小説「三千人の子供たち」

小説「三千人の子供たち」

今は子供を作らないようにしている、子供の数 3,000人 内妻1,425人 独りの男から誕生した。 男の年齢は50代弱である。 

【あらすじ】
あらすじ「三千人の子供たち」

近未来の日本、深刻な少子化対策として、政府は遺伝子的に優れた男性を選出し、子孫を増やすプロジェクトを開始した。その中でも、村上譲（むらかみ・ゆずる）は異例の存在だった。彼は五十歳に満たない年齢でありながら、1,425人の妻との間に3,000人もの子供をもうける「特別な父親」として注目されている。医学者としての彼の才能と遺伝子の特異性が認められ、国家プロジェクトの象徴となっているのだ。

譲は巨大な育成施設に住み、日々子供たちの成長を見守っている。しかし、彼は普通の家庭生活や少数の家族との時間を持てないことに時折複雑な思いを抱いている。そんな中、幼い娘アカリが彼に疑問を投げかける。「なぜ私たちには兄弟がたくさんいるの？」と。譲は子供たちが未来を支える仲間となるためであり、自分がそのために選ばれた特別な存在であると説明する。

時が経ち、アカリは十代となり、他の子供たちのリーダーとして成長を遂げる。彼女は父譲の思いを受け継ぎ、「私たちでこの世界を変えてみせる」と力強く語り、父を安心させる。譲は、かつての自分の夢を思い出しながらも、子供たちが新たな時代を切り開くことを信じ、彼らが未来へと歩み出す姿を静かに見守るのだった。

この物語は、少子化が進む未来社会で「特別な父親」としての役割を担った男の葛藤と、彼が注ぎ込んだ思いが次世代へと受け継がれる姿を描く。

【本題】
小説「三千人の子供たち」

時代は少し未来の日本。  
今や子供を持つことは、選ばれし男たちのみが許される特権となった。人口は減少の一途をたどり、政府は厳しい基準のもと、遺伝子的に優れた男性を選出し、子孫を増やす政策を実施している。そんな中で、ある一人の男が前代未聞の「三千人の子供を持つ男」として注目を浴びていた。

彼の名は、村上譲（むらかみ・ゆずる）。年齢はまだ五十歳に達していないが、これまでに1,425人の妻を持ち、三千人以上の子供たちをもうけた。譲はもともと医学者だったが、自らの遺伝子が特異的に優れていることが認められ、政府の特別プロジェクトの「父親」に選ばれた。彼の身体には、定期的に強靭な体力を維持するためのメンテナンスが施され、仕事はプロジェクトに集中できるよう調整された。

***

彼の住む広大な施設は、広さ数十ヘクタールにもおよぶ広大な緑地に囲まれた場所に位置している。内部には、子供たちが健康に育つための最先端の環境が整えられ、教育施設や医療設備、スポーツ施設が揃っている。譲は子供たち一人ひとりと密な関係を築くことが難しいと理解しつつも、彼なりに愛情を注ぎ、彼らの成長を見守っていた。

ある日の午後、譲はお気に入りの中庭で、ある少女と対面していた。彼女の名前はアカリ、まだ六歳だが聡明で、譲の顔を真っすぐに見上げている。

「パパ、なんで私たちには兄弟がたくさんいるの？」

アカリの問いかけに、譲は微笑んだ。彼女の瞳には幼いながらも鋭い好奇心が宿っていた。

「それはね、アカリ。みんなで支え合いながら、未来を作るためなんだよ。君たちがこれからの時代を生き抜くためには、一人でも多くの仲間が必要なんだ」

アカリはしばらく考え込んでから、首をかしげた。「でも、どうしてパパ一人なの？他の人も、私たちのお父さんになれないの？」

譲は少し言葉に詰まったが、慎重に答えた。「そうだね、アカリ。これは特別な役割なんだ。君たちがより良い未来を築けるように、僕が選ばれたんだよ」

アカリは納得したような顔をし、何かを理解したように頷いた。

***

譲の一日は、子供たちと話し、彼らの進捗を確認し、時には教育プランの改善について指示を出すことに費やされる。だが、夜になると、彼はよく一人で考え事をする。三千という数字の重み、その責任が彼の肩にのしかかっていることを痛感していた。

ある夜、譲は若き頃の自分の夢を思い出していた。本来なら自分も、普通の家庭を持ち、二人か三人の子供と共に穏やかな生活を送りたいと思っていた。だが、今ではその夢は叶わぬものだと悟っている。

「僕は一体、何をしているのだろうか」

自問自答を繰り返す中で、譲は自分が国家の一部であるという感覚が次第に薄れ、自身がただの「父親」であることに集中するようになっていた。彼は、子供たちが持つ未来を信じ、彼らが新しい時代を築いていくことを願っていた。

***

数年が過ぎ、アカリは十代を迎えた。彼女は施設内でもひときわ優れたリーダーシップを発揮し、他の子供たちの模範となっていた。譲は、彼女が成長する姿を見るたびに、かつての自分の若さを思い出し、心の中で静かに誇りを感じていた。

やがてアカリが彼の元を訪れ、言った。「パパ、私たちでこの世界を変えてみせるよ」

譲はその言葉を聞き、深い安心感と共に微笑んだ。自分が成し遂げたかった未来が、今まさに彼らの手で実現しようとしているのだと感じたからだった。