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後日談その1
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「はっ、茜、茜、茜、……」
「んっ、ふっ、たい、…が、あんっ、もう、無理、たいが、もっ…、む、り…だから…」
そう、泣きを入れる私にも構わずに、泰叶は腰を深く突き上げて、私の再奥を蹂躙する。
部屋の中には淫靡な水音と、肉を打つ音がこだまする。
「っ…泰叶、無理、もう本当に限界だからぁぁ!!」奥を大きなモノで何度も何度も穿たれた私は、涙目で泰叶に懇願する。
「うん、あかね、いいよ、何度でもイって?一緒にイこ?俺を感じて?」
「たっ、たいが……」
「あかね、愛してるっ…、あかねっ、あかねっ、あかね~!」
熱の籠った瞳で私を見つめて、優しい指先で私の頭をヨシヨシと撫で撫でながらも、下半身は強い突き上げを容赦なく続ける泰叶。
それはまるで飴と鞭のようだった。
「あっ、あぁぁ、たい、が、ダメ…、もう、ダメだからぁぁ!!!」
込み上げる恐怖に似た快楽が弾けて視界が明滅する。
「っ、あかねっ、あかねっ……っ、持ってかれる」
そう、私をギュッと抱きしめて、泰叶は腰の動きを速める。その動きが、徐々に射精をする為の動きに変わり、泰叶は小さく呻いた。
やがて、激しかった動きは、名残を惜しむような緩やかな振動に変わる。それと共にゴム越しに泰叶の熱を感じた私は、おそらく暫くの間、意識を手放していたのだろう。もう心身ともに限界だった。
「あかね、聞こえる?…すごく、良かったよ、可愛い、はぁっ、…あかね?」
そう言って、瞳孔の開いた黒い瞳を潤ませて、私を覗き込み、労うように私の唇を塞ぐ泰叶。
(もう、無理、無理なんだよ?泰叶)
言葉も出せない私は、未だ、小さくピクンピクンと痙攣する身体の熱を逃すのが精一杯で、脱力したままそれを受け入れる。
「あかね、…大丈夫?ごめんね、無理させた?」
(……無理は、とっくに通り越してるよ?泰叶……、なんで、あんたそんなに絶倫なの?)
答えのない私に不満なのか、泰叶は、私の瞳を焦ったそうに覗き込みながらも、私の汗ばんだ胸をフニフニと揉みしだきながら、再び、腫れあがった私の唇を、自分の舌でそっと濡らす。
そして、その唇が不埒にもまた、散々貪られて腫れて赤くなっている私の胸の頂に触れる。
「……たいが、むり、もう、さすがに、もう無理だから、ね、ねかせて?お願い?明日、ううん、今日も仕事あるから、泰叶も、仕事でしょ?寝なきゃ…」
「……仕事やだ、行きたくない、茜とずっとこうしてたい」
「もうっ、また、そんな事ばっかり言わない!」
時刻は既に明け方だった。
昨夜、撮影が押して、深夜訪れた泰叶を眠らずに待っていたのだが、泰叶は用意していた食事もとらずに、私を組み敷いて今に至る。
「あかね?あかねは、俺と離れている間、寂しくなかったの?俺は、凄ーく寂しかったよ?あかねの事、触りたくて、あかねの事、抱きしめたくて、あかねに、俺の事見て欲しかった。もちろん画面越しじゃない俺だよ、あかねは違うの?」
「ち…、違わないよっ、だけどね……」
気持ちは違わなくても、泰叶と私の体力が違い過ぎる事は、この数日で立証されているのだ。
「ねぇ、茜、やっぱり結婚しよう?すぐしよう?俺のマンションに引っ越してきて??」
もう何度聞いたか分からないその言葉に、私は、困った顔で、微笑むしかない。
そうして、泰叶の言葉をできるだけ否定しない形で受け流す。
ここの返しに失敗したら、一気に泰叶をベイダーモードに変えてしまう恐れがあるからだ。
そう、あの国民的アニメのウサギの形をしたキャラクターと同じ危うさを泰叶は持っているのだ。
泰叶の瞳から逃れるように泰叶の首に手を回して、そのサラサラの髪の間に手を入れる。
そして頭を撫でながらできるだけ優しく言う。
「……まだ、早いよ、それに、世の中の泰叶ファンを敵に回したら、私は生きていけないよ?」
「大丈夫だよ、茜、俺が守るから!絶対に幸せにする」
「……そうだね」
そう言いながら思う。
泰叶の気持ちは本物だろう。
でも私たちは、決して二人だけでは生きていけない。
泰叶は今、乗りに乗っている大切な時期だ。
それだけに、また以前のように、いや、以前どころではない迷惑をかけてしまう事になるかもしれない。それは避けたい。
そして、泰叶の恋人として報道されるとしたら、私は間違いなく今の生活をすることは叶わなくなるだろう。会社にまで迷惑はかけられないのだ。
泰叶と気持ちを通じる事と、二人が社会でどうやって生きていくかは、また別の問題なのだ。
これはしっかり、慎重に考えていかなければならない。
私は、泰叶の髪の毛を掻き分けながら気付かれないように溜息を吐いた。
そうすると泰叶の携帯が着信を告げた。
