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二章 《教育編》~夏の誘い~
無意識な手はご褒美の証?
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期末テスト期間の怒涛な四日間は桜桃 凌牙による鬼のスパルタ指導のお陰で今までで一番の手応えがあった。そして、最後の五日目は一般クラスで普通科の生徒達は通常の授業を四時間受け週末明けのテスト結果を祈るのみとなった。
「んー!久しぶりに安眠出来た気がする」
両手を組み真上に突き上げ背伸びをすると久しぶり来た様なそんな懐かしさを抱く周りの街並みに目を輝かせた。
たまに帰っては来ているけどテスト明けだと久しぶり感が凄いな
登校日ではない週末や長期休暇期間になると寮住みの生徒達は実家に帰省する者も多く、桃もたまに帰省しては母に会いに行っていた。
いつもより長くはいられないけど、母に会えるだけでも嬉しい
週末でも梅木 ライチとのプール練習がある為いつもより実家に長居することが出来ず一泊だけし翌日の朝には学校に戻る予定だ。故に、今日は梅木 ライチとのプール練習を済ませた後直ぐに実家近くの商店街へと直行したのだった。
そういえば昔、ここに棗 杏子とおつかいをしたんだよな
今となっては昔の話だが当時、十三歳だった棗 杏子と五歳児だった自身の面影が商店街の街並みの中を歩く兄妹と重なった。
あの時のおつかいは地獄だった
終始何処に行くか分からない棗 杏子の方向音痴に途中ヒロインである星七 苺との接触、福引きでの抱き合い等…思い出すだけでも嫌な記憶でしかなかった。
…ん?あれって…‥
兄妹の先を歩く人影に既視感を覚え目を凝らす。
緑色の髪に所々跳ねている寝癖…もしかして、棗 杏子?
後ろ姿から推測しても髪型のみならず背格好も歩き方も棗 杏子に良く似ており目を丸くするが、ふとある疑問が浮かび思考が冷静なる。
いや、ここに棗 杏子が現れた事は彼が留学から帰って来て以来は一度もない筈だ
高校に入ってすぐの頃から今に至るまでたまに帰省する際に棗 杏子の母親と交流のある母には隣の棗 杏子が帰って来ていたかどうかを毎回聞いては来ていないという言葉を聞いていた。それ故に、今になって実家近くの商店街に居るのは異様でしかなかった。
ブー…ブー…ブー…
棗 杏子らしい人影を追いかけながら突然鳴った携帯を取り出し通話ボタンを押し耳に当てると甲高い声が耳に響いた。
『お姉様っ!今何処にいらっしゃるんですの!!?まさか、ココナに隠れて国光 林檎とお会いになってるんですかっ!!?』
あ…‥
ココナの声に方目を瞑った拍子に商店街の角を曲がった棗 杏子に慌てて追いかけるがその姿はどこにも見当たらなかった。
やっぱり人違い…?
『お姉様?聞いているんですのっ!!?』
「只今、この電話は実家に帰省している為お出になることが出来ません」
プッ…
「はぁ…‥」
ココナの電話を切ると深い溜息を吐いた。
「期末テストが始まってからずっとココナからの電話や張り込みが酷いんだけど、何で?」
ココナのいつにも増してストーカー化している行動に何も知る由もない桃は首を傾げるしかなかった。
*
「次~!星七 苺さん!」
「は~いっ!」
束の間の休みがあった週末が明け待ちに待っていた期末テストの解答用紙の返却日となった。一つの授業が終わる度に返却された解答用紙は良くも悪くも生徒達の成績に加算され現在、ホームルームの時間に最後の解答用紙が棗 杏子の手によって返却中であった。
