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水面カフェ新めにゅー ①
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桜の花びらが木々から巣立ち、新緑が芽吹く。気温も暖かく、昼夜の寒暖差が少なくなり、過ごし易い季節となった。世間では大型連休が過ぎた事もあり、気怠そうに出社して行く者、ワクワクしながら登校する者、まだ休みの感覚が抜き切れず、浮き足立っている者が見て取れた。
ここ“水面カフェ”では、“Four Leaf Clover Blend”が1日限定20個で発売され、毎日午前中に売り切れる程人気商品となった。
“Four Leaf Clover Blend”は明彦の店、“相田コーヒー店”でも販売されており、販売コンサルタントである百合の提案で、新規購入客へのアピールは“水面カフェ”で行い、リピーターは“相田コーヒー店”へ買いに行くか、“相田コーヒー店”のホームページから注文をすると言う流れとなった。
しかし、その戦略も発売が開始されて間もない間のもの。固定客がある程度付き、リピーターが増えれば“水面カフェ”での販売を終了し、注文は全て“相田コーヒー店”が請け負う手はずとなっている。明彦が毎日卸しに行く手間と、“水面カフェ”での経理計上の負荷を下げる為に百合が考えた戦略だった。
当然、明彦への負荷が著しく高くなり、1人で経営をしていた明彦は嬉しい悲鳴を上げていた。見るに見かねてか、作戦に織り込み済みだったのか、百合は保徳に連絡し、明彦のサポートを依頼した。
保徳は2つ返事で“OK”出し、その翌日から明彦の元へ手伝いに行っていた。その働きぶりは物凄く、かなり仕事の出来る男だった。豆の種類が一目でわかるようにラベルを貼り、今まで明彦が感覚で行なっていたブレンドを、全てレシピに書き起こた。豆の種類をグラム単位で計り、自分でもブレンド出来る様にした。
百合の戦略を即座に理解し、現状分析を行う保徳。“Four Leaf Clover Blend”が軌道に乗れば2人でも人手不足になると導き出した。そして、軌道に乗るのが百合の予想を遥かに上回る程早い可能性も。
百合の計算では、“Four Leaf Clover Blend”が軌道に乗るには3ヶ月から4ヶ月はかかると言う予測だった。それは販売コンサルタントとしての経験から、新規商品が定着する迄の平均値。
しかし、今回発売する“Four Leaf Clover Blend”は、周囲に認知されるスピードが異常な程早い。
店頭で実際に飲める事、ブレンドした本人が淹れる事、そして、未来の客への人気。そこに“アイスコーヒー専用”と言う要素が加わり、これから気温が高くなるにつれ、需要が一気に膨れ上がると言う予測を立てた。
「もう……死ぬっす……」
そう泣き言を言う明彦に、保徳はこれは好機だと説き伏せる。そこで、もう1人従業員を増やす事になった。
その話にいち早く手を挙げたのは、保徳の元後輩である須々木 桃華だった。
風の噂(と言うか桃華が毎日保徳へメールを送るので、話のネタにと保徳が話した)で、従業員を募集していると聞き、なんとその日に仕事を退職して店に来たのだ。
「須々木さん? 社会人としてその日に退職とか、それは如何なものかと……」
「あれ? それって椚さんが言える事でしたっけ?」
保徳は注意をしようとしたが、桃華に反論されてしまう。その反論に、保徳はぐうの音も出ない。
「それに、社長に直訴しに行ったら“後の事は俺がなんとかする。行ってやれ”ってめちゃくちゃ良い笑顔で言ってましたよ」
「あいつ……」
「社長と椚さんってどう言う関係何ですか? 私ずっと気になってました」
「……ただの幼馴染だよ」
「あれ? 学生の時、一緒に今の会社を起こしたんじゃ無かったっすか? ただの幼馴染なんかじゃ無いっすよね?」
元気なく返答する保徳に対し、明彦が横から口を出した。
「はぁ~……マスター……余計な事を言わないで下さいよ……」
保徳はため息を吐きながら明彦に言った。
「え? 内緒にしてたっすか?」
「そうですよ~……“縁の下の力持ち”ってやつを俺が担ってたんです。まぁ、辞めた今となってはどうでも良いですけど……」
