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四つ葉のクローバー ⑦
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小森 百合。それが彼女の名前。現在28歳のOLである。
彼女は昔、小学生の時にクラスメイトから仲間外れにされていた。
自分の何が悪かったのか、何か悪い事をしたのか、皆んなと仲良くしたいのに。彼女はそう悩み続けた。
しかし、百合の想いとは裏腹に、学年が上がる事に比例してエスカレートする。
リコーダーの紛失、上靴の紛失。挙句、体操服がカッターナイフでズタズタに切り裂かれていた。
両親はズタズタになった体操服を見て、百合に理由を尋ねる。百合は転んで木の枝に引っかかったと説明した。
その説明を聞いた両親は、百合の言葉を信じた。自分の娘が大変な状況にあるなど思いもせず、百合の言葉を鵜呑みにして信じてしまった。
この時、少しでも疑問に思っていれば、百合にも違う人生があっただろう。しかし、それはもう取り返しのつかない過去の出来事。
両親が百合の言葉を信じてしまった瞬間、百合の味方は誰もいなくなった。
“助けて欲しいのに、こんなに苦しんでいるのに、誰も私を見てくれない”
突きつけられた現実が、百合の心を押し潰す。
中学に入学し、解放されると思っていた百合は、自分を仲間外れにしていた中心人物が同じクラスである事を知る。
そして、その日は突然やってきた。
体育が終わり、制服に着替えようと更衣室に入った時、数人の女子が自分の制服をカッターで切り刻んでいるのを目撃した。
潰れかけていた心が音を立てて崩壊する。それと同時に、黒い感情が心を満たしていくのを感じた。
百合の意識が戻った時、制服を切り刻んでいた女子が、百合の足元で気を失っていた。そして、百合は思う。
“なんだ。簡単な事だったんだ。傷付けられる前に傷付ければ良い。そうすれば、私を傷付ける人はいなくなる”
綺麗な花を咲かせる予定だったユリの花は、まるで心の涙を流す様に、ポトリと落ちて散っていった。
ーーーーーーーー
(またあの日の夢か……もう忘れたいのに……)
その日から、百合は自分が傷付けられる前に相手を傷付け、絶対的な力による優位性を確立する生き方をしてきた。
それが間違っているとは思ってなかった。なぜなら、自分がそうされてきたのだから。
しかし、そんな彼女にも転機が訪れる。“水面カフェ”に初めて入店した日の事。いつもの様にクレームを入れ、優位性を確立させようとした。だが、それは未遂に終わる。
勇気の入れたコーヒーが、クレームをつけようの無い見事な味だった。そして、勇気は優しい笑顔で百合に言う。
“おや? 少しお疲れですか?”
急に声をかけられた百合は、少し慌てながら否定する。
“いえ。体では無く、あなたの心が疲れている様に見えたので”
つい声を掛けてしまいました。と、微笑みながら言った。
百合の心情は、勇気によって見抜かれた。本人の知らなかった奥底まで。
(本当はとっくに気がついていたのかも……これは私が望んでいる私じゃないって…)
勇気に声を掛けられた日から、少しずつ百合の心に変化が現れた。自分の生き方が間違っていたのでは無いか、あの時、誰かに気付いてもらうのを待つのでは無く、自分から声を上げればよかったのでは無いか。そう考える様になった。
“水面カフェ”に通うに連れ、その気持ちが大きくなり、自分が自分で無くなる様な気がした。しかし、足を運んでしまう自分がいる。そんな自分に恐怖し、遠くの街へ引っ越したのだった。
(この前のあの子、確か声が出ないって言ってたっけ。私は声を出す事が出来るのに…誰かを傷つけてばかり……私は何がしたいんだろう)
彼女は考える。答えの出ない答えを探して、一週間前からずっと考え続けている。
(何でこんな風になっちゃったんだろうな………)
彼女は今、電車に揺られている。
朝早くから身支度をする。見栄をはる為に高級なアクセサリー身に付けた。まるで無防備な心を鎧で守る様に。
駅に着き、“水面カフェ”に向かい歩く。その足取りはとても重い。
百合はドアの前に立ち、深呼吸をする。ドアに手を掛けて開けようとした時、中から楽しそうな声が聞こえた。
百合が望んでも手に入らなかった、仲間と馬鹿な事を話し、大笑いする時間。それを羨ましく思い、そして妬んでいた。
ドアの向こうから聞こえる楽しげな声。そんな仲間に、自分も入れたらどんなに素敵だろう。