「良く頑張りました~!」
「わぁっ!?これも上がってる~!ありがとう、棗先生っ!」
棗 杏子から採点済みの解答用紙を嬉しそうに受け取るヒロインこと星七 苺の姿を見ながら桃の鼓動は緊張で高鳴っていた。
これが最後…どうか、どうか上がっていますように…‥
「次~!星野 桃さん!」
来た…っ
苺の様に元気な返事はせず無言でスタスタと教卓の前まで行くと手を差し出し無表情のまま解答用紙を受け取る。
「良く頑張りました~!」
っ…よしゃっ!全教科赤点回避!成績も今までの中で最高成績!…と言ってもモブなりの平均点だけど
今まで返却された解答用紙は全て赤点はなく今まで以上の成績になったが、それはあくまでモブキャラらしい平均点のほんの上といったところでしかなかった。
モブキャラの壁は厚すぎる
どんなに頑張ろうとこの世界では主役達より成績が上がる事も並ぶ事も出来ないモブキャラの壁を感じほんの少しの期待は淡くも崩れ落ちた。
でも、赤点回避も成績向上も達成出来た事だし桜桃 凌牙への面子も保たれるだろう
採点済みの解答用紙を手に安堵していると、全ての解答用紙を返却し終えた棗 杏子が口を開いた。
「皆、良く頑張ったね~!だけど、今回赤点を取ってしまった人は明日行われる水泳大会のボランティアをしてもらうから忘れないでね!」
今回は赤点ではないから関係ないな
水泳大会のボランティアとは進行を取り締まる生徒会のサポートを含め終わった後のプール清掃をしなければならない。だが、赤点者だけでは人数が足りない為毎年希望者を募るのだが皆プール清掃が嫌すぎてやりたがらないので少ないのが現状だった。
「あ、そうそう!テスト結果の順位が職員室横に貼られているから良ければ行って見てねっ!」
順位表があるのを忘れていた。まぁ、赤点ではないし他の攻略対象者達の成績も気になるから行ってみる価値はあるな
攻略対象者達の成績が乙女ゲームと同じか気になりホームルームが終わったら行こうと心の中で決めた。
「じゃあ、今日はこれで終わり!皆、気をつけて帰るんだよ~!」
「”は~い!!”」
鞄を片手に席を立ち皆が動く中を軽々と通り抜けドアの前まで行くと、それを止めるように背後から声が掛かった。
「星野 桃さん、ちょっと待って…っ」
…?
棗 杏子の声に足を止め振り返るとふわっと甘酸っぱい杏の香りと共に緑色の柔らかな髪が頬を掠めた。
っ…
左側は生徒名簿で隠され右側は棗 杏子の顔が至近距離にある状況に身動きが取れずに居ると右耳に囁くような声が吹き込まれた。
「抜き打ちテストで赤点を取ったもものんはボランティア強制参加ね」
は?
思わず反論しようと首を動かしたと同時に棗 杏子が離れ一瞬の拘束はあっさりと解放された。
「抜き打ちテストの罰はもう無効のは‥」
「宜しくね、星野 桃さん…?」
イラッ…
生徒名簿を片手にヒラヒラと手を振り去って行く棗 杏子に対し無情なまでの苛立ちを覚えたのは言うまでもないだろう。
*
ホームルーム後、職員室に向かうと既に沢山の生徒で埋め尽くされ順位表を確認するには困難な状況になっていた。
んー、どうしたものか…?小柄な体格を活かして通り抜けるとしたらやっぱりあれしか…
意を決して人混みの中に飛び込むとあっという間に足が宙に浮き流される様に徐々に前へ進んで行った。
これぞ、流されるがままに行く…的な?
