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二章 《林間合宿編》

深夜のスワンは水の中

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フワフワとする感覚にそのままおちていってもいいと思ってしまいそう…‥そして、微かに香る檸檬の…

「香り…?」

開けたくなかったまぶたを開けた瞬間飛び込んできたのはイケメン好きなら喜びそうな、私にとってはアホ面極まりないが至近距離にあった。しかも、約二十センチの距離で目を閉じ唇を近づけようとするサービス付きで。

「い……イヤァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

バチンッ!!!

「いでっ!?」

迫る気持ち悪い顔に本気のビンタをし退治するとすぐさま彼から距離をとった。

「はぁ…はぁ……気持ち悪い!近づかないで!この共犯者!!」

「え、共犯?」

バンッ!!!

そして、精一杯の声で叫び私はその場から全速力で‥否、周りから見たら遅い走りなのだがとにかく今までで一番の速力で走り逃げ出したのだった。

そして、ビンタを食らわされ普通なら言われる事も無い言葉を言われ残された木通 檸檬はヒリヒリと痛む頬をおさえ呆然と固まっていた。

「共犯って一体?」

…コンコン

「おや?檸檬、もう帰っていたのですか?」

「蜜柑先輩」

平然とカップのコーヒーを飲みながら首を傾げる柿本 蜜柑の登場に意識が我に返る。

「さっきまでも…女子生徒がここにいたんだけど、ビンタ食らわされてダメージ大の酷い言葉三個も述べられて凄い勢いで出て行ったんだけど蜜柑先輩何か知らない?」

蜜柑に対して桃の名前をあえて出さず女子生徒と言い直した。理由は、桃と関係がある事をバレたくなかった為である。

「女子生徒…ですか?私にはさっぱり分かりかねますね。檸檬のファンがこっそりまぎれ込んだとかでしょう」

「ファンでは…ううん、そうかも」

ファンじゃないと言いかけた言葉をすぐ様言い直しファンであると固定した。

ここはファンだと固定した方が都合がいいからね。でも、蜜柑先輩と桃ちゃん何か関係があるとか‥?まさかね…

若干の引っ掛かりを感じつつも蜜柑に聞く事はなかった。

「………これはこれでよしとしますか」

「蜜柑先輩?何か言いました?」

「いえ、何も……ふふふ」

 *

檸檬から脱兎だっとのごとく逃げ出した桃は現在ココナの胸の中に埋もれていた。

「お姉様、少しは元気になりましたか?」

「ううん‥…まだ」

上目遣いで小さくつぶやいた。

「お、お姉様……可愛い~!」

めいいっぱいに抱き締めてくるココナにいつもなら蹴飛ばし離すが今はそんな気分にはなれなかった。

「珍しくお姉様がしおらしいのが可愛いくてとっても最高なのですが、こんな風になった原因って何ですの?」

「……」

「まぁ、言いたくないのならいいのですけど…その代わり可愛いお姉様を堪能たんのう出来ますし」

言えるはずもない…つい攻略対象者である柿本 蜜柑のマッサージで寝落ちし起きた時には何故か木通 檸檬の下敷きになっていてそこから逃げ出したなんて。失態でしかない。

「あ、そう言えば!お姉様が不在の間に国光 林檎が訪ねてきまして‥」

「は?国光 林檎が!?」

ゴンッ!!!