(でも、そんなの今更望めないし、自分を変える事なんて出来ない)
百合は覚悟を決め、ドアを開けた。
彼女は昔、小学生の時にクラスメイトから仲間外れにされていた。
自分の何が悪かったのか、何か悪い事をしたのか、皆んなと仲良くしたいのに。彼女はそう悩み続けた。
しかし、百合の想いとは裏腹に、学年が上がる事に比例してエスカレートする。
リコーダーの紛失、上靴の紛失。挙句、体操服がカッターナイフでズタズタに切り裂かれていた。
両親はズタズタになった体操服を見て、百合に理由を尋ねる。百合は転んで木の枝に引っかかったと説明した。
その説明を聞いた両親は、百合の言葉を信じた。自分の娘が大変な状況にあるなど思いもせず、百合の言葉を鵜呑みにして信じてしまった。
この時、少しでも疑問に思っていれば、百合にも違う人生があっただろう。しかし、それはもう取り返しのつかない過去の出来事。
両親が百合の言葉を信じてしまった瞬間、百合の味方は誰もいなくなった。
“助けて欲しいのに、こんなに苦しんでいるのに、誰も私を見てくれない”
突きつけられた現実が、百合の心を押し潰す。
中学に入学し、解放されると思っていた百合は、自分を仲間外れにしていた中心人物が同じクラスである事を知る。
そして、その日は突然やってきた。
体育が終わり、制服に着替えようと更衣室に入った時、数人の女子が自分の制服をカッターで切り刻んでいるのを目撃した。
潰れかけていた心が音を立てて崩壊する。それと同時に、黒い感情が心を満たしていくのを感じた。
百合の意識が戻った時、制服を切り刻んでいた女子が、百合の足元で気を失っていた。そして、百合は思う。
“なんだ。簡単な事だったんだ。傷付けられる前に傷付ければ良い。そうすれば、私を傷付ける人はいなくなる”
綺麗な花を咲かせる予定だったユリの花は、まるで心の涙を流す様に、ポトリと落ちて散っていった。
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(またあの日の夢か……もう忘れたいのに……)
その日から、百合は自分が傷付けられる前に相手を傷付け、絶対的な力による優位性を確立する生き方をしてきた。
それが間違っているとは思ってなかった。なぜなら、自分がそうされてきたのだから。
しかし、そんな彼女にも転機が訪れる。“水面カフェ”に初めて入店した日の事。いつもの様にクレームを入れ、優位性を確立させようとした。だが、それは未遂に終わる。
勇気の入れたコーヒーが、クレームをつけようの無い見事な味だった。そして、勇気は優しい笑顔で百合に言う。
“おや? 少しお疲れですか?”
急に声をかけられた百合は、少し慌てながら否定する。
“いえ。体では無く、あなたの心が疲れている様に見えたので”
つい声を掛けてしまいました。と、微笑みながら言った。
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勇気に声を掛けられた日から、少しずつ百合の心に変化が現れた。自分の生き方が間違っていたのでは無いか、あの時、誰かに気付いてもらうのを待つのでは無く、自分から声を上げればよかったのでは無いか。そう考える様になった。
“水面カフェ”に通うに連れ、その気持ちが大きくなり、自分が自分で無くなる様な気がした。しかし、足を運んでしまう自分がいる。そんな自分に恐怖し、遠くの街へ引っ越したのだった。
(この前のあの子、確か声が出ないって言ってたっけ。私は声を出す事が出来るのに…誰かを傷つけてばかり……私は何がしたいんだろう)
彼女は考える。答えの出ない答えを探して、一週間前からずっと考え続けている。
(何でこんな風になっちゃったんだろうな………)
彼女は今、電車に揺られている。
朝早くから身支度をする。見栄をはる為に高級なアクセサリー身に付けた。まるで無防備な心を鎧で守る様に。
駅に着き、“水面カフェ”に向かい歩く。その足取りはとても重い。
百合はドアの前に立ち、深呼吸をする。ドアに手を掛けて開けようとした時、中から楽しそうな声が聞こえた。
百合が望んでも手に入らなかった、仲間と馬鹿な事を話し、大笑いする時間。それを羨ましく思い、そして妬んでいた。
ドアの向こうから聞こえる楽しげな声。そんな仲間に、自分も入れたらどんなに素敵だろう。
(でも、そんなの今更望めないし、自分を変える事なんて出来ない)
百合は覚悟を決め、ドアを開けた。
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