泰叶は一瞬嫌な顔をして、私の唇に触れるだけの口付けをして、その着信を不機嫌そうにとった。
「……大丈夫です。30分後には出れますから、はい」
死んだ魚のような目でそう答えた泰叶は、私に再び抱きついてきた、そしてお腹に頭を擦りつける。
「待谷さん?」
待谷さんとは泰叶のマネージャーさんだ。
「あ~、もうっ、本当に行きたくない!茜、ギュっとして!!」
そう言って、強く私を抱きしめる泰叶に呆れる。
「ちょ、泰叶、もしかして今からまた仕事なの?そんな事、言ってなかったから…」
時刻は朝の5時だ。
まさか私よりも早く仕事に出発するとは思っていなかった私は慌てる。
だって、それでは泰叶は一睡もせずに仕事に向かうことになる。
「だって、言ったら茜、絶対相手してくれなかったよね?そんなの嫌だ。…大丈夫、ロケバスで寝るから」
その言葉に私は頭を抱えた。
「……泰叶、ダメだよ、そんなんじゃ身体壊しちゃうから」
「大丈夫、茜に触れない方が、絶対体にもメンタルにも悪いから」
その言葉に呆れるしかない。
泰叶はあの思いが通じ合った日から、ずっとこの調子だ。
このままではいつスクープされるかも気が気じゃないし、絶対にお互い身体が持たなくなる。
だけど、この調子の泰叶にさすがに来るなとも言えないでいる。
「…茜、今日も来るから、遅くなるかもしれないけど、眠っててもいいから、ここで待ってて、俺、夜はやっぱり茜の横で眠りたい、この部屋がいい」
「は、ははっ…」
(絶対、大人しく寝るだけじゃないよね…)
私は、引き攣りながら、前途多難な未来を思う。
絶対、こんな不摂生な生活は続かないよね?
だけど、そんな風な生活が二週間くらい続いたある日から、泰叶はパッタリと家に来なくなったのだ。最後に来た時に泰叶は言った。それは凄くいい顔だったと思う。
「茜、時代映画の主演が決まったんだ!俺、これにかけてみようと思うんだ。シナリオ量に対して撮影期間がすごく短くてさ、ほぼ県外での詰め込み撮影になりそうだから、当分会えないけど、俺、頑張るから!!だから、茜、待っていてね!!」
「そ、そうなんだ…」
正直、仕事に前向きな泰叶は久しぶりで戸惑った。
「うん、俺、もうさ、一刻も早く帰ってこれるように朝から、晩まで仕事しまくるから!!」
「う、うん、頑張って」
「……だからさ、茜」
「うん?」
「今日は、思う存分付き合って」
「え……?」
そう、凄く思いつめた顔をした奴は、その後、夜が明けるまでに、6回致して、ボロボロの私に口付けて颯爽と去っていったのだ。
それからは、嘘みたいに以前のような生活に戻った。
相変わらず泰叶と圭吾のテレビ番組を見て、いや、泰叶に邪魔されて見れなかった分、たまりにたまっていた分もみて、すっかり私は、会社とテレビの人となっていた。
そうして以前と同じように、毎日かかってくる泰叶からの電話で近況を報告し合う日々が続いた。
だけど、その電話が減り、日によってはメッセージだけになり、それすらも段々と回数が減っていくのだ。
不安になった私は、こちらから電話しようと思ったが、向こうの状況が分からないので躊躇って結局は連絡出来ないままでいた。
久しぶりの一人だけの土日を過ごす。
一人分に戻ってしまった洗濯物を干して、なぜか溜息を吐いた。
「…泰叶、どうしてるんだろう?」
モヤモヤする気持ちに気付いた私は、眉を寄せた。
こんなにも気持ちが落ちている自分に小さく呆れる。
それが何故か、流石に気付いてしまったから。
―――そうだね、恋って、温かいだけじゃなかったね
そんなとき、携帯が着信を告げた。
私は、ハッとして振り返って、小走りにそれを手に取る。
そして、表示された名前を見て、明らかに落胆した。
本当に酷い姉だ。
「……圭吾、どうしたの?」
「あ~、うん……」
圭吾の声も心なしか暗い。
「いや、ちょっとさ、聞いておきたい事があって、一度ちゃんと会って話しときたいと思ってさ…」
そう言われた私は、少しだけ察した。
きっと、泰叶との事を耳にしたのだろう。
「あ~、うん、いいよ?行こうか?仕事いつ終わる?」
そう言う私の言葉を圭吾は遮った。
「……いやっ、近くまで来てるんだ、今から行っていい?」
「えっ、うん、まぁ、いいけど?」
そうして、待つこと、数十分後に圭吾は自宅に訪れた。
玄関ドアを開けたら、圭吾は警戒するように四方八方を見回して、ドアに身を滑り込ませた。
(うん、…すっかり芸能人だね)
「茜、急に、ごめんね?」
「いいよ、それでどうしたの?」
私は、圭吾にお砂糖たっぷり三杯入りのコーヒーを差し出して、その上から、牛乳を注ぐ。
「ありがとう」
それを当然のように受け取った弟は、それに口をつけて一瞬幸せそうな顔をしたものの、再び表情を引き締めた。
少し気まずい沈黙が流れる。
(うん、分かる、分かるよ、圭吾、これは言い出しづらいよね?)
