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二章《教育編》〜波乱の夏休み〜 前編
夏の始まりはカフェから
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夏の日差しが照りつける夏休み初日、桃は小さなボストンバッグを手に実家から少し離れた赤レンガが特徴的なお洒落なカフェの前にて電柱を壁にしながら店内の様子を覗いていた。
「会長、準備はいいですか?」
『ああ、大丈夫だ』
「分かっているとは思いますけど、くれぐれも暴走し過ぎは駄目ですよ」
『わ、分かってる』
店内で一人緊張しながら座る生徒会長こと鳳梨 グアバを見ながら、改良版の金色のダイヤ型ピアスの無線機から聞こえるグアバの声に不安が募る。
はぁ…始まる前から不安しかない。けど、この改良版の無線機前より音も良いし何より人に合わせて使えるのが助かるな
夏休み前日に桜桃 小豆から入手した改良版の無線機の出来の良さに感心しつつ、入手する際に交わしたやり取りを思い返す。
『やっと出来たわ!前の物と比べて改良版は音の性能も格段に良くなってるわ。何より、前の物は黒いピアス型しか無かったけど改良版はピアスだけじゃなくてイヤーカフやイヤリングも作ったの。色やデザインも様々よ』
自信気にキラキラと茶色の瞳を輝かせる小豆を前に、机の上に置かれた様々な色のデザインのピアスやイヤーカフ・イヤリングに驚きの声を上げる。
『凄い…!期待以上です』
『ふふん、前の物も耳に穴が空いてなくても使えるシールのピアスとかもあったけどデザインも種類も一つしか無いし全然可愛くもなかったから気にしてたのよ』
攻略対象者で耳に穴を空けているのは鳳梨 グアバと木通 檸檬だけでその他のメンバーは私も含め空けてない為シールのピアスだけでも非常に助かるのに更に、色やデザイン・種類さえも増やしてくれるなんて有難い以外の言葉は無い
『本当に助かります。是非、使わせて頂きます』
笑みを浮かべ机の上に置かれた無線機に手を伸ばそうとした瞬間、それを止めるかのように小豆が口を開いた。
『それ、夏休みに使うのでしょ?一体、誰に使うの?』
『それは‥』
『それは秘密ですって言うのよね?分かってるわ。だけど、使用した後の感想ぐらいは聞かせてよね?』
『そのくらいの事ならいくらでも』
『ふふ、楽しみに待ってるわ』
そう言うと、小豆は楽しそうに笑った。
だけど、まさか昨日の今日で使う事になるとは思わなかったけど…
未だにターゲットが来ないカフェ店内で一人待つグアバに呆れた視線を向ける。
夏休みにカフェという組み合わせはまさに乙女ゲームのイベントそのものだった。それは、夏休みが入る前から待ち構えていた事ではあったがまさか夏休み初日だとは誰が予想出来ただろうか?
しかも、このカフェのイベントは攻略対象者全員に必ず起こるイベントだから鳳梨 グアバだけじゃないって分かってはいたけど…何で、同じ日に二人もイベントが起こるんだよ!?
