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二日前③
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未来は大きなキャリーカートを転がしながら、駅に向かう。切符の買い方や行き先は、以前に薫と出かけた際に聞いていた。難無く切符を購入し、電車に乗る。
電車に揺られる事約1時間。目的の駅へ到着した。改札を抜け、駅から出た未来は、大きな路を歩く。道中は特に何も無い風景だが、所々に桜が植えてあり、春になれば綺麗な桜並木路になるだろう。
駅から出て10分程歩いた場所に、そのカフェはあった。
濃い茶色の木製ドア。壁の上部に窓があり、窓際のお客さんは外からの目線が気にならない。大きなもみの木の植木鉢が3本並び、壁の部分を上手に隠していた。扉の前に手書きのwelcomeボードが置いてある。
未来は扉の前に立ち、深く息を吸った。意を決した様に扉を開くと、そこには勇気が立っていた。
「こんにちは。水面カフェへようこそ」
勇気は優しい笑顔で未来に声を掛ける。未来は少し頬を赤く染めてペコリとお辞儀をした。
「お昼ご飯まだですよね? 部屋へ案内する前に何か食べられますか?」
その言葉を聞き、未来の顔が明るくなる。現在時刻は午後2時を回った所、家を出る際に全て吐き出した事もあり、お腹が鳴る。
未来はお腹を押さえ、顔を赤くして俯いた。
「じゃあ何かリクエストはありますか?」
未来のお腹の音はかなり大きく、勇気にも聞こえているはずだったが、勇気はスルーした。
未来は顔を上げ、メニューが書かれているボードの前まで歩き、指を指す。
「カルボナーラですね。椅子に座って少しお待ち下さい」
勇気はニコリと笑い、前回と同じ場所の椅子を引く。未来は案内されるがまま、椅子に座った。
薫が座っていた席を見る。今日はそこに薫の姿は無く、誰も座っていない椅子があるだけ。未来は寂しく思うと同時に、一人でここまで来た事を、凄いと思っていた。以前なら絶対に無理だった事が、今日は可能となっている。その事が未来の自信に繋がっていく。何事もチャレンジして、一つずつ乗り越えれば良い。その積み重ねが明日の自分を作るのだと、そう強く思い、今日から始まる新しい日々への不安をかき消した。何よりも、この店には勇気がいるのだから。
「おまたせしました。どうぞゆっくりとお召し上がりください」
未来の前に前回と同じ皿と、飲み物が置かれる。未来はその香りを胸いっぱいに吸い込み、フォークとスプーンを手に取った。
目の前にもう一つ皿が置かれ、未来は勇気の顔を見た。勇気は笑顔のまま未来の正面にある椅子を引き、座った。
「実は僕もお昼まだなんです。座ってから言うのもなんですが、ご一緒してもよろしいでしょうか?」
勇気は少しはにかみながら言った。その言葉を聞いた未来も、恥ずかしそうに俯き、頭を下げて返事をした。勇気には見えなかったが、意識してなのか無意識なのか、未来の顔は緩んでいた。
二人でパスタを食べ終え、食後のドリンクを飲む。勇気はブラックコーヒー、未来は紅茶のカップを持ち、少しづつ口に入れながらまったりとしていた。
「さて、お腹も膨れた事ですし、そろそろお部屋に案内しましょうか」
そう言って勇気は立ち上がり、お皿を重ねて厨房へ運ぶ。テーブルの上が綺麗になった所で、勇気は未来に立ち上がるように言った。
「では、こちらへどうぞ」
厨房の奥に案内する勇気。さり気なく未来の荷物を手に持っている。それに気がついた未来は、自分が持つようにジェスチャーで伝えたが、やんわりと断られてしまった。