でも、こちらから言い出すのはもっと気まずいので、やはりその役目は圭吾に担ってもらう事にした。
「…その、茜と泰叶の事なんだけどさ」
(で・す・よ・ねえ~!)
「大丈夫なのかなって?変な事されてない??無理な事とか」
『毎日、それはもう滅茶苦茶、無理させられてました』
なんて言えない私は、目を逸らして俯いた。
「……男女の関係になったのは、うん、時間の問題だったから、仕方ないと思う」
「……時間の問題?」
「うん、正直、今までよく、もったと思う」
「もった?」
「泰叶が茜の事、狙ってたのは、ずっと前から知ってたから」
「へ…? ずっと前って?」
「ずっと前って言ったら、ず~っと前だよ!!!」
その言葉に私は目を見開く。
「茜も、なんだかんだ泰叶が可愛くて仕方が無いって感じだったから、それはもういいかなって、仕方ないかなって思ってたけど、あいつちょっとヤバいじゃん?」
「ま、まぁ、うん、そうかもね……」
「…正直、外堀埋められすぎみたいだから、最後に確認しておきたくて」
「……うん、…ん?」
「茜も、姉さんも、泰叶が好きって事でいいんだよね?」
(それ、聞く? しかも、そんなに真顔で?)
恥ずかしいじゃん…
どういう顔をしていいのか分からなくて、躊躇する私に、可愛い弟は、琥珀色の瞳で詰め寄った。
「本当に、いいんだね?今なら、まだ、連れて逃げてあげられるよ??」
「え………」
(私って、何かに、追われてたっけ?)
「……泰叶の事、好きなんだよね?大丈夫なんだよね??」
いつもは人好きのするその顔が、今日だけはいつになく、恐ろしくて、私は羞恥を捨てて答えた。
「はい、好きです、大丈夫です!」
そう答えると、圭吾は、それはそれはもう、長い溜息を吐いた。
「………………そうか、じゃあ、仕方ないね」
(ちょっと待って、何がどう仕方ないんだよ?)
私は、顔を引き攣らせて圭吾を見つめたが、圭吾の目は死んだ魚のように宙を彷徨っていた。
「茜、僕はさ、一般庶民の出だから、正直芸能人の感覚はまだ分からないけどさ…」
何やらぶつぶつ言い始めた圭吾。
いや、完全に芸能人に成り上がっちゃってるよね?
あんた…
「……奴ら、感覚が狂ってやがる、絶対、絶対おかしいんだよ!!」
そう言って、忌々し気に甘い甘いコーヒーを一気飲みする。
奴らってなに?
あんたには何が見えているんだ??
「け、圭吾?あんた、仕事し過ぎて、疲れてるんじゃない??」
(ついでに、変なところ行って、変なもの連れて帰ってるんじゃないだろうか…、二週間前の心霊企画か?)
そう心配しながらも提案した。
「ゆっくり出来るんなら、ごはん食べてく?久しぶりにあんたの好物一杯作ってあげるからさ?」
そう提案すると、琥珀色の瞳がぱぁぁと明るく輝いた。
「本当!?俺、オムライスが食べたい、あと、唐揚げと、イカリングと」
「はいはい、一緒にポテトも揚げようね」
「うん!」
「あっ、買い物行かなきゃ…、食材も無いし、お酒もビールしかない。あんた、カルピスチューハイがいいんでしょ?」
そう言って立ち上がった、私のシャツの後ろをむんずと掴む圭吾。
「なにっ??」
キラキラした琥珀色の瞳が私を捉えている。
「一緒に行く♡」
「……あんた、芸能人だよね?」
「でも、行く!!」
私は、深く溜息を吐いた。
―――三つ子の魂『百』までって言うもんね
買い物に行く姉ちゃんについて行ったらいい事があるかもしれない!
置いて行かれたら何か損するかもしれない!
そんな根性が働いたのだろう。
私は、諦めて圭吾の手を取って、起き上がらせて、自分の頭一つ分以上大きくなったアッシュグレーの頭に帽子をいつもより目深に被らせた。
「気付かれても知らないからね」
「うん、大丈夫!」
そうして、その日、私達はスーパーに買い物に行き、食材を沢山買い込んだ。
ついでに、圭吾はドーナツやらアイスクリームやらカシューナッツのチョコレートやらを沢山買い物籠に放り込んで、私達はアパートへと戻った。
昔と違うのは、支払いは圭吾がスマートに済ませてくれた事。
そして、重たくなった荷物はほとんど圭吾が持ってくれた事。
そして、二人の影の長さが反対になった事。
そして、カルピスではなく冷たいカルピス酎ハイが袋の中に沢山入ってる事。
その晩、久々に姉弟水入らずで食事を楽しんだ。
圭吾は調子に乗って、お酒(カルピスチューハイ)を飲み過ぎて、ダウンしてしまった。
よろよろとトイレから戻ってきた圭吾の正体がないのに苦笑した私は、そのまま、圭吾を寝室のベッドに寝かせた。
「今日、シーツ洗ったばっかだから、そこで寝な!」
「う~ん、茜は?」
ほどんどない意識でそう問いかけられて、苦笑する。
「私は、あっちで、客用布団でいいから」
「ん……」
そう言って、素直に眠る長い睫を見て、私は微笑んだ。
「圭吾ちゃんたら、相変わらず可愛いんだぁ♡」
「あっ、そうだ、洗濯物とりこまなきゃ」
そうして、楽しい夜は終了して、圭吾は次の日、手を振って帰っていった。
その日も、その日以降も泰叶からの連絡は無かった。きっと、凄く忙しいのだろう。
泰叶が撮影しているという、歴史フィクション映画は原作が凄く好評で、キャストを発表してからというもの、大きな期待を浴びていた。
最近では、予告編とか、雑誌インタビューとかも目にするようになった。
もう、どれくらい泰叶の声を聞いていないだろう。
雑誌の中で笑う泰叶はきっと、私が最後に見た泰叶より後の泰叶。
そんな事が寂しいと感じている自分がおかしかった。
以前は、テレビや雑誌で見る泰叶に夢中だったくせに。
「撮影、いつまでだっけ…」
今は、雑誌やテレビではなく、自分に話しかける泰叶の声が聴きたい。直接触れられる泰叶が欲しい。
そう思ってしまうくらいには、泰叶とべったり過ごした数週間は私を変えてしまったのだと思う。
泰叶の言葉を思い出す。
≪俺と同じくらい、茜も俺無しでいられないくらい完全な形で俺のものにしてあげるから≫
「あはっ、泰叶ちゃんの言うとおりになっちゃったかな…」
そう自嘲して、私は雑誌を握りしめた。
そして気分を変えようと、リモコンを手にとって、チャンネルを適当に変えたところで、私は固まった。そしてそのまま、座り込んでしまった。
テレビのワイドショー番組で泰叶の恋愛報道が大々的に取り上げられていたからだ。
『お相手は、烏丸揚羽さんと言うから驚きですよね~』
『えぇ、揚羽さんと言えば、お父様があの舞台俳優の烏丸恭二郎で、お兄さんが烏丸玲一郎、そして長女が烏丸揚羽さんで、今、撮影中で話題の映画、『斎藤道三の三つの秘宝』にも皆さん揃って出演されてますよね、その主演が織田信長役のTAIGAさんと言うことなので、これはもう家族公認のお付き合いということでしょうか?』
『TAIGAさんは、以前のドラマでも揚羽さんのお父様の恭二郎さんとは共演されていますからね。その時に、恭二郎さんは大層、TAIGAさんの演技を認めていたようですし、そのご縁もあっての事かもしれませんね』
『現在京都で、他の仕事NGで撮影を急いでいるという事ですから、その間に距離が縮まったと言う事でしょうか?深夜に度々二人で、台詞の読み合わせなどもされているようですし、二人で食事に行ったところも報道されていますね』
『インテリアショップや、建築事務所にも同行しているとか……』
『それってもう、結婚秒読みって事じゃないでしょうか?』
『驚きのビックカップルの登場ですね』
私は、まるで夢でも見ているように無機質な表情でそれを聞いていた。
「んっ、ふっ、たい、…が、あんっ、もう、無理、たいが、もっ…、む、り…だから…」
そう、泣きを入れる私にも構わずに、泰叶は腰を深く突き上げて、私の再奥を蹂躙する。
部屋の中には淫靡な水音と、肉を打つ音がこだまする。
「っ…泰叶、無理、もう本当に限界だからぁぁ!!」奥を大きなモノで何度も何度も穿たれた私は、涙目で泰叶に懇願する。