昨夜、グアバのメール後に送られて来たもう一人の攻略対象者のメールを思い出し手にしている携帯を投げ飛ばしたい衝動に駆られたが息を吐き心を落ち着かせる。
「はぁー…今は、目先の事だけを考えよう。愚痴は後だ」
自分自身に言い聞かせるように呟くと、ずっと待っていたターゲットであるヒロインこと星七 苺が店内に入って行くのが見えた。
『グアちゃん、ごめんね!準備に手間取っちゃって…っ』
胸元の黒いリボンが特徴的な白のフリルブラウスに花柄のレースで象った黒いミニスカートに革の黒いポシェットと黒のサンダルで現れたヒロインは顔の前で手を合わせて謝るとグアバの前に着席した。
ゲームをしていた時も思ったけど、ヒロインの服装はいつも可愛いなぁ…まぁ、攻略対象者達も引けを取らない格好良い服装なんだけど…
ヒロインと対面するグアバの黒の靴にジーパンやジャケット、中に着ている白いシャツ姿に視線を移す。
うむ、ゲームで見た時と同様のかっこ良さだな…見た目だけは
「そうだな、俺様を待たせるとはいい度胸だ」
前回使っていた無線機と同様に金色のダイヤ型ピアスを数回叩き呟くと、それに連動する様にグアバの声が聞こえた。
『そうだな、俺様を待たせるとはいい度胸だ』
『もう、分かったわ。待たせたお詫びに何かするから許して?例えば、ここの会計を私が払うとか‥』
「そんな詫びよりも、もっと別の詫びなら許してやるかもな」
『そんな詫びよりも、もっと別の詫びなら許してやるかもな』
『別のって…』
目を伏せた苺の顎をグアバの長くて綺麗な指先が触れ視線が交差する。
「そうだな、例えば…俺の視線の先にあるものとかな…?」
『そうだな、例えば…俺の視線の先にあるものとかな…?』
『っ…、グアちゃんの馬鹿…っ』
顔を赤らめる苺にグアバは可笑しそうに笑みを浮かべた。
「ふっ…その顔は誰も居ない所で存分に見たいものだな」
『ふっ…その顔は誰も居ない所で存分に見たいものだな』
グアバは苺から手を離すと、横に置かれているメニュー表を手に取り開く。
『もうっ!こんな人目のある所でからかうのは止めてよね!』
「何で、止めて欲しいんだ?」
『何で、止めて欲しいんだ?』
『それは…困るから‥っ』
「ふっ…そうか」
『ふっ…そうか』
顔を背け口篭る苺に対し、グアバは満足気な表情を浮かべた。
デレデレな顔よりはマシか
外の電柱の影からカフェ店内に居る二人の微笑ましい姿に内心安堵しながらもグアバの声に耳を澄ます。
『俺は、ザッハトルテとアメリカンコーヒーを頼む』
『私は、苺のショートケーキとストロベリーシェイクをお願いします』
『ザッハトルテとアメリカンコーヒー、苺のショートケーキとストロベリーシェイクですね?』
『”ああ(はい)”』
『かしこまりました。少々、お待ち下さい』
店員さんが去って行くのを見送るとメニュー表を閉じグアバと苺は再度顔を見合わせた。
『朝から誘っちゃてごめんね?夏のコンテストに出すデザインが終盤に入ってて忙しくて…』
さらりと嘘をついたな、ヒロイン
グアバの後にもう一人の攻略対象者とのイベントを控えている事実を知る桃は苺の言動に眉を寄せる。
「朝は嫌いだ」
『朝は嫌いだ』
『っ…だから、謝ってるじゃない』
「だが、お前との朝は悪くはないな」
『だが、お前との朝は悪くはないな』
『っ…、私も‥』
『お待たせしました。ザッハトルテとアメリカンコーヒーのお客様?』
『ああ、俺だ』
カタッ…
『…苺のショートケーキとストロベリーシェイクでございます』
カタッ…
『ありがとうございます』
『以上で、ご注文の品はお揃いでしょうか?』
『”ああ(はい)”』
『では、ごゆっくり…』
タイミング悪く現れた店員はお辞儀をするとその場から去って行った。
だけど、これもゲーム通り。ヒロインも落ちかけてるし、あともう一押しかな
