上 下
18 / 18

#18〜得手不得手の理由?〜

しおりを挟む
「人の目を見て話す。話をちゃんと聞く。自分の言葉で話す。面倒ごとから逃げない。逃げるならちゃんと反撃のプランを立てる。無謀な事はしない。引くべき時は引く。考えて行動する事は大切、でも時には大胆さも必要。以上がとりあえずの目標として上がりましたが、このままでは達成出来ないでしょう」

「そだねー。全部喰ったら胃もたれしそう」

 まぁ、当然ながら無理だろうな。全体的にまだまだ抽象的で具体案が無い。まだまだ憧れの域を出ていない。

「これをもっと小さくします。それこそ食べ易く、程々に、少しづつ食べられる様にしていきましょう」

「ルイルイ~どうやって細かくすんの?」

 僕も知りたい。このままだと水槽の魚を狙う猫だ。目の前に食べられる物があるのに、どうやって取れば良いかがわからない。

「それ程難しい事ではありません。安達さん、『人の目を見て話す』のは難しいですか?」

「難しいです」

 これは即答できる。僕にとって目を見て話すのは、野生の生き物と対峙しているのと同意義だ。目を合わせれば攻撃される。

「それはなぜ難しいのでしょうか? 安達さんの理由があるはずです。過去に何かあったのでしょうか? 初めから苦手では無かった筈です」

 グイグイ来るなぁ~。何かあったかと聞かれれば、昔心無いギャル達に散々言われたからだけど。

「人の得手不得手に、理由が無いなんて事はありません。得手、得意な事の理由については、特に問題はありません。問題は不得手、つまり苦手な事の理由です」

「はぁ……」

「何が問題な訳?」

「はい。これは例えるなら、『武器』と『鎧』です。それらで守る者は自分の心です。『武器』は得意な事、『鎧』は苦手な事です」

「ん~イマイチ話が見えねぇ~」

 僕には大体の予想が出来た、つまり。

「つまり、苦手な事を苦手として残しておくと、そこに逃げ道が出来ます」

 そう言う事だ。苦手を苦手のままにしておけば、頼まれたり、行動しようとした時に『苦手だから出来ない』と逃げる事が出来る。自分が傷つく事無く、問題を回避出来ると言う事だ。

「そして、苦手意識に無理矢理向き合おうとすれば――」

「『鎧で守られていた生身をそのまま晒すことになる』ですか?」

「安達さん‼︎ ご明察です‼︎」

 そして武器は、得意な事は無闇矢鱈にひけらかせば、他人を傷付ける事になる、か。成る程、良い例えだ。

「生身で避ける事無く向き合えば、傷付き、倒れるのがオチです。苦手意識と言うものは、それ程までにデリケートな事なのです」

「オーケー。そこまではわかった。んで、問題はどう噛み砕くかじゃね? 『人の目を見て話す』にしろ、モロ苦手意識じゃん?」

「キラさんの仰る通りです。なので、今回の目標として、全力で逃げに入ります」

「はぁ?」

「逃げ……ですか……」

 逃げて良いものなのか? 小学生の頃から『自分の壁から逃げるな』と教わって来た、否、刷り込まれて来た僕にとって、『逃げる』何て考えられなかった。いや、克服しようともせず、行動しようともせず、苦手をそのまま鎧として使っていた事は十分な逃げだ。中途半端な逃げだ。

「世間と戦うのに、武器と鎧で真正面からぶつかる必要はありません。もう一つ、有効な手段があるでしょう?」

 有効な手段? ちょっと考えろ、何か引っかかる。もうすぐ思いつきそうだ。最小限の労力で、最大限の利益を得る方法。

「戦術……」

「早い‼︎ 流石です‼︎ 安達さんは思考の回転が早いです。それは立派な『武器』ですね」

 RUIさんがそう言って笑ってくれた。天にも登る気持ちだ。褒められるのはこんなに嬉しい事なのか。RUIさんに褒められたからだろうか。多分そうだろう。

「安達さんが仰った通り、今回目標として身に付けるのは『戦術』です。苦手意識を克服するわけでも無く、そのままにする訳でも無い。完璧な逃げです。でも、効果は絶大だと思います」

「具体的にはどーすんの?」

 さっきから斎藤さんの合いの手が上手すぎて気になる。欲しい所に欲しい合いの手をくれるな。

「簡単ですよ。安達さん、斎藤さんに自己紹介をして下さい。顔も目も見なくて良いです。向かい合う必要すらありません。ただ、言葉の最後の一瞬だけ、顔を見て微笑んで下さい」

「え? そんだけ?」

「はい。それだけです」

「まじかぁ~、散々引っ張っておいてそれかぁ~。大丈夫か? そんなんでさぁ」

 僕も斎藤さんに一票。確かに、最後の一瞬顔を見る位なら無理なく出来るが、本当に何か変わるのか?

「ものは試しです。一度やってみて下さい」

「はぁ……」

「とりあやってみんべ。ほら、自己紹介してみ」

 僕は斎藤さんの横に並び、自己紹介をする。最後の一瞬だけ顔を見て、微笑む事を忘れずに。

「僕は……安達 勇と言います。よろしくお願いします」

 『ます』の部分で顔を見て微笑んだ。直ぐに顔を正面に向け、下を向く。

「うっわ……これ反則だわ……」

「ね? 効果絶大でしたでしょ?」

「……うん。まじヤベェ。めっちゃ可愛かった。印象180度変わるわ……」

 おいおいマジかよ。女神マジックだよ。誰もこんな事思いつかないぞ。それともあれか? 斎藤さんがノッてくれているのか? たったこれだけで印象180度変わるか?

「無理に顔を見て話そうとせず、今みたいに時々チラッと笑顔で相手の顔を見る。これを見に着けて習慣化出来れば、苦手意識なんて克服しなくて良いですよね?」

「確かに……これなら出来そうです。RUIさん、ありがとうございます」

「……‼︎‼︎」

 『ございます』部分だけRUIさんの顔を見て微笑んだ。RUIさんの体が『ビクッ』となり、顔が赤くなった。どうしたのだろう、疲れたのだろうか。

「と……とりあえず、これで一つ目標が出来ましたね。この調子で他の目標も決めてしまいましょう‼︎」

「おー‼︎」

 この様に、『逃げ上等』の思考で、僕達は僕の目標について話し合った。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

二分で読めるショートストーリー

佐賀かおり
ライト文芸
二分で読めるおもしろいお話です。最新話【空気の読めない神様】投稿中

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...