「うん、あかね、いいよ、何度でもイって?一緒にイこ?俺を感じて?」
「たっ、たいが……」
「あかね、愛してるっ…、あかねっ、あかねっ、あかね~!」
熱の籠った瞳で私を見つめて、優しい指先で私の頭をヨシヨシと撫で撫でながらも、下半身は強い突き上げを容赦なく続ける泰叶。
それはまるで飴と鞭のようだった。
「あっ、あぁぁ、たい、が、ダメ…、もう、ダメだからぁぁ!!!」
込み上げる恐怖に似た快楽が弾けて視界が明滅する。
「っ、あかねっ、あかねっ……っ、持ってかれる」
そう、私をギュッと抱きしめて、泰叶は腰の動きを速める。その動きが、徐々に射精をする為の動きに変わり、泰叶は小さく呻いた。
やがて、激しかった動きは、名残を惜しむような緩やかな振動に変わる。それと共にゴム越しに泰叶の熱を感じた私は、おそらく暫くの間、意識を手放していたのだろう。もう心身ともに限界だった。
「あかね、聞こえる?…すごく、良かったよ、可愛い、はぁっ、…あかね?」
そう言って、瞳孔の開いた黒い瞳を潤ませて、私を覗き込み、労うように私の唇を塞ぐ泰叶。
(もう、無理、無理なんだよ?泰叶)
言葉も出せない私は、未だ、小さくピクンピクンと痙攣する身体の熱を逃すのが精一杯で、脱力したままそれを受け入れる。
「あかね、…大丈夫?ごめんね、無理させた?」
(……無理は、とっくに通り越してるよ?泰叶……、なんで、あんたそんなに絶倫なの?)
答えのない私に不満なのか、泰叶は、私の瞳を焦ったそうに覗き込みながらも、私の汗ばんだ胸をフニフニと揉みしだきながら、再び、腫れあがった私の唇を、自分の舌でそっと濡らす。
そして、その唇が不埒にもまた、散々貪られて腫れて赤くなっている私の胸の頂に触れる。
「……たいが、むり、もう、さすがに、もう無理だから、ね、ねかせて?お願い?明日、ううん、今日も仕事あるから、泰叶も、仕事でしょ?寝なきゃ…」
「……仕事やだ、行きたくない、茜とずっとこうしてたい」
「もうっ、また、そんな事ばっかり言わない!」
時刻は既に明け方だった。
昨夜、撮影が押して、深夜訪れた泰叶を眠らずに待っていたのだが、泰叶は用意していた食事もとらずに、私を組み敷いて今に至る。
「あかね?あかねは、俺と離れている間、寂しくなかったの?俺は、凄ーく寂しかったよ?あかねの事、触りたくて、あかねの事、抱きしめたくて、あかねに、俺の事見て欲しかった。もちろん画面越しじゃない俺だよ、あかねは違うの?」
「ち…、違わないよっ、だけどね……」
気持ちは違わなくても、泰叶と私の体力が違い過ぎる事は、この数日で立証されているのだ。
「ねぇ、茜、やっぱり結婚しよう?すぐしよう?俺のマンションに引っ越してきて??」
もう何度聞いたか分からないその言葉に、私は、困った顔で、微笑むしかない。
そうして、泰叶の言葉をできるだけ否定しない形で受け流す。
ここの返しに失敗したら、一気に泰叶をベイダーモードに変えてしまう恐れがあるからだ。
そう、あの国民的アニメのウサギの形をしたキャラクターと同じ危うさを泰叶は持っているのだ。
泰叶の瞳から逃れるように泰叶の首に手を回して、そのサラサラの髪の間に手を入れる。
そして頭を撫でながらできるだけ優しく言う。
「……まだ、早いよ、それに、世の中の泰叶ファンを敵に回したら、私は生きていけないよ?」
「大丈夫だよ、茜、俺が守るから!絶対に幸せにする」
「……そうだね」
そう言いながら思う。
泰叶の気持ちは本物だろう。
でも私たちは、決して二人だけでは生きていけない。
泰叶は今、乗りに乗っている大切な時期だ。
それだけに、また以前のように、いや、以前どころではない迷惑をかけてしまう事になるかもしれない。それは避けたい。
そして、泰叶の恋人として報道されるとしたら、私は間違いなく今の生活をすることは叶わなくなるだろう。会社にまで迷惑はかけられないのだ。
泰叶と気持ちを通じる事と、二人が社会でどうやって生きていくかは、また別の問題なのだ。
これはしっかり、慎重に考えていかなければならない。
私は、泰叶の髪の毛を掻き分けながら気付かれないように溜息を吐いた。
そうすると泰叶の携帯が着信を告げた。
泰叶は一瞬嫌な顔をして、私の唇に触れるだけの口付けをして、その着信を不機嫌そうにとった。
「……大丈夫です。30分後には出れますから、はい」
死んだ魚のような目でそう答えた泰叶は、私に再び抱きついてきた、そしてお腹に頭を擦りつける。
「待谷さん?」
待谷さんとは泰叶のマネージャーさんだ。
「あ~、もうっ、本当に行きたくない!茜、ギュっとして!!」
そう言って、強く私を抱きしめる泰叶に呆れる。
「ちょ、泰叶、もしかして今からまた仕事なの?そんな事、言ってなかったから…」
時刻は朝の5時だ。
まさか私よりも早く仕事に出発するとは思っていなかった私は慌てる。
だって、それでは泰叶は一睡もせずに仕事に向かうことになる。
「だって、言ったら茜、絶対相手してくれなかったよね?そんなの嫌だ。…大丈夫、ロケバスで寝るから」
その言葉に私は頭を抱えた。
「……泰叶、ダメだよ、そんなんじゃ身体壊しちゃうから」
「大丈夫、茜に触れない方が、絶対体にもメンタルにも悪いから」
その言葉に呆れるしかない。
泰叶はあの思いが通じ合った日から、ずっとこの調子だ。
このままではいつスクープされるかも気が気じゃないし、絶対にお互い身体が持たなくなる。
だけど、この調子の泰叶にさすがに来るなとも言えないでいる。
「…茜、今日も来るから、遅くなるかもしれないけど、眠っててもいいから、ここで待ってて、俺、夜はやっぱり茜の横で眠りたい、この部屋がいい」
「は、ははっ…」
(絶対、大人しく寝るだけじゃないよね…)
私は、引き攣りながら、前途多難な未来を思う。
絶対、こんな不摂生な生活は続かないよね?
だけど、そんな風な生活が二週間くらい続いたある日から、泰叶はパッタリと家に来なくなったのだ。最後に来た時に泰叶は言った。それは凄くいい顔だったと思う。
「茜、時代映画の主演が決まったんだ!俺、これにかけてみようと思うんだ。シナリオ量に対して撮影期間がすごく短くてさ、ほぼ県外での詰め込み撮影になりそうだから、当分会えないけど、俺、頑張るから!!だから、茜、待っていてね!!」
「そ、そうなんだ…」
正直、仕事に前向きな泰叶は久しぶりで戸惑った。
「うん、俺、もうさ、一刻も早く帰ってこれるように朝から、晩まで仕事しまくるから!!」
「う、うん、頑張って」
「……だからさ、茜」
「うん?」
「今日は、思う存分付き合って」
「え……?」
そう、凄く思いつめた顔をした奴は、その後、夜が明けるまでに、6回致して、ボロボロの私に口付けて颯爽と去っていったのだ。
それからは、嘘みたいに以前のような生活に戻った。
相変わらず泰叶と圭吾のテレビ番組を見て、いや、泰叶に邪魔されて見れなかった分、たまりにたまっていた分もみて、すっかり私は、会社とテレビの人となっていた。
そうして以前と同じように、毎日かかってくる泰叶からの電話で近況を報告し合う日々が続いた。
だけど、その電話が減り、日によってはメッセージだけになり、それすらも段々と回数が減っていくのだ。
不安になった私は、こちらから電話しようと思ったが、向こうの状況が分からないので躊躇って結局は連絡出来ないままでいた。
久しぶりの一人だけの土日を過ごす。
一人分に戻ってしまった洗濯物を干して、なぜか溜息を吐いた。
「…泰叶、どうしてるんだろう?」
モヤモヤする気持ちに気付いた私は、眉を寄せた。
こんなにも気持ちが落ちている自分に小さく呆れる。
それが何故か、流石に気付いてしまったから。
―――そうだね、恋って、温かいだけじゃなかったね
そんなとき、携帯が着信を告げた。
私は、ハッとして振り返って、小走りにそれを手に取る。
そして、表示された名前を見て、明らかに落胆した。
本当に酷い姉だ。
「……圭吾、どうしたの?」
「あ~、うん……」
圭吾の声も心なしか暗い。
「いや、ちょっとさ、聞いておきたい事があって、一度ちゃんと会って話しときたいと思ってさ…」
そう言われた私は、少しだけ察した。
きっと、泰叶との事を耳にしたのだろう。
「あ~、うん、いいよ?行こうか?仕事いつ終わる?」
そう言う私の言葉を圭吾は遮った。
「……いやっ、近くまで来てるんだ、今から行っていい?」
「えっ、うん、まぁ、いいけど?」
そうして、待つこと、数十分後に圭吾は自宅に訪れた。
玄関ドアを開けたら、圭吾は警戒するように四方八方を見回して、ドアに身を滑り込ませた。
(うん、…すっかり芸能人だね)
「茜、急に、ごめんね?」
「いいよ、それでどうしたの?」
私は、圭吾にお砂糖たっぷり三杯入りのコーヒーを差し出して、その上から、牛乳を注ぐ。
「ありがとう」
それを当然のように受け取った弟は、それに口をつけて一瞬幸せそうな顔をしたものの、再び表情を引き締めた。
少し気まずい沈黙が流れる。
(うん、分かる、分かるよ、圭吾、これは言い出しづらいよね?)
でも、こちらから言い出すのはもっと気まずいので、やはりその役目は圭吾に担ってもらう事にした。
「…その、茜と泰叶の事なんだけどさ」
(で・す・よ・ねえ~!)
「大丈夫なのかなって?変な事されてない??無理な事とか」
『毎日、それはもう滅茶苦茶、無理させられてました』
なんて言えない私は、目を逸らして俯いた。
「……男女の関係になったのは、うん、時間の問題だったから、仕方ないと思う」
「……時間の問題?」
「うん、正直、今までよく、もったと思う」
「もった?」
「泰叶が茜の事、狙ってたのは、ずっと前から知ってたから」
「へ…? ずっと前って?」
「ずっと前って言ったら、ず~っと前だよ!!!」
その言葉に私は目を見開く。
「茜も、なんだかんだ泰叶が可愛くて仕方が無いって感じだったから、それはもういいかなって、仕方ないかなって思ってたけど、あいつちょっとヤバいじゃん?」
「ま、まぁ、うん、そうかもね……」
「…正直、外堀埋められすぎみたいだから、最後に確認しておきたくて」
「……うん、…ん?」
「茜も、姉さんも、泰叶が好きって事でいいんだよね?」
(それ、聞く? しかも、そんなに真顔で?)
恥ずかしいじゃん…
どういう顔をしていいのか分からなくて、躊躇する私に、可愛い弟は、琥珀色の瞳で詰め寄った。
「本当に、いいんだね?今なら、まだ、連れて逃げてあげられるよ??」
「え………」
(私って、何かに、追われてたっけ?)
「……泰叶の事、好きなんだよね?大丈夫なんだよね??」
いつもは人好きのするその顔が、今日だけはいつになく、恐ろしくて、私は羞恥を捨てて答えた。
「はい、好きです、大丈夫です!」
そう答えると、圭吾は、それはそれはもう、長い溜息を吐いた。
「………………そうか、じゃあ、仕方ないね」
(ちょっと待って、何がどう仕方ないんだよ?)
私は、顔を引き攣らせて圭吾を見つめたが、圭吾の目は死んだ魚のように宙を彷徨っていた。
「茜、僕はさ、一般庶民の出だから、正直芸能人の感覚はまだ分からないけどさ…」
何やらぶつぶつ言い始めた圭吾。
いや、完全に芸能人に成り上がっちゃってるよね?
あんた…
「……奴ら、感覚が狂ってやがる、絶対、絶対おかしいんだよ!!」
そう言って、忌々し気に甘い甘いコーヒーを一気飲みする。
奴らってなに?
あんたには何が見えているんだ??
「け、圭吾?あんた、仕事し過ぎて、疲れてるんじゃない??」
(ついでに、変なところ行って、変なもの連れて帰ってるんじゃないだろうか…、二週間前の心霊企画か?)
そう心配しながらも提案した。
「ゆっくり出来るんなら、ごはん食べてく?久しぶりにあんたの好物一杯作ってあげるからさ?」
そう提案すると、琥珀色の瞳がぱぁぁと明るく輝いた。
「本当!?俺、オムライスが食べたい、あと、唐揚げと、イカリングと」
「はいはい、一緒にポテトも揚げようね」
「うん!」
「あっ、買い物行かなきゃ…、食材も無いし、お酒もビールしかない。あんた、カルピスチューハイがいいんでしょ?」
そう言って立ち上がった、私のシャツの後ろをむんずと掴む圭吾。
「なにっ??」
キラキラした琥珀色の瞳が私を捉えている。
「一緒に行く♡」
「……あんた、芸能人だよね?」
「でも、行く!!」
私は、深く溜息を吐いた。
―――三つ子の魂『百』までって言うもんね
買い物に行く姉ちゃんについて行ったらいい事があるかもしれない!