『わぁ!美味しそう!頂きまーす!』
苺のショートケーキを口に頬張る苺の姿を見ながらグアバも目の前のザッハトルテに手をつける。
「相変わらず、苺のショートケーキが好きだとはまるで子供の様だな」
『相変わらず、苺のショートケーキが好きだとはまるで子供の様だな』
『むぅ…グアちゃんが期末の間頑張ってたって聞いたから少しあげようと思ってたのに、そんな事を言う人にはもうあげないから…っ』
「そうか…じゃあ、こっちを貰ってやるとするか…‥」
『そうか…じゃあ、こっちを貰ってやるとするか…‥』
『っ…』
苺のショートケーキごとお皿を手に持ち頬を膨らませる苺に対し、グアバは手を伸ばすと唇についたクリームをそっと指先で取りそのまま口に含み舌先で舐めた。
「…甘いな」
『…甘いな』
『っ…、朝のグアちゃん何か意地悪で困るよ…っ』
真っ赤に染まった頬を両手で隠す様に覆う苺に対しグアバは不敵な笑みを浮かべた。
「朝の俺は嫌いと言う事か?」
『朝の俺は嫌いと言う事か?』
すると、苺は小さく首を横に振り口を開いた。
『ううん…‥嫌いじゃない』
よし、落ちた
真っ赤になりながら瞳を潤ませ呟く苺の行動に桃は内心ガッツポーズを決めた。
ゲームでのイベントの内容はこれで終了だから後は任せて大丈夫だろう
ヘタレな弱虫姿を一切見せず堂々とした態度で暴君オーラを維持するグアバを外から見つめ自然と笑みが零れる。
「後は、ご自由にどうぞ。念の為、終わるまで外で見守ってますからご心配なく」
無線機を通してグアバにそう言い残すと、二人がカフェから出て行くまで外の電柱の影から見守ったのだった。
*
「暑い…時間が経つにつれて暑さが増してる気がする…」
昼が近くなるにつれて日差しが増す空を睨みつけながら桃は小さなボストンバッグを手にしたまま先程まで居たカフェの周辺を歩いていた。
「あの後の会話って夏休みの間にある花火大会の内容だったよね?あの口ぶりだと一緒に行くのはグアバだけじゃないって事になるけど…」
無線機でグアバに告げた後、苺はグアバに夏休みの間で行われる神社で開かれる花火大会について話し始めた。その内容は、グアバと二人で行くという内容ではなく”皆で”という単語が度々出ていた為ヒロインが一人限定でイベントを起こす事は無いと予測出来た。
「そうなると、ヒロインは花火大会のイベントを逆ハーレム攻略でいくって事になるんだけど…」
ふと、グアバの後に来るもう一人の攻略対象者の顔が頭に浮かびポケットに入れていた携帯を取り出す。
「後で、聞いてみるか」
まだ連絡が一切無い事を確認し携帯をポケットに戻すと右手首に着けていた腕時計を見る。
「今はとりあえず、次のカフェイベントがある時間までどう暇を潰すかなんだよね。んー、どうしよう?今から家に帰るとしたら時間が掛かるから駄目だし…」
「…あー!?居た!桃…っ!」
ん?
突然、聞こえた自身の名前を叫ぶ声に振り返ると全速力で此方に向かって走って来る金髪ロングに淡いピンクを基調とした花柄のワンピースにデニムのジャケットを羽織り白いサンダルを履いた小柄な少女の姿に目を丸くする。
誰?
「やっと見つけた!桃」
パシッ
「えっ、ちょっと待っ‥」
目の前まで来るなり腕を引きそのまま走り出す少女に何が何だか分からずにいると、ふと背後から複数の足音と叫び声が耳に届いた。
「待ってよー!一緒にご飯でもどうかなー?」
「何を言っているんだ!?あの子とご飯を食べるのは俺だ!」
「お前より俺の方があの子に合ってるんだよ!お前には不釣り合いだ!」
「ふざけんなっ!?俺の方がお似合いだっつーの!」
何あれ…?
背後でいがみ合う複数の男性達の姿に首を傾げると、その元凶である腕を引き走る目の前の少女に再度視線を向ける。
この子、何者…?
