余命 （虚構） （遺書） 【実録】 遠藤さくら（著）

短編小説

夫婦茶碗（めおとちゃわん）

女（妻）とは、一日中夫に家の中に居られることを好まない生き物である。

毎日、叱咤激励される中、ビジネスに勤しみ、

時々、というか定時には帰宅して、良い夫を演じて欲しいと願う。

その癖、「子供の世話をしろ」。「休みが少ない」。

「もう少し家のことを考えて欲しい」。「炊事洗濯を妻にばかりさせるな」。

「女房を奴隷だと思うな」。などと口を挟みながらも、

夫がしらけてしまい、家に帰らなくなると、「寂しいのですが・・・・・・」。

そうして家に帰宅するなり、

「何をしていたの？」、「いつもとなんか感じが違う」。などとのたまう。

私には休みはないのかと思いながらも、妻に尽くすわけである。

これが何時までもつのかはわからない。

女が嫌になれば、私は無言になるし、嫌いになれば勝手に出てゆくだろう。

共有とは、依存関係ではなく、共に頑張ることであり、依存とは病気だ。

私は依存を好まない。

そういいながらも、なにくわぬ顔で妻のイライラを聞き、

妻が寝込めば介抱をし、良き夫を演じているつもりである。

私にも限界はある。堪忍袋の緒が切れた。

そんなことはしゅっちゅうである。

だが、男たるもの、浮気もせず、妻に尽くしてばかりいると、

世の中の男子は、そこまで尽くしてなんになるのだという顔をする。

時には、浮気も男の甲斐性だというのである。

しかし、私は浮気を一度もしたことはない。

妻意外にも良い女とはいるのかも知れないが、私にとっての女とは、

妻であり、この女なくしては、私は存在しないと言えるであろう。

これが、私の生甲斐である。

夫婦（めおと）とは、夫婦（ふうふ）のことであるが、

夫の茶碗と妻の茶碗が少し形が異なるのもなんだか、時代の流れと言うのか。

うつろいの中に映し出された夫婦茶碗（めおとちゃわん）なのだと思えてならない。

夫は長く生き、妻はこぶりな茶碗が示すように夫よりかは先立つのが早い。

という面影は、いまの令和にはそぐわないのかもしれない。