいいよ!」
すぐにフィン神官さんが立ち上がろうとするが、クリスが手でも合図し静止した。フィン神官さんは無言のまま一礼する。
「僕はまだ執務が残ってるから戻るけど、早く終わらせてナオトの看病するからね?分かってると思うけど、熱がなくても今日はしっかり休むこと!」
騎士棟の方に顔を見せに行こうとしてたの見透かしたかのような言い方にびっくりする。それでも俺のことを分かってくれている嬉しさもある。
そして、クリスが食事と薬を机に置くと俺の方に近づいてきて、耳元で囁く。
「体調治ってからでいいから、ナオトに大事な話があるんだ。」
それだけ言うとクリスはひらひらと手を振って出ていってしまった。珍しく真剣な顔をしてたけど、大事な話ってなんだろ?晩餐会のことかな。色々と考えていたがフィン神官さんが話しを戻す。
「立て続けに所属も関係なくお見舞いに来て下さるところを見ると神子様の気持ちとは裏腹に、その心意気は宮中に大きく影響しているのでしょうね。」
「じゃあ、フィン神官さんも?」
「そうですね。神子様の真っ直ぐな優しさや、努力しようとする姿勢はとても感慨深いです。」
褒められすぎてこそばゆい。無闇におだててる訳じゃなくて、フィン神官さんは嘘はつけない人だとなんとなく思う。
今は特に何も悩んでないが聞き心地のいい声に気持ちが浸っていく。スティーブンも確か蠱惑的な声に、目を奪われるような佇まいだった。心の属性だけを持っている人は、形容し難い惹きつける魅力を備えているのかもしれないな。
ただ、ずっと神子様って言われるのは気にかかってしまう。
「あの、出来れば神子様って呼ぶのやめて欲しいかな。ほら、ブレアも俺のことナオトって呼ぶし。あと、二人の時はフードを取って欲しいかも。俺は、ここの人達とはどうしても価値観が違うこともあるし、表情が見えないと、傷つけてしまった時に気づけなくて不安なんだ。」
ちらっと様子を伺うようにフィン神官さんを見る。何を考えてる?困ってるかな?
数秒間沈黙が流れたあと、フィン神官がゆっくりとフードを脱いでいく。その手が震えていることに気が付き、フィン神官さんの手に俺の手を重ねて止める。
「無理はして欲しくないよ。二人っきりの時だけならどうかなと思っただけ。ごめん、頑張ってくれてありがとう。」
そこまで気にしていたのかと改めて突きつけられたようでやるせない。震えながらフードを脱ごうとする姿をこれ以上見ていられない。まだ踏み込んでいい関係じゃなかった、後悔が押し寄せる。
「俺の元いた国では、ほとんどが黒髪黒眼だったんだ。こっちに来てから初めて珍しいとか綺麗とか言われた。それを考えたら、見た目の差異や普通がどうだとかで、他人を否定する言葉に耳を貸して傷つく必要はないと思うんだ。フィン神官さんのこと何も知らないのに意見を押し付けるような真似をしてごめん。ただ、俺はフィン神官の見た目も心も綺麗で、ありのままを知りたいと思ったんだ。」
フィン神官さんは浜辺で、産まれた時から体毛の色や瞳の色で気味悪がられていたって言ってた。本人が好んでフードを目深に被っているのならば、何も言うことは無い。そうじゃないならずっとフードで隠して生きて行くのは窮屈なんじゃないかと思った。俺のものさしで測って良いことでは無いのは理解している。それでももう少し・・・。せめて俺の前だけでもと思ってしまった。こんな心の綺麗な人を誰が傷つけていいものか。
「これから仕事もあるだろ?俺はもうこの通り大丈夫だから。お見舞いありがとう。」
フィン神官さんが大きく深呼吸したかと思ったら、一気にフードを脱いでいた。
浜辺でみたときは朝日に照らされて綺麗なのかと思ったが、室内でも充分に綺麗な白髪。それに深紅の瞳。
安堵と歓喜で顔が緩む。まじまじ眺めているとフィン神官さんは思い迷うような、照れているように深紅の瞳を揺らがせていた。
「良かった。また見れた。本当に綺麗だと思うよ。・・・この言葉はフィン神官さんを傷付けてしまうかな?」
「いえ、そのようなことは言われたことがないので・・・。戸惑っているだけです。」
「そっか、その戸惑いが無くなるくらい何度でも伝えていくよ。とっても綺麗だ。歳も近そうだし、俺は真っ黒で、フィン神官さんは真っ白だから並んで歩いたら双子みたいに見えるかも!」
「ふっふっ、双子ならきっと髪の色は一緒なのでは?」
深紅の瞳が一瞬見開かれすぐに細まる。初めて笑顔を見た。浜辺で見た絵画のような姿ではない。それでも目を奪われてしまう。置き場のない感情、どうしようもないから閉まっておこうとグッと押さえ込んだ。
俺が黙っているとフィンが首を傾け不思議そうにこちらを見ていた。
「ナオト様?私からもお願いを聞いていただいても良いですか?」
フィン神官さんは、言いにくそうに膝に置いてある手をぎゅと握る。
「・・・呼び方を変えて欲しいのです。」
確かに神官ともつけるし、さんも付けるから呼び方に違和感があったのは自覚してる。
「フィンさん?フィン神官?」
フィン神官さんは首を横に振って「違います。」と言っている。呼び捨てでいいのかな?
「じゃあフィン?俺のことも呼び捨てにしてよ。明日からも時間がある時でいいから魔力訓練に付き合ってくれるか?」
「ナオト・・・さま・・。もちろんです。」
「っは。まだ様が付いてるよ。少しずつ慣れていってね。」
笑いを堪えながら、フィンの物慣れない反応に嬉しさが増す。
その後も、俺は料理人でお菓子作りは専門じゃないこと。だから上手く作れるか分からないけど、フィンが食べたいお菓子や料理を作ってあげたいこと。フィンは普段は礼拝堂で祈りを捧げたり、街の協会に訪問していることなど色々話が出来た。
「話し込んじゃった。今後も魔力訓練よろしくお願いします。」
「すみません。体調が芳しくない時に・・・。」
「話し相手になってくれて、ありがとう。」
フィンの言葉を遮るように語尾を少し強くして伝えた。そう言うと「どういたしまして、私もナオトと話せて良かったです。」と言い、フードを被り俺の部屋を後にした。
フィンを見送り、まぁブレアだって俺の黒髪黒目にしばらく気づかなかったから、魔力訓練の時も大丈夫だと思うけどしばらくはこのままで良いかなと思った。
21
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】
彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。
「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
記憶の欠けたオメガがヤンデレ溺愛王子に堕ちるまで
橘 木葉
BL
ある日事故で一部記憶がかけてしまったミシェル。
婚約者はとても優しいのに体は怖がっているのは何故だろう、、
不思議に思いながらも婚約者の溺愛に溺れていく。
---
記憶喪失を機に愛が重すぎて失敗した関係を作り直そうとする婚約者フェルナンドが奮闘!
次は行き過ぎないぞ!と意気込み、ヤンデレバレを対策。
---
記憶は戻りますが、パッピーエンドです!
⚠︎固定カプです
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる