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第三話 最悪の出会い方
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そうして四月になり、私はこの学園の生徒となった。
クラスメイトと言葉を交わすこともなく、入学式とその日の一連の行事を終えた私は、放課後に担任との面談したあと、慣れない校舎で立ち尽くしていた。
いつの間にか人気のない寂しい校舎に入り込んでいた。
「もう、かなちゃん、図書室って、どこだよ?」
一緒に帰ろう、と面談が終わるまで図書室で待っているといってくれた過保護なかなちゃんを探しながら途方に暮れる。
こうして歩いていると思ったより、大きな学校だったのだと気付く。
かなちゃんもそうだが、有名企業の子弟や、芸能人なども多く受け入れているらしいこの学校は新館はまだかなり綺麗で設備も整っている。この校舎は見た目こそ随分と古そうだけど、造りは豪華で、昔の洋館の風情を漂わせている。
人一人いない廊下を進んで行くと私は行き止まりにある教室の前に立ち尽くした。
資料室と読めなくもない掠れた文字に若干の違和感を感じながらも、私は扉を開いた。
古い蔵書の臭いが立ち込めていて、棚には沢山の本が並んでいる。
やはりここで良かったのだ、それにしても静かだと私はなかに足を踏み出した。
どこからか囁くような小さな声と息遣いが聞こえた気がして、少しだけ安心した
人もいる、やはりここでいいようだ。
「かなちゃん、どこだろう……」
そのまま奥に進んで本棚の列から顔をだし、室内を見渡していた私は、違和感に目を見開いてその場に立ち尽くした。
「あっ、あっ、あああっ!!」
大きな胸を揺らした制服姿の女の子があられもない姿で声を漏らしながら、私の側で何かに股がって腰を振っているのだ。
ーーーこれは
身動きが出来なくなっていた私は善がりながら身を仰け反らせた女生徒を見下ろす形になり、上から快楽で蕩けた瞳をガン見する状態になってしまった。
「ひっ、誰?」
「………どうした?」
彼女の豊満な体を膝にのせていた男がサラサラの黒髪を邪魔そうに掻き上げながら顔を上げる。
「…………」
「…………」
暫くの沈黙のあと、黒髪の男の人は彼女と体を繋げたまま、冷涼な美貌で挑発するような笑みを作った。
「そうか、入学式だもんね、君中学生くらいにしか見えないけど、そのリボン、高等部編入組かな?」
「…………」
何も言えずに固まっている私に、女生徒はカッとして金切声をあげた。
「ちょっと、いつまで見てるのよ?」
「あっ……」
想定外のこの状況と、男の問いかけと、女性の叫び声に驚いた私は処理能力が追い付かない。
なにより、体が動かない。
私という人間は同時に複数のことを処理するのが苦手なのだ。
「あ……」
眉を寄せたまま立ち尽くしていたその時、後ろから飄々とした声が聞こえた。
「あっ、野乃花、いたいた、待ってても全然こないから探してたんだよ、………って秋芝っち」
「櫻川……?」
「さ、櫻川くん?」
かなちゃんの知り合いなのだろうか、途端に戦闘モードから恥じらうように身を隠す女生徒。
それに対してかなちゃんは露骨に嫌な顔をして、私を後ろから片手で抱きすくめて、もうひとつの手で私を目隠しした。
「なんて、格好してんだよ、俺の野乃花に変なもん見せてんじゃねぇよ!」
「さ、櫻川くん、ち、違うのよこれは……」
「………野乃花?」
固まったままの私の前で繰り広げられる会話はそれぞれにいまいち絡み合っていない気がする。
「ま、こんな旧校舎まで迷い込んだこいつも悪いけどね……」
「………図書室じゃないのか?」
「馬鹿、図書室は新館の地下って言ったのに、また他に気をとられて聞いてなかったんだろう?」
「………そうだったのか、それは、すまなかった」
シュンとする私の進行方向を目隠しをしたまま出口の方にくるりと向かせて、私の肩に手を置いたままのかなちゃんは後ろの二人に向かってもうひとつの手をあげた。
「まぁ、そういう事で邪魔したね!さぁ、野乃花、行こうか?今日は入学祝いに太陽が好きなものご馳走してくれるって言ってるから」
「え、お兄ちゃん帰ってきてるのか?」
その時、私たちは後ろで呟かれた困惑した低温の声に気付かなかった。
「お兄ちゃん、太陽、ののか、野乃花だと?まさか……」
突然険しい顔をして立ち上がりかけた男に女の驚いた声があがる。
「ちょっ、瑠偉くん、どうしたの急に怖い顔して?もう誰も来ないよ、だから、ね……?」
そう言って唇を重ねようとする女を制して、男は問いかける。
「なぁ……」
「なに?」
「櫻川、………あいつ、下の名前ってなんて言ったっけ?」
女は首を傾げて微笑んだ。
「………奏だよ?もしかして瑠偉くん、焼いてくれてるの?」
その言葉には答えずに男は眉を寄せたままブツブツとなにやら呟いている。
「…………かなで、かなちゃんだと?………まさか、あの時の、男だったのか??」
ハッとしたように掠れた声で呟いた男に女は苦笑する。
「え……、男に決まってるでしょ??変な瑠偉くん、まぁ奏くん最近女性コスメやファッションのモデルも始めてるけど、それがもう凄い綺麗で女顔負けっていうか………」
「…………」
それを聞いて立ち上がり、シャツのボタンをかけ始めた男に女は目を見開いた。
「え?何??瑠偉くん、なに?どうしたの??やめちゃやだよ!!」
「萎えた……、もう帰れお前、今日で終わりな?」
「えっ、なんでだよ!酷いよ!!」
「最初から、飽きるまででいいって寄ってきたのはそっちだろ……」
「そ、そうだけど……」
クラスメイトと言葉を交わすこともなく、入学式とその日の一連の行事を終えた私は、放課後に担任との面談したあと、慣れない校舎で立ち尽くしていた。
いつの間にか人気のない寂しい校舎に入り込んでいた。
「もう、かなちゃん、図書室って、どこだよ?」
一緒に帰ろう、と面談が終わるまで図書室で待っているといってくれた過保護なかなちゃんを探しながら途方に暮れる。
こうして歩いていると思ったより、大きな学校だったのだと気付く。
かなちゃんもそうだが、有名企業の子弟や、芸能人なども多く受け入れているらしいこの学校は新館はまだかなり綺麗で設備も整っている。この校舎は見た目こそ随分と古そうだけど、造りは豪華で、昔の洋館の風情を漂わせている。
人一人いない廊下を進んで行くと私は行き止まりにある教室の前に立ち尽くした。
資料室と読めなくもない掠れた文字に若干の違和感を感じながらも、私は扉を開いた。
古い蔵書の臭いが立ち込めていて、棚には沢山の本が並んでいる。
やはりここで良かったのだ、それにしても静かだと私はなかに足を踏み出した。
どこからか囁くような小さな声と息遣いが聞こえた気がして、少しだけ安心した
人もいる、やはりここでいいようだ。
「かなちゃん、どこだろう……」
そのまま奥に進んで本棚の列から顔をだし、室内を見渡していた私は、違和感に目を見開いてその場に立ち尽くした。
「あっ、あっ、あああっ!!」
大きな胸を揺らした制服姿の女の子があられもない姿で声を漏らしながら、私の側で何かに股がって腰を振っているのだ。
ーーーこれは
身動きが出来なくなっていた私は善がりながら身を仰け反らせた女生徒を見下ろす形になり、上から快楽で蕩けた瞳をガン見する状態になってしまった。
「ひっ、誰?」
「………どうした?」
彼女の豊満な体を膝にのせていた男がサラサラの黒髪を邪魔そうに掻き上げながら顔を上げる。
「…………」
「…………」
暫くの沈黙のあと、黒髪の男の人は彼女と体を繋げたまま、冷涼な美貌で挑発するような笑みを作った。
「そうか、入学式だもんね、君中学生くらいにしか見えないけど、そのリボン、高等部編入組かな?」
「…………」
何も言えずに固まっている私に、女生徒はカッとして金切声をあげた。
「ちょっと、いつまで見てるのよ?」
「あっ……」
想定外のこの状況と、男の問いかけと、女性の叫び声に驚いた私は処理能力が追い付かない。
なにより、体が動かない。
私という人間は同時に複数のことを処理するのが苦手なのだ。
「あ……」
眉を寄せたまま立ち尽くしていたその時、後ろから飄々とした声が聞こえた。
「あっ、野乃花、いたいた、待ってても全然こないから探してたんだよ、………って秋芝っち」
「櫻川……?」
「さ、櫻川くん?」
かなちゃんの知り合いなのだろうか、途端に戦闘モードから恥じらうように身を隠す女生徒。
それに対してかなちゃんは露骨に嫌な顔をして、私を後ろから片手で抱きすくめて、もうひとつの手で私を目隠しした。
「なんて、格好してんだよ、俺の野乃花に変なもん見せてんじゃねぇよ!」
「さ、櫻川くん、ち、違うのよこれは……」
「………野乃花?」
固まったままの私の前で繰り広げられる会話はそれぞれにいまいち絡み合っていない気がする。
「ま、こんな旧校舎まで迷い込んだこいつも悪いけどね……」
「………図書室じゃないのか?」
「馬鹿、図書室は新館の地下って言ったのに、また他に気をとられて聞いてなかったんだろう?」
「………そうだったのか、それは、すまなかった」
シュンとする私の進行方向を目隠しをしたまま出口の方にくるりと向かせて、私の肩に手を置いたままのかなちゃんは後ろの二人に向かってもうひとつの手をあげた。
「まぁ、そういう事で邪魔したね!さぁ、野乃花、行こうか?今日は入学祝いに太陽が好きなものご馳走してくれるって言ってるから」
「え、お兄ちゃん帰ってきてるのか?」
その時、私たちは後ろで呟かれた困惑した低温の声に気付かなかった。
「お兄ちゃん、太陽、ののか、野乃花だと?まさか……」
突然険しい顔をして立ち上がりかけた男に女の驚いた声があがる。
「ちょっ、瑠偉くん、どうしたの急に怖い顔して?もう誰も来ないよ、だから、ね……?」
そう言って唇を重ねようとする女を制して、男は問いかける。
「なぁ……」
「なに?」
「櫻川、………あいつ、下の名前ってなんて言ったっけ?」
女は首を傾げて微笑んだ。
「………奏だよ?もしかして瑠偉くん、焼いてくれてるの?」
その言葉には答えずに男は眉を寄せたままブツブツとなにやら呟いている。
「…………かなで、かなちゃんだと?………まさか、あの時の、男だったのか??」
ハッとしたように掠れた声で呟いた男に女は苦笑する。
「え……、男に決まってるでしょ??変な瑠偉くん、まぁ奏くん最近女性コスメやファッションのモデルも始めてるけど、それがもう凄い綺麗で女顔負けっていうか………」
「…………」
それを聞いて立ち上がり、シャツのボタンをかけ始めた男に女は目を見開いた。
「え?何??瑠偉くん、なに?どうしたの??やめちゃやだよ!!」
「萎えた……、もう帰れお前、今日で終わりな?」
「えっ、なんでだよ!酷いよ!!」
「最初から、飽きるまででいいって寄ってきたのはそっちだろ……」
「そ、そうだけど……」
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