余計な力を使うより百倍は良い方法だと流されながら染み染みと思った。
「…っと、ふぅー…‥」
数分後、何とか順位表の前へと辿り着き大きく貼りだされている順位表を凝視する。
学年から見ると…
三年
・一位、柿本 蜜柑
・二位、梅木 ライチ
・三位、鳳梨 グアバ
二年
・一位、木通 檸檬
・二位、桜桃 凌牙
・三位、桜桃 小豆
・四位、星七 苺
・五位、小堺 瓜
一年
・一位、国光 林檎
・七十一位、白波 ココナ
ふむふむ、総合順位は…
・一位、柿本 蜜柑
・二位、木通 檸檬
・三位、桜桃 凌牙
・四位、梅木 ライチ
・五位、桜桃 小豆
・六位、国光 林檎
・七位、鳳梨 グアバ
・八位、星七 苺
・九位、小堺 瓜
・二百三位、白波 ココナ
見事に乙女ゲーム通りで良かった。本当に。
学科抜きでの基本教科だけの正当な順位表に生徒達の実力が綺麗に浮き彫りに見えた。
ちなみに、私の成績は学年で三十二位・総合で百五十位だった。モブキャラらしい実に平均的な成績だ。
モブキャラの厚い壁を実感しながら鞄を抱え直し未だに生徒達で込み合っている中に再度飛び込んだ。
次は、梅木 ライチとのプール練習に行かないと…
「…‥くん?」
「…‥」
「ねぇ、れ~くんってば…っ」
グイッ‥
「っ…‥あ、ごめん何?」
苺に腕を引っ張られようやく気付いた檸檬は苦笑い零した。
「もうっ!今回も順位表同じだったねって話してたのに全然聞いてないんだもん!」
「ごめん、ちょっと考え事してて気づかなかった」
本当は少し見蕩れてただけなんだけどね
順位表の前で不意に通り過ぎた銀色の綺麗な長い髪に思わず目が奪われその人物を視線で追いかけようとしたが直ぐに人混みの中へと消えてしまったのだった。
*
「はぁ…疲れた。抜け出すだけで体力使う」
人混みの中を流される様に何とか抜け出せた桃は中央舎一階の温室プール近くまで来ていた。
「これからまた体力使わないといけな‥」
グイッ‥
「わっ!?」
突然何者かに首元の襟を掴まれ一瞬足が宙に浮き直ぐに掴む手が離された。
「俺に報告なしで何処に行くつもりだ?」
この声は…
冷たく放たれた声に振り返ると赤髪に栗色がかった茶色い瞳を持つ桜桃 凌牙が立っていた。
「もしかして、期末テストの解答用紙の事?」
「それ以外に何がある?」
あるわけないですよね
「報告は後でもいいかなって思ってたから…」
返答しながら鞄の中から全ての採点済みの解答用紙を取り出し差し出す。
「はい、どうぞお納め下さい」
自信満々に採点済みの解答用紙を差し出す桃に眉間に皺を寄せながら凌牙は受け取ると中身を見るなり皺が益々強くなった。
あれ?何故?
「お前…あんなに教えたのにこれくらいの点数しか取れなかったのか?」
「これでも頑張って限界だったというか…」
文句があるならこの世界のモブキャラの厚い壁に言って欲しい
「何が限界だ?ここも何回も教えた所だろうが。ここでミスるなとも言ったよな?あとこの問題は…」
そうは言ってもどうしようも…
「っ…!?」
「この数学の方程式も教えた通りに何故書いてない?この英文も何回も…」
「っ…ス、ストップ…」
「は?聞いてるの‥か…‥」
「言動と行動が合ってない…っ」
説教中に突然伸びた無骨な大きな手が頭に置かれるなり銀色の髪がくしゃくしゃに撫でられ寝癖より酷い有様になっていた。
「っ…‥」
あれ?
目を見開くなり直ぐに背を向けた凌牙の反応に首を傾げる。
「もしかして、無意識だった…?」
「っ…煩い、忘れろ」
背後から見える赤くなった耳にこっちまで恥ずかしくなり妙にいたたまれない空気になってしまった。
っ…困ったな、こんな展開予想してなかった
「返す」
「あ、うん」
背を向けながら解答用紙を差し出す凌牙に戸惑いがちに受け取ると突き放すような声が掛けられた。
「俺とお前の関係もこれっきりだ。前にも言ったが、これ以上俺達には関わるな」
「あ、ちょっと写真…」
背を向けたまま早足で行ってしまった凌牙に一番言いたかった言葉だけがその場に残された。
「写真を削除してもらうはずが…‥」
桃はくしゃくしゃになった髪に触れると呆然とその場に立ち尽くした。