「会長、準備はいいですか?」
『ああ、大丈夫だ』
「分かっているとは思いますけど、くれぐれも暴走し過ぎは駄目ですよ」
『わ、分かってる』
店内で一人緊張しながら座る生徒会長こと鳳梨 グアバを見ながら、改良版の金色のダイヤ型ピアスの無線機から聞こえるグアバの声に不安が募る。
はぁ…始まる前から不安しかない。けど、この改良版の無線機前より音も良いし何より人に合わせて使えるのが助かるな
夏休み前日に桜桃 小豆から入手した改良版の無線機の出来の良さに感心しつつ、入手する際に交わしたやり取りを思い返す。
『やっと出来たわ!前の物と比べて改良版は音の性能も格段に良くなってるわ。何より、前の物は黒いピアス型しか無かったけど改良版はピアスだけじゃなくてイヤーカフやイヤリングも作ったの。色やデザインも様々よ』
自信気にキラキラと茶色の瞳を輝かせる小豆を前に、机の上に置かれた様々な色のデザインのピアスやイヤーカフ・イヤリングに驚きの声を上げる。
『凄い…!期待以上です』
『ふふん、前の物も耳に穴が空いてなくても使えるシールのピアスとかもあったけどデザインも種類も一つしか無いし全然可愛くもなかったから気にしてたのよ』
攻略対象者で耳に穴を空けているのは鳳梨 グアバと木通 檸檬だけでその他のメンバーは私も含め空けてない為シールのピアスだけでも非常に助かるのに更に、色やデザイン・種類さえも増やしてくれるなんて有難い以外の言葉は無い
『本当に助かります。是非、使わせて頂きます』
笑みを浮かべ机の上に置かれた無線機に手を伸ばそうとした瞬間、それを止めるかのように小豆が口を開いた。
『それ、夏休みに使うのでしょ?一体、誰に使うの?』
『それは‥』
『それは秘密ですって言うのよね?分かってるわ。だけど、使用した後の感想ぐらいは聞かせてよね?』
『そのくらいの事ならいくらでも』
『ふふ、楽しみに待ってるわ』
そう言うと、小豆は楽しそうに笑った。
だけど、まさか昨日の今日で使う事になるとは思わなかったけど…
未だにターゲットが来ないカフェ店内で一人待つグアバに呆れた視線を向ける。
夏休みにカフェという組み合わせはまさに乙女ゲームのイベントそのものだった。それは、夏休みが入る前から待ち構えていた事ではあったがまさか夏休み初日だとは誰が予想出来ただろうか?
しかも、このカフェのイベントは攻略対象者全員に必ず起こるイベントだから鳳梨 グアバだけじゃないって分かってはいたけど…何で、同じ日に二人もイベントが起こるんだよ!?
昨夜、グアバのメール後に送られて来たもう一人の攻略対象者のメールを思い出し手にしている携帯を投げ飛ばしたい衝動に駆られたが息を吐き心を落ち着かせる。
「はぁー…今は、目先の事だけを考えよう。愚痴は後だ」
自分自身に言い聞かせるように呟くと、ずっと待っていたターゲットであるヒロインこと星七 苺が店内に入って行くのが見えた。
『グアちゃん、ごめんね!準備に手間取っちゃって…っ』
胸元の黒いリボンが特徴的な白のフリルブラウスに花柄のレースで象った黒いミニスカートに革の黒いポシェットと黒のサンダルで現れたヒロインは顔の前で手を合わせて謝るとグアバの前に着席した。
ゲームをしていた時も思ったけど、ヒロインの服装はいつも可愛いなぁ…まぁ、攻略対象者達も引けを取らない格好良い服装なんだけど…
ヒロインと対面するグアバの黒の靴にジーパンやジャケット、中に着ている白いシャツ姿に視線を移す。
うむ、ゲームで見た時と同様のかっこ良さだな…見た目だけは
「そうだな、俺様を待たせるとはいい度胸だ」
