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二章 “憐れみ掠する地獄の王”悪鬼編

第28話 千縁の夢と目的

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「……」

「「「「……」」」」

 実況や審判、あとあれは……テレビ局員? の人たちは口を開けたまま固まっている。
 それもそうだ。
 学生最強……どころか日本の探索者全てで見ても最上位に位置する“神童”が負けたのだから。

 成長した“神童”を見にきた国の重鎮お偉いさんたちも、思いもしない結末に指先一つ動かせないでいた。

「勝者……勝者第四学園……宝晶……千縁……」

 大歓声の中、消え入りそうな声で審判は声を捻り出す。

「うおおおおおおお!!!!」

「すげぇ!! お前が学生最強だ!!」

「ばかな!! 第四学園だぞ!? これは大番狂せだ!!」

「ちよ!!」

 外部の、特に非探索者が大盛り上がりする中、ベンチから悠大親友が駆け寄ってくる。

「ん? ああ……終わったぞ」

「ちよ……お前……」

 悠大は何かを言いかけようとして……その言葉を飲み込んだ。

「……いや。なんでもない」

「そういうの気になるからやめて?」

「……今日は、パーティだなこりゃ」

 おお……パーティ!! 人生で一度も味わったことのない、俺の夢だ!

「そりゃ楽しみだな!!」

「そんなことより……」

「「兄貴!!」」

 悠大と舞台横で話し込んでいると、三郎たちがベンチから手を振っていた。
 
(あ……試合終わったから帰らなきゃな)

「兄貴ィィィ!!」

「うわっ! うるせえ! もっと静かにしろ!! 鼓膜破れる!」

「千縁君……やってくれたみたいだね」

 俺がベンチに帰ると、ベンチのみんなにもみくちゃにされた。
 見れば、加藤もいるし、花澤生徒会長も目を覚ましたみたいだ。……あと玲奈もいるな。

 玲奈はこんな時にもあまり浮かない顔をしている。
 俺が勝ったのが気に入らないんだろうか?

(せっかく俺が前代未聞の伝説を成し遂げたっていうのに……それは言い過ぎか? まあとにかくちょっとは喜べよ。仮にも親友だったのに)

 しばらくそうして皆に揉まれていると、閉会式のアナウンスが。
 学園長も戻ってきてる途中だろうし、俺たちもそろそろ一旦控え室に戻らなきゃな。

 トイレに行くために、俺が皆と離れた瞬間……一人の影が迫る!

「……誰だ」

(あれ……この人って)

「あんたは……」

「ああ……こんにちは、宝晶君。初めまして……ではないか」

 俺が振り向くと、そこにいたのは赤髪の美人……第一学園長、柏田美波かしわだみなみだった。
 美波という名前とは裏腹に、超強力な火魔法を操る、通称“ 業火の魔女”……彼女がなぜここに? いや、もしかして……

「ああ、そう警戒しないでくれ。まずは優勝おめでとう。私は君に少しだけ話があってきたんだ」

「しらねぇよ」

 俺の物言いに、第一学園長のまゆがピクッと跳ねた。

「俺があんたの戯言を聞くと思うか? どうせ勧誘か……ろくでもねぇことだろ」

「……」

 学園長のプレッシャーが増す。
 俺は無言で構えを取り、どこからともなく二本の短剣を取り出した。

「……ハハハハ!! いやーやっぱりそうだよな! 君は強いし、察しも良いときた!」

「……?」

 第一学園長は急にプレッシャーを引っ込めると、軽く笑って両手を上げた。

「……なんのつもりだ?」

「おお……こわいこわい……また人が変わったかのようなオーラを出すんだな、君は。さっきの鬼とはまた違った凄みだ……いや、そうじゃなくて!」

 学園長は手を差し出して、次の瞬間、とんでもないことを言ってきた。

「神崎を第四学園……ああいや、今は第一学園か? そちらに転校させてもらいたいんだ!」


「……は????」


~~~~~


「それでは、第二十三回、大阪四校学園対抗祭を閉会いたします! それでは、第一学園は前に!」

「はっ!」

 新第一学園学園長である滝上学園長が一歩前に出る。

「……この度、貴校を第一学園とし、大阪ならびに日本の代表校とする。学園生、礼!」

 司会者がそう言うと、俺たちは合わせて頭を下げる。

『おィおィ、千縁の方がつえーだろ。頭を下げるのは他の奴らだ』

「礼儀だよ礼儀。それにここは地獄じゃねぇ、現世だ」

 “悪鬼”……俺の契約者だ。本来はちゃんとした名前があったらしいんだが……ある事情で名を失い弱体化してしまったらしい。
 それでも、地獄では群を抜いて最強の存在である。
 そんな悪鬼の性格は……一言で言うと傲慢。それに尽きる。

 まさしく傲慢中の傲慢、傲慢の王だ。

「それでは最後に、学園を勝利に導いた“革命児”である宝晶千縁ほうしょうちよりさんにインタビューしたいと思います!」

「!!」

 閉会式も終わりに差し掛かったころ、カメラを持った女性が俺を台の上に手招きした。後ろにはいろんな機材を持った人たちがいる。

「ちよ……行ってこいよ。これが、“夢”だったんだろ?」

「悠大……」

 俺は門で力を手に入れて、昔抱いた“夢”は全て叶えると自分に誓った。
 そして、これはその最もたる、最大の“夢”……

(ついにこのに、俺は辿りついたんだな……)

 悠大に後押しされて、俺はスピーチ台に立つ。

「今回、優勝確実とも言われていた黄金世代筆頭、“神童”に勝利したわけですが……今のお気持ちをどうぞ!」

「あー……まずは勝てて良かったという安心感が一番大きいですね」

 俺がチラッと美穂の方を見れば、美穂はこちらを見る気もないようだった。
 負けたことが気に食わないのだろうか。そういえば、最後の方何か気になることを言っていた気が……

「ほうほう! 対戦時、“神童”に対して感じたことも、聞かせてください!」

「それは……」

 シャッターの音だけが鳴り響く中、俺は少し考えて、本音を言った。

「……流石は“天才”だなと思いましたね」

「っ!!」

「やはり、宝晶選手から見ても“神童”は手強かったようですね! それでは、最後に一言!!」

 やたら“神童”と比べたがるテレビスタッフが押し付けるマイクを顔から離して、俺は少し深呼吸する。

(いざテレビで配信されてると考えると、やっぱ緊張するな……)

「その前に、ちょっと良いですか?」

「……?」

「俺は──」

 注目が集まる中、俺はゆっくりと息を吸って、宣言した。

「俺には、探してる人がいる」

「「「「「!!」」」」」

「えぇ!? そ、その人のお名前は……?」

 スクープの気配に、インタビュアーの女性が興奮した声で効果音を流す。

 俺はたっぷりドラム音が鳴り止むのを待ってから、しっかりと聞こえるようにその名を呼んだ。



東城莉緒とうじょうりお──俺はお前に会いに、に来た」
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