…‥‥っ、何であんな事を…
桃から早く遠ざかる為に早足で廊下を歩きながら凌牙は心の中で自問自答をしていた。
無意識だと…?俺があいつの髪を撫でるなんて有り得ない行為だ
唇を噛み締めながらも脳裏に浮かぶ戸惑いがちに撫でていた手に触れる桃の姿が離れず更に苛立ちが募る。
そういえば、写真を削除するんだったな…
桃との約束を思い出しふと足を止めるとポケットから携帯を取り出し桃のボールペンのインクを頬に付けたまま突っ伏して眠る写真を表示し削除ボタンを出す。
「‥ふっ…‥」
少しの間の末、写真を前に小さく笑みを浮かべた凌牙の指先が押すのは削除の文字ではなかった。だが、その行動の意味を凌牙はまだ知る由もない。
「んー!久しぶりに安眠出来た気がする」
両手を組み真上に突き上げ背伸びをすると久しぶり来た様なそんな懐かしさを抱く周りの街並みに目を輝かせた。
たまに帰っては来ているけどテスト明けだと久しぶり感が凄いな
登校日ではない週末や長期休暇期間になると寮住みの生徒達は実家に帰省する者も多く、桃もたまに帰省しては母に会いに行っていた。
いつもより長くはいられないけど、母に会えるだけでも嬉しい
週末でも梅木 ライチとのプール練習がある為いつもより実家に長居することが出来ず一泊だけし翌日の朝には学校に戻る予定だ。故に、今日は梅木 ライチとのプール練習を済ませた後直ぐに実家近くの商店街へと直行したのだった。
そういえば昔、ここに棗 杏子とおつかいをしたんだよな
今となっては昔の話だが当時、十三歳だった棗 杏子と五歳児だった自身の面影が商店街の街並みの中を歩く兄妹と重なった。
あの時のおつかいは地獄だった
終始何処に行くか分からない棗 杏子の方向音痴に途中ヒロインである星七 苺との接触、福引きでの抱き合い等…思い出すだけでも嫌な記憶でしかなかった。
…ん?あれって…‥
兄妹の先を歩く人影に既視感を覚え目を凝らす。
緑色の髪に所々跳ねている寝癖…もしかして、棗 杏子?
後ろ姿から推測しても髪型のみならず背格好も歩き方も棗 杏子に良く似ており目を丸くするが、ふとある疑問が浮かび思考が冷静なる。
いや、ここに棗 杏子が現れた事は彼が留学から帰って来て以来は一度もない筈だ
高校に入ってすぐの頃から今に至るまでたまに帰省する際に棗 杏子の母親と交流のある母には隣の棗 杏子が帰って来ていたかどうかを毎回聞いては来ていないという言葉を聞いていた。それ故に、今になって実家近くの商店街に居るのは異様でしかなかった。
ブー…ブー…ブー…
棗 杏子らしい人影を追いかけながら突然鳴った携帯を取り出し通話ボタンを押し耳に当てると甲高い声が耳に響いた。
『お姉様っ!今何処にいらっしゃるんですの!!?まさか、ココナに隠れて国光 林檎とお会いになってるんですかっ!!?』
あ…‥
ココナの声に方目を瞑った拍子に商店街の角を曲がった棗 杏子に慌てて追いかけるがその姿はどこにも見当たらなかった。
やっぱり人違い…?
『お姉様?聞いているんですのっ!!?』
「只今、この電話は実家に帰省している為お出になることが出来ません」
プッ…
「はぁ…‥」
ココナの電話を切ると深い溜息を吐いた。
「期末テストが始まってからずっとココナからの電話や張り込みが酷いんだけど、何で?」
ココナのいつにも増してストーカー化している行動に何も知る由もない桃は首を傾げるしかなかった。
*
「次~!星七 苺さん!」
「は~いっ!」
束の間の休みがあった週末が明け待ちに待っていた期末テストの解答用紙の返却日となった。一つの授業が終わる度に返却された解答用紙は良くも悪くも生徒達の成績に加算され現在、ホームルームの時間に最後の解答用紙が棗 杏子の手によって返却中であった。
「良く頑張りました~!」
「わぁっ!?これも上がってる~!ありがとう、棗先生っ!」
棗 杏子から採点済みの解答用紙を嬉しそうに受け取るヒロインこと星七 苺の姿を見ながら桃の鼓動は緊張で高鳴っていた。
これが最後…どうか、どうか上がっていますように…‥
「次~!星野 桃さん!」
来た…っ