厨房の奥には螺旋状の上り階段があり、2階、3階へと続いていた。二人は2階まで上り、勇気が扉を開ける。入った直ぐ左側にトイレ、右側には洗面所へと続く扉がある。なんと洗面所には洗濯機まで置いてある。洗面所の奥にはバスルームがあった。更に奥へ進むと、かなり広い部屋が一間。1階の客が入る部分の広さがそのまま部屋となっていた。テレビ、テーブル、ソファー、ベッド、タンス、冷蔵庫も設置されており、一人暮らしには贅沢すぎる部屋だった。
未来は驚いた顔で勇気を見る。実際にこの部屋は、未来が父親と母親の3人で生活していた部屋よりもかなり広い。こんなに贅沢な部屋を一人で使って良いのだろうか? それとも勇気と一緒に住むのだろうか…? いやいや、それは流石に恥ずかしい。そんな疑問が混ざり合った表情をしていた。
「ん? あぁ、この部屋は未来さんが一人で使う部屋ですよ。私の部屋は3階です」
表情を読み取った勇気が未来に告げる。それを聞いた未来は、ホッとしたように胸を撫で下ろした。未来の感情の中に、ほんの少しだけ残念に思う感情があった事は、本人も気がついていなかった。
「さて、部屋は別とは言え、同じ屋根の下で生活をする事になります」
未来はコクコクと頷いた。
「そこで、いくつかルールを決めたいと思います。よろしいでしょうか?」
未来はコクコクと頷いた。その反応を見て勇気は続ける。
「先ず、部屋の掃除は自分でする事」
未来は大きく頷いて同意を示す。さも当然の事だろうと未来は思った。
「次、夜10時以降は一人で外へ出ない事。外に出る時は僕が付いていきます」
未来はコクコクと頷いた。更に勇気が続ける。
「そして最後に、今日以降お互いの部屋には絶対に入らない事。この3つを共同生活のルールとします。よろしいですね?」
未来は大きく頷いて了解の意思を示す。その様子を見た勇気はニッコリと笑い、頷いた。
「さて、それでは僕は退出するので、荷物の整理をして下さい。それが終われば、この街をご案内します」
未来はコクコクと頷いた。その様子を見て、勇気は笑顔で部屋を出る。
一人になり、未来は部屋を見渡す。改めて見ると、すごく大きい上に便利な部屋だ。トイレ、風呂も勇気を気にする事は無い。この部屋で新しい生活のスタートとなる。
未来は楽しさ半分、嬉しさ半分で持ってきた荷物を開封した。
電車に揺られる事約1時間。目的の駅へ到着した。改札を抜け、駅から出た未来は、大きな路を歩く。道中は特に何も無い風景だが、所々に桜が植えてあり、春になれば綺麗な桜並木路になるだろう。
駅から出て10分程歩いた場所に、そのカフェはあった。
濃い茶色の木製ドア。壁の上部に窓があり、窓際のお客さんは外からの目線が気にならない。大きなもみの木の植木鉢が3本並び、壁の部分を上手に隠していた。扉の前に手書きのwelcomeボードが置いてある。
未来は扉の前に立ち、深く息を吸った。意を決した様に扉を開くと、そこには勇気が立っていた。
「こんにちは。水面カフェへようこそ」
勇気は優しい笑顔で未来に声を掛ける。未来は少し頬を赤く染めてペコリとお辞儀をした。
「お昼ご飯まだですよね? 部屋へ案内する前に何か食べられますか?」
その言葉を聞き、未来の顔が明るくなる。現在時刻は午後2時を回った所、家を出る際に全て吐き出した事もあり、お腹が鳴る。
未来はお腹を押さえ、顔を赤くして俯いた。
「じゃあ何かリクエストはありますか?」
未来のお腹の音はかなり大きく、勇気にも聞こえているはずだったが、勇気はスルーした。
未来は顔を上げ、メニューが書かれているボードの前まで歩き、指を指す。
「カルボナーラですね。椅子に座って少しお待ち下さい」
勇気はニコリと笑い、前回と同じ場所の椅子を引く。未来は案内されるがまま、椅子に座った。
薫が座っていた席を見る。今日はそこに薫の姿は無く、誰も座っていない椅子があるだけ。未来は寂しく思うと同時に、一人でここまで来た事を、凄いと思っていた。以前なら絶対に無理だった事が、今日は可能となっている。その事が未来の自信に繋がっていく。何事もチャレンジして、一つずつ乗り越えれば良い。その積み重ねが明日の自分を作るのだと、そう強く思い、今日から始まる新しい日々への不安をかき消した。何よりも、この店には勇気がいるのだから。