保徳はちらりと桃華を見た。目を丸くして驚き固まる桃華の姿がそこにはあった。
「須々木さん? 今の話、内緒にしてね」
「あ……はい」
桃華はそう返事をし、仕事に戻ったのだった。
ここ“水面カフェ”では、“Four Leaf Clover Blend”が1日限定20個で発売され、毎日午前中に売り切れる程人気商品となった。
“Four Leaf Clover Blend”は明彦の店、“相田コーヒー店”でも販売されており、販売コンサルタントである百合の提案で、新規購入客へのアピールは“水面カフェ”で行い、リピーターは“相田コーヒー店”へ買いに行くか、“相田コーヒー店”のホームページから注文をすると言う流れとなった。
しかし、その戦略も発売が開始されて間もない間のもの。固定客がある程度付き、リピーターが増えれば“水面カフェ”での販売を終了し、注文は全て“相田コーヒー店”が請け負う手はずとなっている。明彦が毎日卸しに行く手間と、“水面カフェ”での経理計上の負荷を下げる為に百合が考えた戦略だった。
当然、明彦への負荷が著しく高くなり、1人で経営をしていた明彦は嬉しい悲鳴を上げていた。見るに見かねてか、作戦に織り込み済みだったのか、百合は保徳に連絡し、明彦のサポートを依頼した。
保徳は2つ返事で“OK”出し、その翌日から明彦の元へ手伝いに行っていた。その働きぶりは物凄く、かなり仕事の出来る男だった。豆の種類が一目でわかるようにラベルを貼り、今まで明彦が感覚で行なっていたブレンドを、全てレシピに書き起こた。豆の種類をグラム単位で計り、自分でもブレンド出来る様にした。
百合の戦略を即座に理解し、現状分析を行う保徳。“Four Leaf Clover Blend”が軌道に乗れば2人でも人手不足になると導き出した。そして、軌道に乗るのが百合の予想を遥かに上回る程早い可能性も。
百合の計算では、“Four Leaf Clover Blend”が軌道に乗るには3ヶ月から4ヶ月はかかると言う予測だった。それは販売コンサルタントとしての経験から、新規商品が定着する迄の平均値。
しかし、今回発売する“Four Leaf Clover Blend”は、周囲に認知されるスピードが異常な程早い。
店頭で実際に飲める事、ブレンドした本人が淹れる事、そして、未来の客への人気。そこに“アイスコーヒー専用”と言う要素が加わり、これから気温が高くなるにつれ、需要が一気に膨れ上がると言う予測を立てた。
「もう……死ぬっす……」
そう泣き言を言う明彦に、保徳はこれは好機だと説き伏せる。そこで、もう1人従業員を増やす事になった。
その話にいち早く手を挙げたのは、保徳の元後輩である須々木 桃華だった。
風の噂(と言うか桃華が毎日保徳へメールを送るので、話のネタにと保徳が話した)で、従業員を募集していると聞き、なんとその日に仕事を退職して店に来たのだ。
「須々木さん? 社会人としてその日に退職とか、それは如何なものかと……」
「あれ? それって椚さんが言える事でしたっけ?」
保徳は注意をしようとしたが、桃華に反論されてしまう。その反論に、保徳はぐうの音も出ない。
「それに、社長に直訴しに行ったら“後の事は俺がなんとかする。行ってやれ”ってめちゃくちゃ良い笑顔で言ってましたよ」
「あいつ……」
「社長と椚さんってどう言う関係何ですか? 私ずっと気になってました」
「……ただの幼馴染だよ」
「あれ? 学生の時、一緒に今の会社を起こしたんじゃ無かったっすか? ただの幼馴染なんかじゃ無いっすよね?」
元気なく返答する保徳に対し、明彦が横から口を出した。
「はぁ~……マスター……余計な事を言わないで下さいよ……」
保徳はため息を吐きながら明彦に言った。
「え? 内緒にしてたっすか?」
「そうですよ~……“縁の下の力持ち”ってやつを俺が担ってたんです。まぁ、辞めた今となってはどうでも良いですけど……」
保徳はちらりと桃華を見た。目を丸くして驚き固まる桃華の姿がそこにはあった。
「須々木さん? 今の話、内緒にしてね」
「あ……はい」
桃華はそう返事をし、仕事に戻ったのだった。
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