「っ~~~~~~!!!」

余りの驚きでつい立ち上がりかけ頭がココナのあごに直撃した。

「あ、ごめん。それより、国光 林檎が来たってどういう事?」

「それよりって…もっと心を込めて謝ってくださいよ~!」

「ごめんごめんって。ねぇ、国光 林檎は何の用事だったの?」 

「はぁ…もういいです。国光 林檎が急に来てこれを渡して帰りました」

国光 林檎が渡したと言う袋をココナから受け取り中身を見てみるとそこには沢山の絆創膏や包帯など傷に効くものばかりがあった。

「何これ?」

「さぁ?私にも分かりかねますわ。それに一緒に入っていたアップルパイも意味がさっぱり…むぐっ!?」

「アップルパイってどういう事かしら?ココナさん?」

袋には入っていない物の名前にすかさず頬を片手ではさみ問いただす。

「さ、さぁ?なんのころかわかりゅませにゅ」

「そう?なら、あなたのお腹なら分かるわね」

「へ?」

「ココナ、まだ夕食まだでしょ?食べてみたら分かるじゃない。かで」

「うっ……すりゅませゅ…」

言い返す言葉もなくなり素直に謝るココナに肩を落とし渋々頬を挟んでいた手を離す。

「次はないからね?」

「はい…」

項垂うなだれるココナの頭を撫でながら内心思った。

…ていうか何でアップルパイ?こういうのは普通ヒロインにあげるものでしょうが!と。

 *

登山とは別の道脇には森林に囲まれた大きな湖が存在する。そこには観光者用のスワンボートがありそれに乗りカップルなどが楽しんだりしデートスポットにもなっているがあえてスワンボートではなく普通の手ぎボートを選ぶカップルも中にはいる。理由としては、手漕ぎで頼りになる男のアピールになる・少しでも揺れたら落ちるかも知れないと言うドキドキ感にそれを利用したハプニングハグなどそんな馬鹿げた理由が述べられている。んで、それを利用したデートがしたいというバカが現在進行形で只今目の前にいるのだった。

「あの、もう少し早く漕いで貰えませんか?」

「う、うるさいっ!これでも全力だ!」

そう言いつつも傍から見たらプルプル震える手でスローモーション速度で漕ぐ実に実~に頼りない男しか見えない(仮)暴君王子ことヘタレ王子の鳳梨 グアバは只今ひたすらボートを漕いでいる。何故、このようなバカな所業に付き合う羽目になったかと言うと既に皆が寝静まっている深夜二十三時に突然メールが来ては明日ヒロインである星七 苺とボートに乗ってデートするからその為に練習に付き合って欲しいとの事だった。それで、即座に拒否しようと思ったがふと思い出してしまったのだ。鳳梨 グアバのイベントを。その鳳梨 グアバのイベントの内容はメールの通り皆がキャンプファイヤーに夢中になっている間にヒロインとグアバはこっそり抜け出し二人っきりで湖でボートに乗りデートする。それはとてもとても甘いイベントなのだ。理由はボートでのハプニングである。かっこよくボートを漕ぎ頼りがいのあるグアバに対しヒロインは湖に舞うほたるに手を伸ばし体勢を崩し最悪にも湖に落ちてしまう。だが、そのおかげで最大のラブイベントが発生するのだ。なのになのに…このヘタレ王子といったら…

目の前のプルプル震えながらボートを漕ぐヘタレ王子に溜息が出る。

「はぁ…そんなんでボートデートなんて成功すると思っているんですか?」

「だ、だからこうやって練習しているのだろうが!どアホ!」

アホはどっちだよ

「あの、一つ質問いいですか?」

「質問?別に構わないが」
 
「どうしてそこまで頑張るんですか?会長はヘタレで弱虫なのにここまで頑張って何でだろうって」

「苺が好きだからに決まってるだろ」

「好きだから頑張るって事ですか?」

「好きに理由なんているか。だがまぁ、俺があいつにこだわるのは昔あいつが弱虫な俺に言ったんだ。”男なら強引に行かなきゃダメだ。じゃなきゃ好きなものも手に入らない”って」

それって…
 
グアバの言葉に昔幼かったグアバ少年に言った言葉を思い出す。

あの時私が彼に言った言葉はヒロインが言ったと言う言葉と同じだ。

「あいつのその言葉で俺は勇気を貰ったんだ。そして、あいつを好きになった」

ああ…この人ヘタレのくせに本気なんだ

「会長」

「何だ?」

「私、会長の恋応援します」

「へ?」

ポチャン…

「うわぁっ!?」

間抜け面をした会長が最悪な事に持っていたオールを落としてしまった。

「か、会長動かないでっ!きゃっ!?」

ガタッ!

オールが落ちた拍子に動いた会長のせいでボートが揺れ前のめりに体勢が崩れた。
 
「おい、大丈夫か?」

「っ…‥危なかっ…‥‥」

会長の声に返事をしようと顔をあげた瞬間、目と鼻の先に会長の顔があり現状抱き締められてるのだと察した後数秒呼吸と体が止まる。

え、何これ?目と鼻の先に会長?それに抱き締められてるみたいな体勢だし…‥‥

「ギャァァァァァァァッ!!!」

私は全てを理解した瞬間、パニックになり直ぐに離れた。だが、それが馬鹿な行動だった。

「お、おいっ!?危なっ…‥」

引き止める会長の声はむなしく空中に消え、私はボートから湖へと落ちていった。

バシャンッ!!!

「…‥あのアホっ!」















    
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