前回使っていた無線機と同様に金色のダイヤ型ピアスを数回叩き呟くと、それに連動する様にグアバの声が聞こえた。
『そうだな、俺様を待たせるとはいい度胸だ』
『もう、分かったわ。待たせたお詫びに何かするから許して?例えば、ここの会計を私が払うとか‥』
「そんな詫びよりも、もっと別の詫びなら許してやるかもな」
『そんな詫びよりも、もっと別の詫びなら許してやるかもな』
『別のって…』
目を伏せた苺の顎をグアバの長くて綺麗な指先が触れ視線が交差する。
「そうだな、例えば…俺の視線の先にあるものとかな…?」
『そうだな、例えば…俺の視線の先にあるものとかな…?』
『っ…、グアちゃんの馬鹿…っ』
顔を赤らめる苺にグアバは可笑しそうに笑みを浮かべた。
「ふっ…その顔は誰も居ない所で存分に見たいものだな」
『ふっ…その顔は誰も居ない所で存分に見たいものだな』
グアバは苺から手を離すと、横に置かれているメニュー表を手に取り開く。
『もうっ!こんな人目のある所でからかうのは止めてよね!』
「何で、止めて欲しいんだ?」
『何で、止めて欲しいんだ?』
『それは…困るから‥っ』
「ふっ…そうか」
『ふっ…そうか』
顔を背け口篭る苺に対し、グアバは満足気な表情を浮かべた。
デレデレな顔よりはマシか
外の電柱の影からカフェ店内に居る二人の微笑ましい姿に内心安堵しながらもグアバの声に耳を澄ます。
『俺は、ザッハトルテとアメリカンコーヒーを頼む』
『私は、苺のショートケーキとストロベリーシェイクをお願いします』
『ザッハトルテとアメリカンコーヒー、苺のショートケーキとストロベリーシェイクですね?』
『”ああ(はい)”』
『かしこまりました。少々、お待ち下さい』
店員さんが去って行くのを見送るとメニュー表を閉じグアバと苺は再度顔を見合わせた。
『朝から誘っちゃてごめんね?夏のコンテストに出すデザインが終盤に入ってて忙しくて…』
さらりと嘘をついたな、ヒロイン
グアバの後にもう一人の攻略対象者とのイベントを控えている事実を知る桃は苺の言動に眉を寄せる。
「朝は嫌いだ」
『朝は嫌いだ』
『っ…だから、謝ってるじゃない』
「だが、お前との朝は悪くはないな」
『だが、お前との朝は悪くはないな』
『っ…、私も‥』
『お待たせしました。ザッハトルテとアメリカンコーヒーのお客様?』
『ああ、俺だ』
カタッ…
『…苺のショートケーキとストロベリーシェイクでございます』
カタッ…
『ありがとうございます』
『以上で、ご注文の品はお揃いでしょうか?』
『”ああ(はい)”』
『では、ごゆっくり…』
タイミング悪く現れた店員はお辞儀をするとその場から去って行った。
だけど、これもゲーム通り。ヒロインも落ちかけてるし、あともう一押しかな
『わぁ!美味しそう!頂きまーす!』
苺のショートケーキを口に頬張る苺の姿を見ながらグアバも目の前のザッハトルテに手をつける。
「相変わらず、苺のショートケーキが好きだとはまるで子供の様だな」
『相変わらず、苺のショートケーキが好きだとはまるで子供の様だな』
『むぅ…グアちゃんが期末の間頑張ってたって聞いたから少しあげようと思ってたのに、そんな事を言う人にはもうあげないから…っ』
「そうか…じゃあ、こっちを貰ってやるとするか…‥」
『そうか…じゃあ、こっちを貰ってやるとするか…‥』
『っ…』
苺のショートケーキごとお皿を手に持ち頬を膨らませる苺に対し、グアバは手を伸ばすと唇についたクリームをそっと指先で取りそのまま口に含み舌先で舐めた。
「…甘いな」
『…甘いな』
『っ…、朝のグアちゃん何か意地悪で困るよ…っ』
真っ赤に染まった頬を両手で隠す様に覆う苺に対しグアバは不敵な笑みを浮かべた。