置いて行かれたら何か損するかもしれない!
そんな根性が働いたのだろう。
私は、諦めて圭吾の手を取って、起き上がらせて、自分の頭一つ分以上大きくなったアッシュグレーの頭に帽子をいつもより目深に被らせた。
「気付かれても知らないからね」
「うん、大丈夫!」
そうして、その日、私達はスーパーに買い物に行き、食材を沢山買い込んだ。
ついでに、圭吾はドーナツやらアイスクリームやらカシューナッツのチョコレートやらを沢山買い物籠に放り込んで、私達はアパートへと戻った。
昔と違うのは、支払いは圭吾がスマートに済ませてくれた事。
そして、重たくなった荷物はほとんど圭吾が持ってくれた事。
そして、二人の影の長さが反対になった事。
そして、カルピスではなく冷たいカルピス酎ハイが袋の中に沢山入ってる事。
その晩、久々に姉弟水入らずで食事を楽しんだ。
圭吾は調子に乗って、お酒(カルピスチューハイ)を飲み過ぎて、ダウンしてしまった。
よろよろとトイレから戻ってきた圭吾の正体がないのに苦笑した私は、そのまま、圭吾を寝室のベッドに寝かせた。
「今日、シーツ洗ったばっかだから、そこで寝な!」
「う~ん、茜は?」
ほどんどない意識でそう問いかけられて、苦笑する。
「私は、あっちで、客用布団でいいから」
「ん……」
そう言って、素直に眠る長い睫を見て、私は微笑んだ。
「圭吾ちゃんたら、相変わらず可愛いんだぁ♡」
「あっ、そうだ、洗濯物とりこまなきゃ」
そうして、楽しい夜は終了して、圭吾は次の日、手を振って帰っていった。
その日も、その日以降も泰叶からの連絡は無かった。きっと、凄く忙しいのだろう。
泰叶が撮影しているという、歴史フィクション映画は原作が凄く好評で、キャストを発表してからというもの、大きな期待を浴びていた。
最近では、予告編とか、雑誌インタビューとかも目にするようになった。
もう、どれくらい泰叶の声を聞いていないだろう。
雑誌の中で笑う泰叶はきっと、私が最後に見た泰叶より後の泰叶。
そんな事が寂しいと感じている自分がおかしかった。
以前は、テレビや雑誌で見る泰叶に夢中だったくせに。
「撮影、いつまでだっけ…」
今は、雑誌やテレビではなく、自分に話しかける泰叶の声が聴きたい。直接触れられる泰叶が欲しい。
そう思ってしまうくらいには、泰叶とべったり過ごした数週間は私を変えてしまったのだと思う。
泰叶の言葉を思い出す。
≪俺と同じくらい、茜も俺無しでいられないくらい完全な形で俺のものにしてあげるから≫
「あはっ、泰叶ちゃんの言うとおりになっちゃったかな…」
そう自嘲して、私は雑誌を握りしめた。
そして気分を変えようと、リモコンを手にとって、チャンネルを適当に変えたところで、私は固まった。そしてそのまま、座り込んでしまった。
テレビのワイドショー番組で泰叶の恋愛報道が大々的に取り上げられていたからだ。
『お相手は、烏丸揚羽さんと言うから驚きですよね~』
『えぇ、揚羽さんと言えば、お父様があの舞台俳優の烏丸恭二郎で、お兄さんが烏丸玲一郎、そして長女が烏丸揚羽さんで、今、撮影中で話題の映画、『斎藤道三の三つの秘宝』にも皆さん揃って出演されてますよね、その主演が織田信長役のTAIGAさんと言うことなので、これはもう家族公認のお付き合いということでしょうか?』
『TAIGAさんは、以前のドラマでも揚羽さんのお父様の恭二郎さんとは共演されていますからね。その時に、恭二郎さんは大層、TAIGAさんの演技を認めていたようですし、そのご縁もあっての事かもしれませんね』
『現在京都で、他の仕事NGで撮影を急いでいるという事ですから、その間に距離が縮まったと言う事でしょうか?深夜に度々二人で、台詞の読み合わせなどもされているようですし、二人で食事に行ったところも報道されていますね』
『インテリアショップや、建築事務所にも同行しているとか……』
『それってもう、結婚秒読みって事じゃないでしょうか?』
『驚きのビックカップルの登場ですね』
私は、まるで夢でも見ているように無機質な表情でそれを聞いていた。
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