苺の様に元気な返事はせず無言でスタスタと教卓の前まで行くと手を差し出し無表情のまま解答用紙を受け取る。
「良く頑張りました~!」
っ…よしゃっ!全教科赤点回避!成績も今までの中で最高成績!…と言ってもモブなりの平均点だけど
今まで返却された解答用紙は全て赤点はなく今まで以上の成績になったが、それはあくまでモブキャラらしい平均点のほんの上といったところでしかなかった。
モブキャラの壁は厚すぎる
どんなに頑張ろうとこの世界では主役達より成績が上がる事も並ぶ事も出来ないモブキャラの壁を感じほんの少しの期待は淡くも崩れ落ちた。
でも、赤点回避も成績向上も達成出来た事だし桜桃 凌牙への面子も保たれるだろう
採点済みの解答用紙を手に安堵していると、全ての解答用紙を返却し終えた棗 杏子が口を開いた。
「皆、良く頑張ったね~!だけど、今回赤点を取ってしまった人は明日行われる水泳大会のボランティアをしてもらうから忘れないでね!」
今回は赤点ではないから関係ないな
水泳大会のボランティアとは進行を取り締まる生徒会のサポートを含め終わった後のプール清掃をしなければならない。だが、赤点者だけでは人数が足りない為毎年希望者を募るのだが皆プール清掃が嫌すぎてやりたがらないので少ないのが現状だった。
「あ、そうそう!テスト結果の順位が職員室横に貼られているから良ければ行って見てねっ!」
順位表があるのを忘れていた。まぁ、赤点ではないし他の攻略対象者達の成績も気になるから行ってみる価値はあるな
攻略対象者達の成績が乙女ゲームと同じか気になりホームルームが終わったら行こうと心の中で決めた。
「じゃあ、今日はこれで終わり!皆、気をつけて帰るんだよ~!」
「”は~い!!”」
鞄を片手に席を立ち皆が動く中を軽々と通り抜けドアの前まで行くと、それを止めるように背後から声が掛かった。
「星野 桃さん、ちょっと待って…っ」
…?
棗 杏子の声に足を止め振り返るとふわっと甘酸っぱい杏の香りと共に緑色の柔らかな髪が頬を掠めた。
っ…
左側は生徒名簿で隠され右側は棗 杏子の顔が至近距離にある状況に身動きが取れずに居ると右耳に囁くような声が吹き込まれた。
「抜き打ちテストで赤点を取ったもものんはボランティア強制参加ね」
は?
思わず反論しようと首を動かしたと同時に棗 杏子が離れ一瞬の拘束はあっさりと解放された。
「抜き打ちテストの罰はもう無効のは‥」
「宜しくね、星野 桃さん…?」
イラッ…
生徒名簿を片手にヒラヒラと手を振り去って行く棗 杏子に対し無情なまでの苛立ちを覚えたのは言うまでもないだろう。
*
ホームルーム後、職員室に向かうと既に沢山の生徒で埋め尽くされ順位表を確認するには困難な状況になっていた。
んー、どうしたものか…?小柄な体格を活かして通り抜けるとしたらやっぱりあれしか…
意を決して人混みの中に飛び込むとあっという間に足が宙に浮き流される様に徐々に前へ進んで行った。
これぞ、流されるがままに行く…的な?
余計な力を使うより百倍は良い方法だと流されながら染み染みと思った。
「…っと、ふぅー…‥」
数分後、何とか順位表の前へと辿り着き大きく貼りだされている順位表を凝視する。
学年から見ると…
三年
・一位、柿本 蜜柑
・二位、梅木 ライチ
・三位、鳳梨 グアバ
二年
・一位、木通 檸檬
・二位、桜桃 凌牙
・三位、桜桃 小豆
・四位、星七 苺
・五位、小堺 瓜
一年
・一位、国光 林檎
・七十一位、白波 ココナ
ふむふむ、総合順位は…
・一位、柿本 蜜柑
・二位、木通 檸檬
・三位、桜桃 凌牙
・四位、梅木 ライチ
・五位、桜桃 小豆
・六位、国光 林檎
・七位、鳳梨 グアバ
・八位、星七 苺
・九位、小堺 瓜
・二百三位、白波 ココナ
見事に乙女ゲーム通りで良かった。本当に。
学科抜きでの基本教科だけの正当な順位表に生徒達の実力が綺麗に浮き彫りに見えた。
ちなみに、私の成績は学年で三十二位・総合で百五十位だった。モブキャラらしい実に平均的な成績だ。
モブキャラの厚い壁を実感しながら鞄を抱え直し未だに生徒達で込み合っている中に再度飛び込んだ。
