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#3〜面接官は女神でした〜

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 以前本で読んだ通り、僕は扉を四度ノックした。確かそれが扉を開ける時のマナーだったはず。

「どうぞ」

 中からさっきと同じ声が聞こえる。甲高くもなく、かと言って低い訳でもなく。暖かさを含み、全てが包み込まれるような声。優しい声だった。

「頑張って下さい‼︎」

 受付の天使が応援してくれている。しかもガッツポーズで。その姿も悶絶したい程可愛い。けれど、その声援に応える答えを僕は持ち合わせてはいなかった。

 僕は小さく何度も頷き、ドアを開けて中に入った。入ったら直ぐに頭を下げた。

「しししししし失礼します‼︎」

 ダメだ。もうダメだ。「失礼します」もまともに言えない人間を誰が欲しがる? 以前面接していた時に、『社会人として恥ずかしい』と言われ、その場で落とされたな。

「ふふふ、そんなに緊張しないで。どうぞ。そこの椅子にお掛けになってください」

 扉の外で聞いた全てを許す様な声。音を遮る障害が無いと、凄く綺麗な声。僕は頭を上げて面接官を見る。

 セミロング、少し茶色掛かったサラサラの髪。目は切れ長で、目尻にホクロがあり少しおっとりした様に見える。目が悪いのか、赤色のメガネを掛けている。口元の笑みは自然で、長く見ていると心を奪われそうだ。

 受付の人が天使なら、この人は女神の様だ。崇拝してしまいそう。

「安達さん、ですよね? 立ったまま話すのも疲れてしまいます。遠慮なく椅子にお座り下さい」

 面接の女神が椅子を手で指し示し、座る様望まれておられる。僕は機械の様な動きで歩き、椅子に座った。

「ふふふ、受付の子からの連絡通り、本当に緊張しておられますね」

 女神が口元に手を当てて笑う。やべえ……先祖代々仏教の僕が改宗してしまう。

「あら? よく見ると目に隈が出来ているのでは? 昨晩は眠れなかったのでしょうか?」

 はい。昨晩はとても緊張していたせいか、なかなか寝付けずにいました。と、それだけ言いたかったのだが、

「あ……は、はははい。眠れ……眠れませんでした」

 実際に出た言葉がこれ。何でだ。

「それは『緊張して』ですか?」

 そうですね。御社の事は一通り、公開されている情報限定となりますが、学んで来ました。その中で自分がどう活躍出来るかと考えると、緊張してしまい寝付けませんでした。これは空想。実際は?

「ネ、ネトゲです‼︎」

 何でだ。考えている事と、口から出る言葉が全く違う。僕はいつからこんな意気地なしになった‼︎ 最初からか⁉︎

「あ‼︎ 私も‼︎ 昨日ネトゲでなかなか眠れませんでした‼︎」

 手を挙げてピョンピョン飛び跳ねる女神。無邪気な女神は最強説ここに爆誕。

「どんなゲームをされていたのですか?」

 これは得意分野の質問だ‼︎ 頑張れ‼︎ 僕‼︎

「えっと、『モンハン』ですね」

「私もやってました‼︎ もしかしたら、一緒に『クエスト』行ったかも知れませんね‼︎」

「本当ですね。お差し支えがなければ、プレイヤー名を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」

「あ‼︎ そうでした‼︎ 自己紹介がまだでしたね。失礼致しました。私は人事部部長を拝命しております、採用担当の『杜若 ルイカキツバタ ルイ』と申します。プレイヤー名は『RUI』です」

「初めまして。RUIさん。私は「安達 勇」と申します。プレイヤー名は『ISA』です」

「やっぱり‼︎ 昨日の限定クエ‼︎ 手伝って頂きありがとうございました‼︎」

「いえ、お礼を言われる様な事は何もしていませんよ。それより、僕の方も楽しかったです。クエに誘って頂きありがとうございます」

 あれ? これ面接だよな? 何だかオフ会のノリになっている。楽しい。女神RUIとの会話が凄く楽しい‼︎ 気付けば僕も普通に話せてるし、女神すげぇ‼︎

 それから30分程、話したところで面接は終了した。ほとんど、と言うか全部『モンハン』の話だったが、これで落ちていても悔いは無い。

「少々盛り上がり過ぎてしまいましたね。面接の結果については、後日改めてご連絡致します。お疲れ様でした。今日のクエも手伝ってください」

 さり気なくお願いされたが、そのお願いなら大歓迎。

「了解致しました。本日は23:00からプレイ予定ですので、見かけたら声を掛けます」

 「失礼致しました」と、部屋を出る僕。受付の天使にお礼を言い、僕は会社を後にした。

 その翌日、内定の連絡が来た。僕は手を挙げて喜んだ。


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