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#16〜正義の味方は誰の味方?〜

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「では『正義とは?』について話し合いましょう」

「そもそもさぁ~、パンピーは『正義』って言葉好きすぎね?」

 この様な会話から『正義』についての議論が始まった。これは定義が広過ぎる。まとまる感じか現時点で全くしない。

 さて、どうするか……もう帰るか……帰ってモンハンでもプレイしようか。でもしかし、ここで帰ってはRUIさんに見放されてしまうかも知れない。もちろん斎藤さんにも。二人に見捨てられれば、僕は本気で死ぬしか道は無くなってしまう。逃げは無しか。

「安達さんは、『正義』をどう考えていますか?」

 来た。ここが踏ん張りどころだ。頑張れ僕。かっこよく答えて二人を見直させろ。

「はぁ……難しいですね……」

 アンダーザドック、それは僕だ。何が『難しいですね』だ。普段考えている事を口に出せば良いだけだろう。もっと頑張れよ。僕。

「って言うか、安達が言わなきゃ意味無くね?」

 ごもっともな意見ありがとうございます。そうです、そうですよ。僕の為に二人が時間を割いてくれてるんですよ。だから、頑張らないといけないのは、誰でも無い『僕』何ですよ。わかってるんです、わかってるんですよ。そんな事は百も承知なんです。だけど、言葉に出ないんです。どうかそれをわかって下さい。テレパシーでわかって下さい。

「なんか無いの? 例えば子供時代に、『正義とはこう言うものだ‼︎』って考えてたりさ」

 子供の頃、子供の頃はただ単純にヒーローがカッコ良かった。それで正義の味方に憧れた。正義とは何かも知らず、本質も見抜けずに。でも今なら? 子供の頃に憧れたヒーロー。それが全て正しいかと問われれば? 疑問に思う所もあるだろう。その疑問を言葉に出せば良いだけだ。

「子供の頃……ですか……」

 駄目だ。言葉が喉を通過しない。変な汗が頬を伝う。

「そんなに焦らなくても大丈夫ですよ。ゆっくり考えましょう。キラさんも、追い詰める様な言い方はしない事」

「あ、あっしはそんなつもりは……」

「もちろん分かってます。追い詰めるつもりは無い事。安達さんの為に本気で考えている事。全部分かってます。でも、今の言い方は良くないと思いますよ。キラさんめっ‼︎」

 RUIさんが斎藤さんの頭に手を乗せて言った。

 ぐっは‼︎ やばい、マジやばい‼︎ 『めっ‼︎』って言った‼︎ 『めっ‼︎』って言った‼︎ 可愛い過ぎる‼︎ 僕も『めっ‼︎』されたい‼︎ どうやったら『めっ‼︎』して頂けるのでしょうか⁉︎ その事を議論したい‼︎

「安達さんも、私達は安達さんの意見を否定したりはしません。だからどんな事でも言ってください。怖がらなくても大丈夫です。私達を信じてくれない安達さんも……めっ‼︎」

 RUIさんは僕の頭にも手を乗せて言った。僕は、今日、死んでも良いです。今までで何回死んだかわかりませんが、今死んでも本望です。

 って言うのは置いておいて、先のやり取りを見て思った。僕は思った事を口にする。

「た、多分……ですが……」

「どした? 顔真っ赤にして」

「か、顔の話題には触れないで下さい」

「どうされましたか?」

「あ、はい。えっと、さっきのRUIさんと斎藤さんのやり取りを見て思ったのですが……多分、今のが僕の考えている『正義』なんです」

「どゆ事?」

「つ、つまりですね。『自分が正しいと思った事も、相手にとって見れば正しくない可能性がある』と言う事です。相手の事を理解しないと、正義は正義足り得ない」

「ほほう」

 斎藤さんが合いの手を入れてくれる。話しやすい。

「相手を考え、相手の意見を聞き入れ、自分の思いを伝える。お互いの為に行動する事、自分の意見を伝える事、相手の意見を取り入れる事、この3つが揃って、初めて『正義』となる気がします」

「それでそれで⁉︎」

「『義』と言う言葉の意味に『外から来て固有で無いもの』と言う意味があります。相手の考えもまたその『義』に当てはめ、『義』を持って、自分と相手に『正しく有る』のが『正義』だと、僕は思います」

「お前すげぇじゃん⁉︎ ぱねぇじゃん⁉︎ 見直した‼︎ ただのインケンボッチかと思ってたわ‼︎」

 これも合いの手なのか。褒め過ぎの様に思えるが、後半はさり気なく傷つく……まぁ、『合いの手』ならぬ『愛の手』だと思って飲み込もう。
 
「つまり、安達さんの『正義』は、『相手』と『自分』、共に理解し合い、双方にとって正しく有る事を言うのですね?」

 RUIさんがまとめてくれた。すげぇわかりやすい上に的確なまとめ。斎藤さんが『天才』と評価するのも頷ける。

「そ、そうです」

「素晴らしい答えです‼︎ フワフワした題目だったので、ちゃんとまとまるか心配でしたが、見事な回答でした‼︎ 私には考え付かない答えでした‼︎」

 褒められれば、それはそれで話しづらい。調子に乗ってしまいそうだ。

 二人の中で僕の株が少し上がった様だった。
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