上 下
23 / 50

22.花火と繋ぐ手

しおりを挟む
 俺は庭園のベンチに座り、カイは俺の太腿を枕にして寝ている。宮殿の明かりが遠くに見える。ガーデンランプからも遠い片隅のベンチは、満月が柔らかく照らしてくれている。

 暴発しかけた魔力はカイに注ぐことによって免れた。そのおかげで俺の体はだいぶ楽になった。代わりに、魔力を受け取りすぎたカイがこうして休むことになっている。いつも豪気なカイが弱々しく見える。申し訳なさと、反してある思いを膝の上にある、意外に柔らかいオリーブ色の髪を撫でることで紛らわせる。

「カイ、ごめんな。」

「ナオトからキスしたことを後悔して謝ってんなら許さねぇ。」
 口調とは裏腹にカイが珍しく不安げな表情を浮かべている。

「ちがっ。そうじゃない。」
 さっきのことを思い出してしまう。カイを撫でていた手を離し自分の口元を隠す。緊急事態だったとはいえお互いの気持ちをはっきりとさせていないのにキスをするとは思わなかった。それもこれも全部あいつのせいだ。

「あの、スティーブンって何者なんだ?俺、暴言吐いちゃったけど大丈夫かな。」
「ハハッ!今更かよ。さすがナオトだな。あんなん大丈夫だろ。面白かったし。」

 カイがいつものように笑ってくれて安心する。口元を隠していた俺の手はカイによって退けられる。

「あっ、今バカにしただろ!確かにこの世界のことは疎いけど・・・。」
「だからこそ俺は救われたんだ。お前のその真っ直ぐで優しいところが・・・・・・。はぁー、そろそろ迎えを呼ぶか。俺はもう護衛としては役に立たねぇからな。」

 カイは繋いでいた俺の手を離し、起きあがろうとする。俺は反射的にカイのおでこに両手を乗せて、それを押し止める。カイは眉をひそめ悩ましげに目を逸らしたが、起きあがろうとする力を抜いた。

 カイはそもそも国境付近の警備が仕事だ。それに団長ともなればそうそう宮殿には帰ってこれないだろう。
 次はいつ会えるのだろう。あんまり聞きすぎると重たいかな。そんな気持ちを振り払うようにカイを見る。今見れるだけしっかり目に焼き付けておこう。

「カイはまた元の仕事に戻るんだろ?」

「ん?そうだな、明後日にはここを発つ予定だ。どうした、寂しいのか?」

 イタズラな笑みを浮かべるカイに反発したくなる気持ちを抑え、今伝えることのできる精一杯の答えを出す。

「それなりに。それにまた城下町に連れて行って欲しいんだよ。」

「んだよ、現金なヤツだな。クリス殿下にでも言っといてやるよ。」

「いや、次もカイと一緒が良いんだ。」

 その言葉を聞くと、カイは満足げな表情に変わる。その後、気だるそうに立ちあがる。俺から少し離距離をとり、宮殿側に体を向ける。夜空に掲げた手からは魔力の塊が放たれる。まるで花火のような光が空に散る。刹那的な明るさから、儚く暗くなっていくカイの横顔は転写するように俺の心に刻まれた。



 カイは踵を返し、俺の横にドカッと腰掛ける。うんざりと言わんばかの顔をしている。
「早すぎんだろ。」
 吐き捨てるようなカイの言葉の意味を理解するより先に、肩が一気に重くなった。

『ナオト大丈夫(か)?』

  後ろを振り向きたいが、両サイドから首に回された腕で動けない。でも、もう自分を守ってくれる手はわかる。そっと、回された腕に自分の手を添え、もう片方は隣にいるカイと手を繋ぐ。

「俺は大丈夫だよ。みんなが助けてくれたから。」
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

守護獣騎士団物語 犬と羽付き馬

葉薊【ハアザミ】
BL
一夜にして養父と仲間を喪い天涯孤独となったアブニールは、その後十年間たったひとり何でも屋として生き延びてきた。 そんなある日、依頼を断った相手から命を狙われ気絶したところを守護獣騎士団団長のフラムに助けられる。 フラム曰く、長年の戦闘によって体内に有害物質が蓄積しているというアブニールは長期間のケアのため騎士団の宿舎に留まることになる。 気障な騎士団長×天涯孤独の何でも屋のお話です。

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

記憶の欠けたオメガがヤンデレ溺愛王子に堕ちるまで

橘 木葉
BL
ある日事故で一部記憶がかけてしまったミシェル。 婚約者はとても優しいのに体は怖がっているのは何故だろう、、 不思議に思いながらも婚約者の溺愛に溺れていく。 --- 記憶喪失を機に愛が重すぎて失敗した関係を作り直そうとする婚約者フェルナンドが奮闘! 次は行き過ぎないぞ!と意気込み、ヤンデレバレを対策。 --- 記憶は戻りますが、パッピーエンドです! ⚠︎固定カプです

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

処理中です...