「おまたせしました。どうぞゆっくりとお召し上がりください」
未来の前に前回と同じ皿と、飲み物が置かれる。未来はその香りを胸いっぱいに吸い込み、フォークとスプーンを手に取った。
目の前にもう一つ皿が置かれ、未来は勇気の顔を見た。勇気は笑顔のまま未来の正面にある椅子を引き、座った。
「実は僕もお昼まだなんです。座ってから言うのもなんですが、ご一緒してもよろしいでしょうか?」
勇気は少しはにかみながら言った。その言葉を聞いた未来も、恥ずかしそうに俯き、頭を下げて返事をした。勇気には見えなかったが、意識してなのか無意識なのか、未来の顔は緩んでいた。
二人でパスタを食べ終え、食後のドリンクを飲む。勇気はブラックコーヒー、未来は紅茶のカップを持ち、少しづつ口に入れながらまったりとしていた。
「さて、お腹も膨れた事ですし、そろそろお部屋に案内しましょうか」
そう言って勇気は立ち上がり、お皿を重ねて厨房へ運ぶ。テーブルの上が綺麗になった所で、勇気は未来に立ち上がるように言った。
「では、こちらへどうぞ」
厨房の奥に案内する勇気。さり気なく未来の荷物を手に持っている。それに気がついた未来は、自分が持つようにジェスチャーで伝えたが、やんわりと断られてしまった。
厨房の奥には螺旋状の上り階段があり、2階、3階へと続いていた。二人は2階まで上り、勇気が扉を開ける。入った直ぐ左側にトイレ、右側には洗面所へと続く扉がある。なんと洗面所には洗濯機まで置いてある。洗面所の奥にはバスルームがあった。更に奥へ進むと、かなり広い部屋が一間。1階の客が入る部分の広さがそのまま部屋となっていた。テレビ、テーブル、ソファー、ベッド、タンス、冷蔵庫も設置されており、一人暮らしには贅沢すぎる部屋だった。
未来は驚いた顔で勇気を見る。実際にこの部屋は、未来が父親と母親の3人で生活していた部屋よりもかなり広い。こんなに贅沢な部屋を一人で使って良いのだろうか? それとも勇気と一緒に住むのだろうか…? いやいや、それは流石に恥ずかしい。そんな疑問が混ざり合った表情をしていた。
「ん? あぁ、この部屋は未来さんが一人で使う部屋ですよ。私の部屋は3階です」
表情を読み取った勇気が未来に告げる。それを聞いた未来は、ホッとしたように胸を撫で下ろした。未来の感情の中に、ほんの少しだけ残念に思う感情があった事は、本人も気がついていなかった。
「さて、部屋は別とは言え、同じ屋根の下で生活をする事になります」
未来はコクコクと頷いた。
「そこで、いくつかルールを決めたいと思います。よろしいでしょうか?」
未来はコクコクと頷いた。その反応を見て勇気は続ける。
「先ず、部屋の掃除は自分でする事」
未来は大きく頷いて同意を示す。さも当然の事だろうと未来は思った。
「次、夜10時以降は一人で外へ出ない事。外に出る時は僕が付いていきます」
未来はコクコクと頷いた。更に勇気が続ける。
「そして最後に、今日以降お互いの部屋には絶対に入らない事。この3つを共同生活のルールとします。よろしいですね?」
未来は大きく頷いて了解の意思を示す。その様子を見た勇気はニッコリと笑い、頷いた。
「さて、それでは僕は退出するので、荷物の整理をして下さい。それが終われば、この街をご案内します」
未来はコクコクと頷いた。その様子を見て、勇気は笑顔で部屋を出る。
一人になり、未来は部屋を見渡す。改めて見ると、すごく大きい上に便利な部屋だ。トイレ、風呂も勇気を気にする事は無い。この部屋で新しい生活のスタートとなる。
未来は楽しさ半分、嬉しさ半分で持ってきた荷物を開封した。
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