次は、梅木 ライチとのプール練習に行かないと…
「…‥くん?」
「…‥」
「ねぇ、れ~くんってば…っ」
グイッ‥
「っ…‥あ、ごめん何?」
苺に腕を引っ張られようやく気付いた檸檬は苦笑い零した。
「もうっ!今回も順位表同じだったねって話してたのに全然聞いてないんだもん!」
「ごめん、ちょっと考え事してて気づかなかった」
本当は少し見蕩れてただけなんだけどね
順位表の前で不意に通り過ぎた銀色の綺麗な長い髪に思わず目が奪われその人物を視線で追いかけようとしたが直ぐに人混みの中へと消えてしまったのだった。
*
「はぁ…疲れた。抜け出すだけで体力使う」
人混みの中を流される様に何とか抜け出せた桃は中央舎一階の温室プール近くまで来ていた。
「これからまた体力使わないといけな‥」
グイッ‥
「わっ!?」
突然何者かに首元の襟を掴まれ一瞬足が宙に浮き直ぐに掴む手が離された。
「俺に報告なしで何処に行くつもりだ?」
この声は…
冷たく放たれた声に振り返ると赤髪に栗色がかった茶色い瞳を持つ桜桃 凌牙が立っていた。
「もしかして、期末テストの解答用紙の事?」
「それ以外に何がある?」
あるわけないですよね
「報告は後でもいいかなって思ってたから…」
返答しながら鞄の中から全ての採点済みの解答用紙を取り出し差し出す。
「はい、どうぞお納め下さい」
自信満々に採点済みの解答用紙を差し出す桃に眉間に皺を寄せながら凌牙は受け取ると中身を見るなり皺が益々強くなった。
あれ?何故?
「お前…あんなに教えたのにこれくらいの点数しか取れなかったのか?」
「これでも頑張って限界だったというか…」
文句があるならこの世界のモブキャラの厚い壁に言って欲しい
「何が限界だ?ここも何回も教えた所だろうが。ここでミスるなとも言ったよな?あとこの問題は…」
そうは言ってもどうしようも…
「っ…!?」
「この数学の方程式も教えた通りに何故書いてない?この英文も何回も…」
「っ…ス、ストップ…」
「は?聞いてるの‥か…‥」
「言動と行動が合ってない…っ」
説教中に突然伸びた無骨な大きな手が頭に置かれるなり銀色の髪がくしゃくしゃに撫でられ寝癖より酷い有様になっていた。
「っ…‥」
あれ?
目を見開くなり直ぐに背を向けた凌牙の反応に首を傾げる。
「もしかして、無意識だった…?」
「っ…煩い、忘れろ」
背後から見える赤くなった耳にこっちまで恥ずかしくなり妙にいたたまれない空気になってしまった。
っ…困ったな、こんな展開予想してなかった
「返す」
「あ、うん」
背を向けながら解答用紙を差し出す凌牙に戸惑いがちに受け取ると突き放すような声が掛けられた。
「俺とお前の関係もこれっきりだ。前にも言ったが、これ以上俺達には関わるな」
「あ、ちょっと写真…」
背を向けたまま早足で行ってしまった凌牙に一番言いたかった言葉だけがその場に残された。
「写真を削除してもらうはずが…‥」
桃はくしゃくしゃになった髪に触れると呆然とその場に立ち尽くした。
…‥‥っ、何であんな事を…
桃から早く遠ざかる為に早足で廊下を歩きながら凌牙は心の中で自問自答をしていた。
無意識だと…?俺があいつの髪を撫でるなんて有り得ない行為だ
唇を噛み締めながらも脳裏に浮かぶ戸惑いがちに撫でていた手に触れる桃の姿が離れず更に苛立ちが募る。
そういえば、写真を削除するんだったな…
桃との約束を思い出しふと足を止めるとポケットから携帯を取り出し桃のボールペンのインクを頬に付けたまま突っ伏して眠る写真を表示し削除ボタンを出す。
「‥ふっ…‥」
少しの間の末、写真を前に小さく笑みを浮かべた凌牙の指先が押すのは削除の文字ではなかった。だが、その行動の意味を凌牙はまだ知る由もない。
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異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
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