「朝の俺は嫌いと言う事か?」
『朝の俺は嫌いと言う事か?』
すると、苺は小さく首を横に振り口を開いた。
『ううん…‥嫌いじゃない』
よし、落ちた
真っ赤になりながら瞳を潤ませ呟く苺の行動に桃は内心ガッツポーズを決めた。
ゲームでのイベントの内容はこれで終了だから後は任せて大丈夫だろう
ヘタレな弱虫姿を一切見せず堂々とした態度で暴君オーラを維持するグアバを外から見つめ自然と笑みが零れる。
「後は、ご自由にどうぞ。念の為、終わるまで外で見守ってますからご心配なく」
無線機を通してグアバにそう言い残すと、二人がカフェから出て行くまで外の電柱の影から見守ったのだった。
*
「暑い…時間が経つにつれて暑さが増してる気がする…」
昼が近くなるにつれて日差しが増す空を睨みつけながら桃は小さなボストンバッグを手にしたまま先程まで居たカフェの周辺を歩いていた。
「あの後の会話って夏休みの間にある花火大会の内容だったよね?あの口ぶりだと一緒に行くのはグアバだけじゃないって事になるけど…」
無線機でグアバに告げた後、苺はグアバに夏休みの間で行われる神社で開かれる花火大会について話し始めた。その内容は、グアバと二人で行くという内容ではなく”皆で”という単語が度々出ていた為ヒロインが一人限定でイベントを起こす事は無いと予測出来た。
「そうなると、ヒロインは花火大会のイベントを逆ハーレム攻略でいくって事になるんだけど…」
ふと、グアバの後に来るもう一人の攻略対象者の顔が頭に浮かびポケットに入れていた携帯を取り出す。
「後で、聞いてみるか」
まだ連絡が一切無い事を確認し携帯をポケットに戻すと右手首に着けていた腕時計を見る。
「今はとりあえず、次のカフェイベントがある時間までどう暇を潰すかなんだよね。んー、どうしよう?今から家に帰るとしたら時間が掛かるから駄目だし…」
「…あー!?居た!桃…っ!」
ん?
突然、聞こえた自身の名前を叫ぶ声に振り返ると全速力で此方に向かって走って来る金髪ロングに淡いピンクを基調とした花柄のワンピースにデニムのジャケットを羽織り白いサンダルを履いた小柄な少女の姿に目を丸くする。
誰?
「やっと見つけた!桃」
パシッ
「えっ、ちょっと待っ‥」
目の前まで来るなり腕を引きそのまま走り出す少女に何が何だか分からずにいると、ふと背後から複数の足音と叫び声が耳に届いた。
「待ってよー!一緒にご飯でもどうかなー?」
「何を言っているんだ!?あの子とご飯を食べるのは俺だ!」
「お前より俺の方があの子に合ってるんだよ!お前には不釣り合いだ!」
「ふざけんなっ!?俺の方がお似合いだっつーの!」
何あれ…?
背後でいがみ合う複数の男性達の姿に首を傾げると、その元凶である腕を引き走る目の前の少女に再度視線を向ける。
この子、何者…?
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これからも気長に待っておりますので、投稿頑張って下さい!
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そう言って頂けて嬉しい限りです。励みになります(*^^*)
執筆の経過によって基本更新日から一日ずれる可能性もありますが基本近況をお知らせした日から五日後に更新致しますので、それまでしばらくお待ち下さいm(_ _)m
林檎のツンデレの可愛さは暖かな目で見守りながらもニヤける可愛さですね(笑)
そう言って頂けると励みになります、嬉しい限りです。
ありがとうございますm(_ _)m
林檎は書いていて可愛いなーと思ってしまいます(笑)